第五章第十一話
トレブル(三冠)達成に向けた第一の扉が開く、コッパ・イタリア決勝。
超満員のスタディオ・オリンピコ。国内カップ戦の頂点と最初のタイトルを賭けた決戦のピッチに、クラブのイレブンが足を踏み入れる。相手は今シーズン、ミラノを猛追し続けたセリエA屈指の強豪クラブ。並々ならぬ執念でミラノのタイトル獲得を阻止せんと、立ち上がりから殺気立った激しいプレッシングを仕掛けてきた。
「ヒビキ、まずは一つ目だ。カップをミラノへ持ち帰るぞ!」
「闘犬」ボランチが血気盛んに叫び、相手の中盤と激しい肉弾戦を繰り広げる。
「ええ、一つ目も、その後のタイトルも、すべて僕たちが掴み取ります」
2002年バロンドーラー・響木蒼生は、静かな冷徹さを湛えた瞳で相手の堅牢なバックラインを見据えた。
主審の長笛とともに、タイトルを巡る死闘の火ぶたが切って落とされた。
一発勝負の決勝戦特有の重圧が漂う中、相手守備陣は響木に対して複数人で激しい肉弾戦を挑み、前線での自由を極限まで奪いに走る。前半、激しい攻防が続きスコアレスのまま時が流れるが、ミラノの「黄金の中盤」は冷徹に相手のスタミナと集中力が削れる瞬間を待っていた。
後半12分、試合が動く。
自陣深くで「国防大臣」が圧倒的なインターセプトでボールを奪い取ると、即座に若きレジスタへ預ける。ピルロは相手のプレスを優雅にいなし、地を這うような鋭い縦パスを通す。
中央でボールを受けたマエストロ(ルイ・コスタモチーフ)が、芸術的なキャンバスを描くように相手CBを引きつけ、ペナルティエリアの「エアポケット」へと極上のスルーパスを刺し込む。
相手DFラインが一瞬だけボールに気を取られたそのコンマ数秒――。
響木は相手の死角から影のように抜け出し、完璧なタイミングで進入していた。
「……捕まえた」
バウンドするボールに対し、響木は右足のアウトフロントで極上のトラップ。飛び出してきた相手守護神の頭上を越える、冷酷極まりないループシュートを放つ!
ふわりと浮いたボールが綺麗に弧を描き、吸い込まれるようにゴールネットへ収まった!
『1 - 0』!
「ゴーッッール!! 響木蒼生!! コッパ・イタリア決勝、試合を動かしたのはこの男!!“BOX THE POACHER”の冷酷な一撃がミランに先制点をもたらしました!!」
サン・シーロから駆けつけたミランサポーターの大歓声がオリンピコに響き渡る。
さらに後半38分、焦る相手の隙を突いてミラノが猛攻を仕掛ける。ピルロの精緻なロングフィードに抜け出した響木がペナルティエリア手前で相手CBを背負いながらタメを作り、走り込んできた味方MFへ絶妙なラストパス。追加点となる2点目をアシストし、勝負を決定づけた。
『2 - 0』!
『ピーーーッ! ピーーーッ! ピーーーッ!』
試合終了の長笛が夜空に轟く。
「試合終了!! 『2 - 0』!! ロッソネロ、コッパ・イタリア優勝―――ッ!! トレブル達成に向け、まずは第一のタイトルを獲得しました!!」
歓喜に沸くピッチの中央で、仲間たちと抱き合う響木。主将とともに掲げた金色のカップが、オリンピコのナイター照明に強く輝いていた。
国内カップ戦を制し、セリエA得点王・CL得点王、そして前人未到の「トレブル(三冠)」達成へ向けて、響木蒼生とミラノの伝説はついに第一章を完成させたのだった。




