第五章第六話
セリエA第8節。クラブが乗り込んだのは、紫の熱狂が渦巻くスタディオ・アルテミオ・フランキ。セリエAの伝統的強豪であり、独特のホームの圧力を誇るフィオレンティーナとの一戦だった。
紫のフラッグで染まるスタジアムのサポーターが放つ怒号のような大歓声。フィオレンティーナの守備陣は、2002年バロンドーラーとなった響木蒼生に対し、前線からのハイプレッシャーとマンマークで徹底的な封じ込めを図ってきた。
「バロンドーラーに仕事をさせるな! スペースを潰せ!」
相手CBの執拗な手押しとボディコンタクト。ボールが入るたびに二人掛かりで寄せられ、激しい潰しに遭う響木。しかし、ミランの中盤は冷静だった。
「ヒビキ、相手のラインが高くなっている。あの一瞬の隙を突け」
トップ下のマエストロがボールをキープしながら優雅に視線を送る。古巣相手でもあるマエストロの動きにフィオレンティーナの守備陣が一瞬釣られたその時だった。
前半38分、試合が動く。
中盤の底で相手の攻撃を奪い取った「闘犬」ボランチから、若きレジスタへ。ピルロはノーモーションで相手DFラインの背後、右足のインサイドから伸びるような極上のロングスルーパスを供給する。
フィオレンティーナのCB陣がラインを上げようとしたコンマ数秒――。
響木は相手の死角から影のように滑り出し、オフサイドラインを破ってペナルティエリア手前の「エアポケット」へと侵入していた。
「……捉えた」
飛び出してきた相手GKの位置を冷徹に見極めた響木は、走りの歩幅を一切崩さず、右足の一閃!
ドスッ――!
地を這うシュートが、守護神の伸ばした指先を掠め、左サイドネットのわずかな隙間へと突き刺さった!
『1 - 0』!
「ゴーッッール!! 響木蒼生!! フィオレンティーナの集中を打ち砕く冷酷な先制ゴール!!“BOX THE POACHER”の研ぎ澄まされた嗅覚が、アルテミオ・フランキを沈黙させました!!」
咆哮を上げる闘犬ボランチが猛然と走ってきて響木の背中に飛び乗り、マエストロとレジスタが満足げな笑みを浮かべて歩み寄る。
後半に入ると、巻き返しを図るフィオレンティーナが猛攻を仕掛けてくるが、「国防大臣」を中心とするミランの堅守がそれをことごとく跳ね返す。
そして後半34分、再び響木の牙が向く。
中盤でマエストロが相手DFを引きつけて絶妙なスルーパス。ペナルティエリア中央で受けた響木は、相手CBの力強いチャージを身体の軸でいなしながら、流れるようなターンで相手を置き去りにし、左足を一閃!
ドンッ――!
シュートがゴールネットを激しく突き破り、『2 - 0』!
『ピーーーッ! ピーーーッ! ピーーーッ!』
タイムアップの長笛がアルテミオ・フランキに響き渡り、ミランが敵地で『2 - 0』の鮮やかな完封勝利を収めた。
難敵フィオレンティーナ相手にも圧巻の2ゴールを叩き出し、リーグ戦の連勝街道を突き進む響木とACミラン。セリエA得点王、そしてトレブル達成へ向けて、その勢いは増すばかりだった。




