第七章第五話
2011年シーズン、「プリズンガーディアン島根」の快進撃は島根県社会人サッカーリーグを席巻していた。
アマチュア最高峰の戦術眼と、コンマ数秒の隙間を見逃さない圧倒的なポジショニング。元バロンドーラー・響木蒼生が前線に君臨するチームは、県リーグの対戦相手にとって脅威そのものだった。
相手チームは当然、響木への徹底マークを敷いてくる。激しいボディコンタクトや、複数人での挟み込み。しかし、ヘディングによる空中戦を封印した響木は、競り合いの土俵にすら上がらなかった。
相手CBがボールを目で追い、一瞬の隙を見せたコンマ数秒――。
響木はまるで影のようにその死角へと抜け出し、地を這うようなパスを吸い付くようにトラップすると、ノーモーションの右足でネットを揺らし続けた。
「ヘディングを一切使わないのに、なんで毎回一番危険な場所にいるんだ……!?」
「追いつけない……! 動き出しのタイミングが次元違いすぎる!」
対戦相手の困惑と絶望を余所に、響木のプレイはチーム全体にも大きな化学反応を起こしていた。
「響木の動きを見ろ! やつがスペースを作ったら、そこに飛び込め!」
ベンチから熱い声援を送る門倉オーナー。
響木が相手DF二人を引き連れて「エアポケット」へと潜り込むことで、中盤の熱血ボランチや快速サイドアタッカーの前に広大なスペースが生まれる。響木自身が得点を重ねるだけでなく、周囲の選手たちの潜在能力を引き出すタクトとしても機能し始めたのだ。
連戦連勝。
プリズンガーディアン島根は県リーグを圧倒的な成績で首位独走し、迎えた県リーグ最終節。
引き分け以上で地域リーグ(中国サッカーリーグ)昇格決定戦への切符を手にする一戦で、プリズンガーディアンは圧倒的なゴールラッシュを見せる。
後半30分、バイタルエリアでボールを受けた響木が、相手キーパーを引きつけておいて見せたノーステップのヒールパス。飛び込んできた快速サイドアタッカーがダメ押しの4点目を叩き込んだ。
『ピーーーッ! ピーーーッ! ピーーーッ!』
試合終了の笛が秋空に高く響き渡る。
『4 - 0』。
「勝ったぞー! 地域リーグ昇格決定だ!!」
ピッチ上で抱き合い、歓喜を爆発させる選手たち。普段は職場でお堅い業務をこなす仲間たちが、子供のように少年の笑顔を取り戻して抱き合っている。
駆け寄ってきた門倉オーナーが、響木の肩を強く抱きしめた。
「響木、最高のシーズンだった! 県リーグ制覇、そして地域リーグ昇格だ!」
「ええ。ですが門倉、ここまではまだ最初のステップです。僕たちの目指す場所はもっと上ですから」
響木は静かに笑みを浮かべ、汗を拭いながら遠くの空を見上げた。
県リーグを圧倒的な強さで駆け抜けたプリズンガーディアン島根。
しかし、次に待ち受ける「地域リーグ(中国リーグ)」は、各県の覇者やJリーグを目指す本格的な強豪がひしめく。
アマチュアストライカー・響木蒼生とプリズンガーディアン島根の挑戦は、さらなる熱量を帯びて次なるステージへと向かっていく。




