第五章十三話
セリエA第32節。満員のスタディオ・デッレ・アルピは、白と黒の旗と地鳴りのような咆哮に包まれていた。
勝てばその場でスクデット(セリエA優勝)が決まる頂上決戦。クラブが対峙するのは、鉄壁の防衛線と冷酷な勝負強さを誇り、リーグ連覇を狙う絶対王者・ビアンコネーリだった。
「ヒビキ、ここを獲れば二つ目だ。ユーべの守備はセリエAで最も硬いが、お前のコンマ数秒の抜き出しなら必ず穴があく」
「国防大臣」が静かな熱を込めて語りかけ、中盤の底では「闘犬」ボランチが相手の強力な中盤を睨みつけていた。
「ええ、ここで勝ってスクデットも得点王も手に入れます」
2002年バロンドーラー・響木蒼生は、冷徹な瞳で相手の重厚なカテナチオを見つめた。現在セリエA得点ランキングトップを独走する響木にとって、この試合はリーグ得点王を決定づける戦いでもあった。
主審の長笛とともに、セリエA最高峰の首位攻防戦の火ぶたが切って落とされた。
試合は序盤から息の詰まるような戦術戦となった。ビアンコネーリの守備陣は、響木に対して激しいボディコンタクトと完璧なカバーリングを敷き、スペースを徹底的に潰しにかかる。前半15分、相手の鮮やかなセットプレーから頭で押し込まれ、ミラノは先制を許してしまう。
『0 - 1』。
アウェイの地で苦しい展開となるが、ミランの心臓部は全く揺るがない。
「ヒビキ、相手CBは潰しに来るタイミングが早い。ワンクッション置けば一瞬空く」
若きレジスタが静かにボールをセットし、トップ下のマエストロが優雅に頷く。
前半38分、ミランの牙がむき出しになる。
自陣深くで「国防大臣」が完璧なインターセプトでボールを奪うと、即座にレジスタへ。レジスタは相手のプレッシングをキャンディを舐めるような余裕でかわし、地を滑る縦パスを通す。
中央で受けたマエストロが、芸術的なワンタッチで相手CBを引きつけ、ペナルティエリアの「エアポケット」へ極上のスルーパスを刺し込む。
相手CBが一瞬だけボールに目を奪われたそのコンマ数秒――。
響木は相手の死角から影のように抜け出し、完璧なタイミングで進入していた。
「……捕まえた」
バウンドするボールに対し、響木は右足でノーモーションの一閃!
ドスッ――!
ボールが相手守護神の手を掠め、ゴールネット上段へ突き刺さった!
『1 - 1』!
「ゴーッッール!! 響木蒼生!! スーペルコッパ、コッパ・イタリアに続き、スクデット決定戦でも同点ゴール!!“BOX THE POACHER”がデッレ・アルピを沈黙させました!!」
後半に入ると、優勝を手繰り寄せようとする両チームのプライドが真っ向から激突。激しい肉弾戦が繰り広げられる中、後半36分に決着の時が訪れる。
右サイドで相手の攻撃を奪い取った闘犬からボールを受けたレジスタが、黄金の右足からロングフィードを放つ。
ペナルティエリア手前、響木はダイレクトボレーを放つ。!
ドカン――――――!!
GKは一歩も動けずボールは、ゴール右隅へと突き刺さった!!
『2 - 1』!!
「入ったアアアッ!! 響木蒼生!! 本日2ゴール目!! 劇的な勝ち越しゴール!! これで今季セリエAの得点王も決定的なものとしました―――ッ!!」
『ピーーーッ! ピーーーッ! ピーーーッ!』
タイムアップの長笛がデッレ・アルピに響き渡る。
「試合終了!! 『2 - 1』!! ロッソネロ、セリエA優勝達成―――ッ!! そして響木蒼生、セリエA得点王戴冠!!」
ピッチ上で歓喜の輪を作るミランのイレブン。コッパ・イタリアに続く二つ目のタイトル「スクデット」を獲得し、響木自身もセリエA得点王を手中におさめた。
前人未到の「トレブル(三冠)」達成へ向けて、残すはいよいよ欧州の頂点を決めるチャンピオンズリーグ(CL)決勝戦のみとなった。




