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第七章第六話

2012年。県リーグを制し、次なる舞台である「地域リーグ(中国サッカーリーグ)」へ駒を進めたプリズンガーディアン島根。


そこは、各県の代表チームやJリーグ参入を目指す企業チーム、実力派の元プロ選手を擁するクラブがひしめく、県リーグとは比較にならない修羅の舞台だった。


「これまでのようにはいかないぞ。相手は全員、フィジカルも戦術理解度もプロレベルだ」


試合前、門倉オーナーが硬い表情でチームに喝を入れる。


その言葉通り、地域リーグの戦いは過酷を極めた。特にJFL昇格を狙う強豪企業チームは、プリズンガーディアンの得点源である響木蒼生に対し、徹底的な徹底研究とフィジカル重視の対策を講じてきたのだ。


「響木にはヘディングがない! クロスは全てハイボールで処理しろ! 足元にボールを収めさせるな!」


相手チームのベンチから激しい指示が飛ぶ。

相手CB陣は、響木が「エアポケット」へと侵入する動きを警戒し、ペナルティエリア内での地上戦のスペースを組織的なブロックで徹底的に潰しにかかった。さらに、空中戦での競り合いを発生させるため、あえて響木の頭上を狙ったハイボールを幾度となく放り込んでくる。


(空中戦の土俵に引きずり込み、足元のスペースを消す……理にかなった対策だ)


左目の視界と健康を守るため、ヘディングを完全に封印している響木。競り合いに跳ぶことができない響木に対し、相手DFの強烈なボディコンタクトが容赦なく襲いかかる。ピッチ上で倒れ込むシーンが増え、チームも防戦一方に追い込まれる苦しい展開が続いた。


「くそっ……響木さんだけに負担をかけさせるな!」

「泥臭くセカンドボールを拾うんだ!」


公務員として働きながら週末に情熱を燃やす仲間たちが、身体を張って泥臭いタックルを繰り出し、必死にボールを奪い返す。信用金庫マンのサイドアタッカーや、農協職員の巨漢CBが汗と泥にまみれながら繋ぐパス。


その姿を見た響木の瞳に、静かだが苛烈な炎が宿る。


(彼らが繋いでくれたボールだ。ヘディングができないくらいで、俺の牙が鈍ると思うなよ)


後半35分、1点を追う絶望的な状況下で、響木が魅せたのは“BOX THE POACHER”の真骨頂だった。


相手DF陣が「地上戦のスペースを消した」と確信したそのコンマ数秒の油断。

響木は、相手CBがボールの着地点に目を奪われた一瞬の隙(死角)を突き、ペナルティエリアの「外」――バイタルエリアのわずかな隙間へと素早くステップバックした。


「なに……!? 後ろへ下がった!?」


相手DFが予想もしなかったポジション取り。

中盤の熱血ボランチが執念で滑り込みながら出したグラウンダーのパスが、バイタルエリアで完全にフリーとなった響木の足元へと吸い込まれる。


ヘディングでの勝負を捨て、相手のブロックの外側で完璧な「エアポケット」を自ら創り出した瞬間だった。


飛び出してきた相手キーパーと、慌てて寄せようとするDF陣。

響木は走りのストライドを一切崩さず、右足アウトフロントで球筋に強烈なカーブをかけたコントロールシュートを一閃!


ドスッ――!


美しく弧を描いたボールは、キーパーの手をかすめて右サイドネットの内側へと吸い込まれた!


『1 - 1』!


「ゴーッッール!! 響木蒼生!! ヘディング封印の制約を逆手に取った、圧巻の位置取りと至高のミドルシュート!! プリズンガーディアン島根、土壇場で同点に追いつきました!!」


咆哮する仲間たちが響木に飛びつき、ベンチでは門倉オーナーが力強くガッツポーズを突き上げる。


激しさを増す地域リーグの猛者たちを相手に、ヘディング封印という最大の制約を突き破りながら、響木蒼生とプリズンガーディアン島根は着実に勝ち点を積み重ね、ついにJFL昇格を懸けた最終決戦「全国地域サッカーチャンピオンズリーグ(地域CL)」への切符を手繰り寄せるのだった。

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