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第五章第十話

UEFAチャンピオンズリーグ・準々決勝第1戦。

カンプ・ノウを埋め尽くす9万を超える大観衆が解き放つ、圧巻の「バルサ! バルサ!」の大合唱。


アウェイのクラブが対峙するのは、美しいパスフットボールの伝統を誇り、若き天才司令塔やブラジルのファンタジスタを擁する欧州のメガクラブ、響木の古巣の一つ「ブラウ・グラナ」だった。


「ヒビキ、相手のポゼッションは世界一だ。だが、パス回しに夢中になる瞬間に必ずバックラインの背後に隙ができる。そこを突け」


ウォーミングアップ中、指揮官が鋭い眼光で響木蒼生に戦術指示を授ける。中盤の底では「闘犬」ボランチが「ボールを奪ったら即座に前線へ刺すぜ」と荒い息を吐いていた。


「了解です。相手のパスワークに惑わされず、コンマ数秒のエアポケットを逃しません」


2002年バロンドーラー・響木は、静かにスパイクの紐を結び直し、ピッチの中央へと向かった。


主審の澄んだ笛の音とともに、欧州最高峰の死闘の幕が上がった。


序盤はブラウ・グラナが圧倒的なボール保持率でミラノを押し込む。中盤で若き天才司令塔がタクトを振り、ファンタジスタが絢爛豪華なアイデアでミランの防衛線を脅かす。前半27分、美しいパス連携から先制ゴールを許し、カンプ・ノウが歓喜の渦に包まれた。


『0 - 1』。


しかし、ミラノの誇る「黄金の中盤」と世界一のストライカーは一切揺るがない。


「ヒビキ、来るぞ」


前半42分、自陣深くで「国防大臣」が鮮やかなインターセプトで相手の決定的なパスをカット。こぼれ球を拾った若きレジスタが、前線へと地を這うような鋭いロングスルーパスを放つ。


中盤のスペースでボールを受けたマエストロが、相手CBの視線を自らへ引きつける芸術的なキャンバスを描く。


相手CB陣がマエストロに食いついたそのコンマ数秒――。


響木は相手の死角から影のように抜け出し、完璧な「エアポケット」へと侵入していた。


「……捉えた」


マエストロからの絶妙なスルーパスに対し、響木は一切のタメを作らず右足の一閃!


ドスッ――!


ボールが、相手守護神の脇と地面のの僅かな隙間を通りゴールネットへと突き刺さった!


『1 - 1』!


「ゴーッッール!! 響木蒼生!! カンプ・ノウを沈黙させる冷酷極まりない同点ゴール!!“BOX THE POACHER”の牙が名門ブラウ・グラナの防壁を撃ち破りました!!」


咆哮する闘犬が走り寄って響木を力強く抱きしめ、レジスタとマエストロが満足げな拍手を送る。


後半に入ると、互いのスタイルが真っ向からぶつかり合う息詰まる死闘となった。ブラウ・グラナの怒涛の攻勢を「国防大臣」を中心とする堅守がことごとく弾き返す。


そして後半39分、決着の時が訪れる。


相手のコーナーキックを跳ね返したミランの高速カウンター。レジスタが黄金の右足から放った50メートルのロングフィードに、響木が反応する。


追走する相手CBと激しく身体をぶつけ合いながらも、響木は体軸をブレさせずにペナルティエリア手前へ侵入。飛び出してきたGKの位置を冷徹に見極め、右足アウトフロントで頭上をふわりと越す極上のループシュートを放つ!


綺麗に弧を描いたボールが吸い込まれるようにゴールネットを揺らした!


『2 - 1』!!


「入ったアアアッ!! 響木蒼生!! 本日2ゴール目!! 劇的な勝ち越しゴール!! アウェイのカンプ・ノウで、日本の絶対的エースが圧巻のパフォーマンスを披露しました―――ッ!!」


タイムアップの長笛が響き渡り、ミランがアウェイでの第1戦を『2 - 1』の価値ある逆転勝利で飾った。


メガクラブ・バルセロナとの激闘を制し、セリエA・国内カップ・CLの「トレブル(三冠)」と得点王戴冠へ向けて、響木蒼生とミランの進撃は誰にも止められない領域へと入っていた。

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