第五章第四話
2002年。日韓ワールドカップでの初優勝と大会得点王、そしてセリエAへの移籍と鮮烈な衝撃のゴールラッシュ。世界中のフットボール界を揺るがした激動の年の締めくくりとして、響木蒼生にフットボール界最高の栄誉が贈られる瞬間が訪れた。
パリのシャトレ座。
豪華絢爛な会場には、世界各国の名だたるレジェンドや監督、メディア陣が集結し、熱気と緊迫感に包まれていた。
2002年のバロンドール最終候補には、ワールドカップでしのぎを削った王国の怪物ストライカーや、鉄壁の守護神、そして圧倒的な輝きを放った響木蒼生の名が名を連ねていた。
壇上のプレゼンターがマイクの前で静かに黄金の封筒を開く。
「……2002年、バロンドール(欧州年間最優秀選手賞)。受賞者は――」
会場中のスポットライトとカメラが一斉にひとつの席へと絞られる。
「――ヒビキ・アオイ!!(日本)」
『ワアアアアアアアアアアアアアアッ―――!!』
拍手と歓声が、爆音となってシャトレ座を揺らした。
隣に座るACミランの仲間たち――トップ下のマエストロが穏やかな笑みで肩を抱き、闘犬ボランチが「やりやがったな!」と力強く背中を叩く。若きレジスタも静かに拍手を贈り、「国防大臣」が温かい眼光で新王者の誕生を祝福した。
ゆっくりと立ち上がり、ステージへと上る響木。
その脳裏には、雨の宮城や激闘の横浜で駆け抜けたワールドカップの死闘、そして左目の手術という試練を乗り越え、セリエAのカテナチオを切り裂き続けてきた日々が鮮明に駆け巡っていた。
ズシリと重い黄金の球体――2002年バロンドール・トロフィーを受け取り、両手で高く掲げる。
フラッシュの嵐が雷鳴のように鳴り響き、世界中のメディアが「アジア人初、そして史上最年少での2002年バロンドール受賞」という偉業を世界中に打電した。
マイクの前に立った響木は、澄んだ眼光で会場を見渡すと、静かに、しかし力強い声で言葉を紡いだ。
「この素晴らしい賞をいただくことができ、最高の栄誉と感じています。共に戦った日本代表の仲間たち、クラブで僕を温かく迎えてくれたチームメイト、そしてどんな時も信じて背中を押してくれたファンに心から感謝します」
会場が息をのむ中、響木は言葉を続ける。
「どんな試練やハンデがあろうとも、ピッチの上で情熱と冷徹な牙を持ち続ける限り、フットボールは新しい扉を開いてくれます。ですが、僕の挑戦はこれで終わりではありません。セリエA、そしてチャンピオンズリーグの頂点を目指し、ストライカーとして究極のゴールを追い求め続けます」
2002年、世界の頂点に立ち、フットボール史にその名を不滅のものとして刻んだ響木蒼生。
黄金のトロフィーを抱く彼の瞳には、ミランでのトレブル(三冠)達成を見据える絶対的エースとしての鋭い牙が宿っていた。




