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第五章第二話

サン・シーロの巨大なスタンドを埋め尽くす、8万人を超えるロッソネロ(赤と黒)の大観衆。地鳴りのような「ミラン! ミラン!」のチャントが巨大なスタジアムを激しく揺らしていた。


2002-2003シーズン、セリエA開幕戦。

ワールドカップ得点王の称号を引っ提げ、ミランのユニフォームに身を包んだ響木蒼生は、聖地サン・シーロのピッチへと足を踏み入れた。


負傷離脱中の絶対的エースの穴を埋める存在として、現地メディアからの視線は極めて懐疑的だった。セリエAの「カテナチオ」は、世界中の名だたるストライカーたちを呑み込んできた絶望の防壁。ワールドカップの活躍が本物か、単なるフロックか――世界中が日本の背番号9を値踏みしていた。


「ヒビキ、気負う必要はない。僕たちのパスはお前の欲しい場所へと届く」


トップ下のマエストロが優雅な微笑みとともに声をかける。中盤の底では、若きレジスタが静かにボールを弄び、闘犬ボランチが血気盛んに味方の背中を叩いて鼓舞していた。


主審の長笛とともに、記念すべき開幕戦の幕が上がった。


対戦相手の堅守を誇る中堅クラブは、序盤から激しいボディコンタクトと執拗な複数人でのマークで響木を潰しにかかる。


だが、響木の真価はここからだった。


前半28分、試合が動く。


中盤の底で相手のプレッシャーを優雅にいなした若きレジスタが、長髪をなびかせながら絶妙な対角線のロングフィードを配球。


右サイドでボールを受けたマエストロが、芸術的なキャンバスを描くように相手DFラインの僅かな隙間へアーリークロスを放り込む。


相手のイタリア代表級CB陣が警戒して跳躍しようとしたそのコンマ数秒――。


響木はすでに相手CBの死角へと滑り込んでいた。


「……見えた」


バウンドするボールに対し、響木は一切のタメを作らず右足アウトフロントで流れるようなダイレクトボレー!


ドスッ――!


セリエA屈指の守護神が反応すらできないノーモーションの一閃。ボールは右サイドネットのわずかな隙間へと突き刺さった!


『1 - 0』!


「ゴーッッール!! 響木蒼生!! セリエAデビュー戦で衝撃の先制ゴール!! マエストロの極上クロスを、冷酷無比な一撃で沈めました!!」


サン・シーロが爆発的な歓喜に包まれる。闘犬ボランチが猛然と走ってきて響木を押し倒すように抱きしめ、マエストロが満足げに頷く。


しかし、響木の爆撃はこれだけでは終わらなかった。


後半19分、自陣で「国防大臣」が圧倒的なインターセプトで奪ったボールから若きレジスタがカウンターを発動。


中央でパスを受けた響木は、激しいチャージで寄せてくる相手DFを背中で巧みにいなし、ペナルティエリア手前の「エアポケット」へ侵入。飛び出してきたGKの動きを冷徹に見極め、左足のトゥーキックで頭上を越す鮮やかなループシュートを放つ!


ふわりと浮いたボールが吸い込まれるようにネットを揺らし、『2 - 0』!


さらに試合終了間際の後半41分。の地を這うスルーパスに反応した響木がペナルティエリア内で冷酷なトゥーキックを叩き込み、ゴールネットを激しく突き破る!


『3 - 0』!!


『ピーーーッ! ピーーーッ! ピーーーッ!』


サン・シーロに響き渡るタイムアップの笛。


「試合終了!! 『3 - 0』!! サン・シーロの新たなエース、響木蒼生!! セリエAデビュー戦で圧巻のハットトリック達成―――ッ!!」


スタジアム全体が総立ちとなり、新背番号9へ割れんばかりの万雷の拍手と「ヒビキ!」コールを贈る。


セリエAのカテナチオをあざ笑うかのような冷酷な3ゴール。

負傷中のエースの穴を埋めるどころか、サン・シーロの新たな主役として君臨した響木蒼生は、トレブルと得点王へ向けて鮮烈すぎる第一歩を踏み出したのだった。

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