第五章第十二話
UEFAチャンピオンズリーグ準決勝。
サン・シーロの夜空を打ち振るう、割れんばかりのアンセムと怒号のような大歓声。
クラブがファイナルへの切符を懸けて激突するのは、白い巨人――“銀河系軍団”と称される絶対的メガクラブ、エル・ブランコだった。
世界最高の司令塔、最凶の怪物ストライカー、イングランドの貴公子、右サイドの悪魔、そして左サイドの悪魔。ピッチの至る所にワールドクラスの才能がひしめく超豪華絢爛な布陣に対し、ミラノイレブンも一切の怯みを見せない。
「ヒビキ、相手は全員が主役のチームだ。だが、攻め込まれている時こそラインが高くなり、背後に広大なスペースが生まれる。お前の主戦場だぞ」
ウォーミングアップ中、「国防大臣」が静かな熱を込めて語りかける。中盤の底では「闘犬」ボランチが「あの銀河系野郎どもを噛み千切ってやる」と荒い息を吐いていた。
「ええ。相手がどれほど豪華であろうと、ゴールを仕留めるのは僕です」
2002年バロンドーラー・響木蒼生は、冷徹な瞳で相手の重厚な防衛線を見つめた。
主審の澄んだ笛の音とともに、世紀のメガクラブ頂上決戦の幕が上がった。
試合序盤、銀河系軍団モチーフのクラブは圧倒的な個人技と華麗なパスワークでミランを押し込む。前半21分、世界最高の司令塔の魔法のようなスルーパスから怪物ストライカーに先制ゴールを許し、アウェイエリアが歓喜に沸いた。
『0 - 1』。
しかし、ミラノの誇る中盤の心臓部は微動だにしない。
「ヒビキ、焦るな。あのラインの裏はガラ空きだ」
若きレジスタが静かにボールをセットし、トップ下のマエストロが優雅に頷く。
前半37分、ミラノの反撃が牙をむく。
自陣深くで「国防大臣」が怪物ストライカーの突破を鮮やかなタックルで阻止すると、ボールはレジスタへ。レジスタは相手の激しい寄せを優雅にいなし、前線へ地を這うような鋭いロングスルーパスを通す。
中央で受けたマエストロが、芸術的なキャンバスを描くように相手CBの注意を自らへ引きつけ、コンマ数秒のタイミングでペナルティエリアの「エアポケット」へ極上のスルーパスを刺し込む。
銀河系軍団のCB陣が一瞬、響木の影を見失った。
「……捕まえた」
響木は相手の死角から滑り出ると、落下してくるボールに対し一切のタメを作らず、右足の一閃!
ドスッ――!
ボールは、左サイドネットの極小の隙間へと突き刺さった!
『1 - 1』!
「ゴーッッール!! 響木蒼生!! サン・シーロを爆発させる冷酷極まりない同点弾!!“BOX THE POACHER”の研ぎ澄まされた嗅覚が、銀河系軍団の防壁を打ち破りました!!」
咆哮をあげる闘犬が猛然と走り寄って響木を抱きかかえ、レジスタとマエストロが満足げな拍手を送る。
後半に入ると、互いの誇りとプライドが真っ向から激突する息詰まる死闘となった。相手もイングランドの貴公子からの鋭いクロスや左サイドの弾丸シュートで攻め立てるが、「国防大臣」ネスタを中心とする堅守が奇跡的なカバーリングでそれをことごとく跳ね返す。
そして後半42分、決着の時が訪れる。
右サイドで相手の攻撃を食い止めた闘犬からボールを受けたレジスタが、黄金の右足からロングフィードを放つ。
ペナルティエリア手前、響木は相手CBと激しく身体をぶつけ合いながらも、巧みなボディコントロールでボールをキープ。相手DF陣が警戒して囲い込もうとしたその一瞬の隙を見逃さず、右足をノーモーションで一閃!
ドカン――――――!!
相手CBの股下を射抜いたシュートが、ゴール右隅へと突き刺さった!!
『2 - 1』!!
「入ったアアアッ!! 響木蒼生!! 本日2ゴール目!! 劇的な勝ち越しゴール!! 銀河系軍団を相手に、日本のストライカーが圧巻のパフォーマンスで見せつけました―――ッ!!」
タイムアップの長笛が響き渡り、ミランがホームでの第1戦を『2 - 1』の劇的な逆転勝利で飾った。
銀河系軍団との世紀の頂上決戦を制し、ついに決勝戦の舞台――そしてセリエA、コッパ・イタリアに続く前人未到の「トレブル(三冠)」達成へ向けて、響木蒼生とミランの伝説はクライマックスへと突き進む。




