第四章第八話
横浜国際総合競技場を覆い尽くす、7万人超の大歓声と地鳴りのような熱気。巨大なトロフィーが輝くピッチの傍らで、世界の頂点を決める運命の120分が始まろうとしていた。
2002年FIFAワールドカップ、決勝戦。
サッカー史上初となるアジア開催のワールドカップの頂点に立ったのは、開催国の誇りを胸に駆け上がってきた日本代表と、欧州のドイツ代表だった。
ドイツのゴールマウスに君臨するのは、今大会異次元のセービングでチームを決勝まで押し上げてきた「鉄壁の守護神」。その威圧感と眼光は、まさに難攻不落の要塞そのものだった。
「ここまで来たら言葉はいらない。我々が積み上げてきた組織力、そして何より己の牙を信じて、世界最高の輝きを掴み取ってこい!」
フランス人監督の魂の激に、日本のイレブンは燃えるような決意を宿した眼光で応えた。
日本の先発には、今大会チームを勝利に導き続けてきた絶対的エース・響木蒼生と、最前線で泥臭く身体を張り続けるフィジカルコンタクトの強いFWのツートップ。
中盤の中央には赤い髪をなびかせる対人守備の強いボランチと黄金世代の大型ボランチ。右に守備の鉄人、左にユーティリティープレイヤーを配し、中央の絶対的エースがゲームをコントロールする。
主審のホイッスルとともに、世界一を決める死闘が幕を開けた。
序盤からドイツは圧倒的なフィジカルと規律ある組織力を生かし、前進してくる。日本の【フラットスリー】も鬼気迫る連動で対応するが、前半34分、ドイツの強力なセットプレーから相手CBに打点の高いヘディングを叩き込まれ、先制を許してしまう。
『0 - 1』。
世界最高峰の壁と、鉄壁の守護神が放つ絶望的な威圧感。スタジアムに重苦しい空気が漂いかける。
しかし、響木は静かにボールをセンタースポットへ置くと、笑みを浮かべて味方を見渡した。
「焦る必要はない。どんなに強固な壁にも、必ず隙間はある。僕たちのサッカーをしよう」
珍しく試合中に自分から言葉を発した響木の力強い言葉にチームの目が蘇る。
対人守備の強いボランチが激しいスライディングで中盤のセカンドボールを狩り取り、右の守備の鉄人と左のユーティリティープレイヤーがサイドを完全に封鎖。最前線ではフィジカルコンタクトの強いFWがドイツの巨漢CB陣と血みどろの肉弾戦を繰り広げる。
そして後半21分、日本の執念が実を結ぶ。
中央の絶対的エースが相手の激しいプレスを耐え抜き、前線へ地を這うグラウンダーのパス。
フィジカルコンタクトの強いFWが相手CBを背負いながら泥臭くキープし、滑り込みながらペナルティエリア手前へ流す。
潰れ役となった相方の「影」から、水飛沫を上げるように抜け出したのは響木だった。
「……捕まえた」
タッチラインギリギリで追い付いた響木は、飛び出してきた鉄壁の守護神のコ動きを見切り、角度ゼロの状態から、一切のタメを作らず右足トゥーキックでノーモーションの一閃!
ドスッ――!
濡れた芝を滑る鋭い弾丸シュートが、守護神の伸ばした指先を掠め、ゴール右隅のポストに直撃。跳ね返ったボールはそのままゴールラインを超え、ゴールネットへと突き刺さった!
『1 - 1』!
「ゴーッッール!! 響木蒼生!! ついに破った鉄壁の守護神!! 泥臭いポストプレイから、“BOX THE POACHER”が冷酷に叩き込みました!!」
咆哮を上げる響木と、泥まみれになりながら抱きつく相方。
1-1のまま90分が終了し、試合は極限の緊張感が漂う延長戦へ。両チームの体力が限界を迎える中、延長後半12分、運命の瞬間が訪れる。
自陣深くで対人守備の強いボランチが泥臭く奪い取ったボールを、交代出場の天才プレーヤーへ。天才プレーヤーは優雅なタッチで相手をかわすと、ピッチを横切る様に左サイドにパスを通しサイドチェンジ、パスを受けた同じく途中出場の天才レフティーが右サイドへ、極上のアーリークロスを供給。
ペナルティエリア中央、フィジカルコンタクトの強いFWがニアサイドへ果敢に飛び込み、相手CBふたりを引き連れて潰れ役となる。
ぽっかりと空いた中央の「エアポケット」。
そこへ影のように滑り込んでいた背番号9――響木蒼生。
鉄壁の守護神が鬼のような形相で間合いを詰め、巨躯を広げて立ちはだかる。
(ここだ……!)
響木は全神経を研ぎ澄ませると、叩きつけるようなダイレクトボレーを振り抜いた!
ドカン――――――!!
「決めろッ――!!」
放たれた弾丸シュートは、鉄壁の守護神の股下を痛烈に撃ち抜き、ゴールネットを激しく突き破った!!
『2 - 1』!!
『ピーーーッ! ピーーーッ! ピーーーッ!』
その瞬間、Vゴール(ゴールデンゴール)が適用され、タイムアップの長笛が横浜の夜空に轟いた!
「ゴーッッール!! 決まったアアアッ!! 響木蒼生!! 劇的なVゴール!! 日本代表、重戦車ドイツを打ち破り、ついに……ついにワールドカップ初優勝!! 世界の頂点に立ちました―――ッ!!」
狂喜乱舞するベンチのメンバーたちがピッチへと雪崩れ込み、響木の上に折り重なっていく。
抱きついてくる絶対的エース、涙を流す天才プレーヤー、笑顔で響木の頭を叩く熱血CBや守備陣。
「ヒビキ! お前が世界一のストライカーだ!!」
「やったぞ! 世界一だ!!」
熱い歓声ともみくちゃにされる中で、響木は眩しいカクテル光線を見上げながら、胸のエンブレムを力強く握りしめた。
表彰式。
スタジアムに響き渡る国歌。首にかけられた重みのある金のメダル、そして掲げられる黄金のワールドカップトロフィー。
「サンドニの惨敗」から守備強度を高めた新布陣、泥臭く身体を張り続けた相方、そして冷酷な決定力で世界をねじ伏せた日本の絶対的エース・響木蒼生。
サムライブルーの歴史的な挑戦は、世界頂点という最高の輝きとともに完結したのだった。




