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第五章第九話

サン・シーロが、青と黒(ネラッズーリ)と赤と黒(ロッソネロ)の二色にまっ二つに引き裂かれていた。


セリエA第18節。同じ聖地を本拠地とする宿命のライバル、ネラッズーリとの「ミラノ・ダービー」。発煙筒の赤い煙と怒号のようなチャントがスタジアムを包み込み、ピッチの上にはセリエA特有の殺気立った緊張感が満ちていた。


ネラッズーリは、ブラジルが誇る重戦車ストライカーや、アルゼンチン代表の鉄人主将を擁する超強豪。スクデット(セリエA優勝)を争う最大のライバルであり、彼らにとっても2002年バロンドーラーとなった響木蒼生を叩き潰す絶好の舞台だった。


「ヒビキ、ダービーは戦術云々の前に戦争だ。絶対に引くなよ!」


中盤の底で「闘犬」ボランチが血走った目で叫び、相手の攻撃的MFと激しく胸をぶつけ合う。


「わかっています」


響木の澄んだ瞳には、ダービーの熱狂に呑まれない静かな冷徹さが宿っていた。


主審の激しい笛とともに、ダービーの幕が上がった。


試合は序盤から火の出るような肉弾戦となった。

前半24分、相手の重戦車ストライカーが強引な突破から強烈な左足の弾丸ミドルを叩き込み、ネラッズーリが先制する。


『0 - 1』。


青黒のサポーターがスタンドを揺らすほどの爆発的な歓声を上げる。しかし、ロッソネロの心臓部は微動だにしない。


「ヒビキ、相手のCB陣は前に食いつく意識が強すぎる。裏のわずかな隙間(エアポケット)を突くぞ」


若きレジスタが静かにボールをセットし、トップ下のマエストロが優雅に頷く。


前半41分、ミランの反撃が実を結ぶ。


自陣で「国防大臣」が完璧なインターセプトで見事に相手の攻撃を摘み取ると、ボールは即座にレジスタへ。レジスタは寄せてくる相手中盤をあざ笑うかのように、相手DFラインの背後へ地を滑る鋭い縦パスを通す。


マエストロがワンタッチで相手CBを引きつけ、極上のスルーパスをペナルティエリア内へ配球。


相手CBが滑り込みながらタックルを仕掛けたそのコンマ数秒――。


響木は相手の死角からスルリと抜け出すと、右足の一閃!


ドスッ――!


相手守護神は一切動けず、ボールはゴールの左隅へと突き刺さった!


『1 - 1』!


「ゴーッッール!! 響木蒼生!! ミラノ・ダービーの熱狂を冷ます、冷酷極まりない同点ゴール!!“BOX THE POACHER”がサン・シーロを揺らしました!!」


赤と黒のサポーターが一斉に歓喜の爆発を起こし、闘犬が猛然と走ってきて響木を押し倒すように抱きしめる。


後半に入ると、ダービーの激しさはさらに激化。互いにイエローカードが飛び交う殺伐とした展開の中、後半38分に決着の時が訪れる。


右サイドからのクロスに対し、ペナルティエリア中央で響木が相手の屈強なCBと空中で激しく接触。響木は巧みな体幹で体勢を崩さず、こぼれ球に反応すると、反転しながら左足を一閃!


ドンッ――!


シュートがゴールネットを突き、『2 - 1』!!


『ピーーーッ! ピーーーッ! ピーーーッ!』


タイムアップの長笛。

最大のライバルであるネラッズーリとの宿命の対決を、響木の圧巻の2ゴールで逆転勝利したロッソネロ。サン・シーロの夜空に響く「ヒビキ!」の連呼とともに、セリエA制覇、そしてトレブル(三冠)への道筋がより鮮明に浮き彫りとなった。

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