第六章第五話
セリエA第24節。寒風が吹き抜けるスタディオ・デッレ・アルピ。
対峙するのは、鉄壁の守備陣と徹底された組織力を誇る絶対王者。クラブの主将であり、フットボール界の至宝――伝説のファンタジスタにとっても、かつて10番を背負い、栄光と挫折を味わった特別な古巣との一戦だった。
「ファンタジスタの古巣、そして昨季まで僕がスクデットを争った絶対王者……相手にとって不足はありませんね」
響木蒼生が静かにスパイクの紐を結び直すと、ファンタジスタは背後でまとめた髪を揺らし、深く澄んだブルーの瞳でデッレ・アルピのスタンドを見つめた。
「かつてのホームだが、今の僕には世界一のストライカーと、最高の指揮官(頭脳派ボランチ)がいる。彼らに僕たちのフットボールを見せてやろう」
ピッチの中央では、頭脳派ボランチが冷静に中盤の陣形を整えていた。
「絶対王者の組織守備は塞ぎ方が完璧だ。だが、完璧な組織だからこそ、予測不能な天才の閃き(ファンタジスタ)と、一瞬の空間に飛び込むストライカー(響木)の組み合わせには脆い」
主審の長笛が響き、運命の首位攻防戦が幕を開けた。
試合は序盤から絶対王者のクラブが圧倒的なフィジカルと組織的なプレッシングでブレシアを押し込む。前半18分、セットプレーからの力強いヘディングで先制され、デッレ・アルピが白と黒の歓声を炸裂させた。
『0 - 1』。
しかし、クラブのピッチ上に焦りは一切ない。中盤の底で頭脳派ボランチがタクトを振り、相手のプレッシングをダイレクトパスの連続で無力化していく。
そして前半41分、デッレ・アルピの観客全員が息をのむ「共演」が実現する。
自陣深くから頭脳派ボランチが放った、地を滑る20メートルの縦パス。
バイタルエリアで受けたファンタジスタは、襲いかかる相手CBのプレッシャーに対し、背中に目があるかのようなノールックのヒールパスを選択!
相手DF陣の想像を遥かに超える軌道を描いたボールは、ペナルティエリア中央の「エアポケット」へと滑り込む。
ヘディングによる再発リスクを回避するため、空中戦ではなく地上の死角へと影のように抜け出していた響木。
「……捕まえた」
飛び出してきた相手守護神の位置を冷徹に見極めた響木は、走りのストライドを一切崩さず、右足のアウトフロントで頭上を優雅に越すループシュート!
ふわりと浮いたボールが綺麗な弧を描き、左サイドネットへ吸い込まれた!
『1 - 1』!
「ゴーッッール!! 響木蒼生!! デッレ・アルピを沈黙させる圧巻の同点ゴール!! 頭脳派ボランチの組み立て、ファンタジスタの幻影のようなヒールパス、そして響木の冷酷極まりない仕上げ!! 天才たちの共演が王者の防壁を打ち破りました!!」
咆哮するファンタジスタが響木のもとへ駆け寄り、力強く抱きしめ合う。頭脳派ボランチも拍手を送りながら、静かな笑みを浮かべていた。
後半、王者も意地を見せ激しい肉弾戦を仕掛けてくるが、ヘディングを封印しながらも極限まで研ぎ澄まされた響木の足元の技術と動き出し、そしてファンタジスタの魔法のような配球が試合の主導権を渡さない。
『ピーーーッ! ピーーーッ! ピーーーッ!』
勝ち越しこそならなかったものの、アウェイの地で絶対王者相手に『1 - 1』の価値ある引き分け。
試合終了後、デッレ・アルピのサポーターからは、古巣のファンタジスタ、そして圧倒的な存在感を見せた響木とクラブのイレブンに対し、惜しみない拍手が送られていた。




