第五章第十五話
ミラノの街は、文字通り赤と黒の熱狂に染め上げられていた。
セリエA優勝、コッパ・イタリア制覇、そして欧州最高峰を制したUEFAチャンピオンズリーグ優勝。前人未到の「トレブル(三冠)」を達成し、セリエAとCLのダブル得点王に輝いたACミラン(モチーフ)の偉業を祝うため、ドゥオーモ広場からサン・シーロへと続く大通りには、数十万人のサポーターが押し寄せていた。
オープントップの2階建てバスの車上。
ビッグイヤー(CLトロフィー)とスクデット・トロフィーを囲み、選手たちが笑顔で爆竹の煙と紙吹雪が舞う街を見下ろしている。
「おいおいヒビキ! 見ろよこの人出を! 全部お前と俺たちのフットボールに酔いしれてるぜ!」
「闘犬」がシャンパンのボトルを片手に咆哮し、響木蒼生の肩を力強く抱き寄せる。隣では若きレジスタ・ピルロが珍しく穏やかな笑みを浮かべ、マエストロ・ルイ・コスタが優雅にサポーターへ手を振っていた。「国防大臣」ネスタも静かな満足感を漂わせながら、熱狂する群衆を見つめている。
バスがゆっくりとサン・シーロのピッチへと入場すると、超満員のスタンドから地鳴りのような大合唱が巻き起こった。
『ヒ・ビ・キ! ヒ・ビ・キ! ヒ・ビ・キ!』
スタジアムを揺らす自身のコール。
マイクを手にした響木がピッチの中央へ進み出ると、万雷の拍手が夜空に響き渡る。
「僕たちを信じ、最後まで共に戦ってくれたミラニスタの皆さんに心から感謝します。この3つのトロフィーは、チームメイト、スタッフ、そして皆さんの情熱があったからこそ掴み取ることができたものです」
響木が語りかけると、スタジアム中のサポーターが息をのんでその言葉に耳を傾ける。
「ワールドカップ、左目の手術、そしてセリエAという挑戦。険しい道のりでしたが、この誇り高きクラブで頂点に立てたことを心から誇りに思います。……ですが、僕たちの物語はここで終わりではありません。王者として、ストライカーとして、これからもさらなる高みを目指し続けます」
響木がビッグイヤーを夜空高く掲げ上げると、サン・シーロの天井から赤と黒の紙吹雪が降り注ぎ、色鮮やかな花火がミラノの夜空を彩った。
2002年バロンドーラーであり、世界最高峰のストライカーとなった響木蒼生。
仲間たちの歓喜の輪の中心で、彼の澄んだ瞳には、新たな未来へ踏み出す揺るぎない決意と鋭い牙が宿っていた。響木の決断は、またも世界を驚かせる事になる。




