第四章第三話
横浜国際総合競技場を満たす、7万人を超える観衆の大歓声。蒸し暑い初夏の夜気の中、スタジアム全体が熱狂と緊張感で張りつめていた。
2002年FIFAワールドカップ、グループステージ第2戦。
初戦のベルギー戦を劇的な勝利で飾った日本代表は、歴史的悲願である「W杯初勝利」とグループステージ突破をかけ、東欧の強豪・ロシア代表との大一番を迎えていた。
ロシアは大型でフィジカルに長けた選手をズラリと並べ、強靭なフィジカルコンタクトと強烈なミドルシュートを武器に日本へ圧力をかけてくる。
フランス人監督がベンチ前で身を乗り出し、身振り手振りで指示を送る中、日本の新守備陣がその真価を発揮した。
バックラインの【フラットスリー】の前で、赤い髪をなびかせる対人守備の強いボランチが鬼気迫る顔つきで相手の司令塔に喰らいつき、激しいタックルでボールを刈り取る。黄金世代の大型ボランチも広大なエリアをカバーし、セカンドボールを拾い上げる。右の守備の鉄人と左のユーティリティープレイヤーも、相手の強力なサイド攻撃を完全に封じ込めていた。
前半は息詰まる無得点の攻防。しかし、最前線では泥臭い肉弾戦が繰り広げられていた。
フィジカルコンタクトの強いFWが、ロシアの巨漢CBふたりを相手に真っ向から身体をぶつけ、何度も泥まみれになりながらボールをキープする。
「ヒビキ! 奴らのCB、俺のフィジカルにイラつき始めてるぞ! ラインの裏、空いてくる!」
ハーフタイム、息を荒らげながら告げる相方の言葉に、日本の点取り屋・響木蒼生は冷徹な視線で頷いた。
「了解です。先輩が削ってくれたおかげで、相手CBの踏み込みがコンマ数秒遅れ始めていますね。後半、一瞬で仕留めます」
迎えた後半6分、スタジアムを歓喜の渦に叩き込む先制点が生まれる。
中央の絶対的エースが中盤で相手のプレッシャーを寄せ付けず前を向くと、前線へ鋭い縦パスを供給。
ペナルティエリア手前でボールを受けたフィジカルコンタクトの強いFWが、ロシアの巨漢CBの激しい突き飛ばしに耐え抜き、死力で右足を伸ばして前線へ流す。
泥臭く生み出された、ペナルティエリア中央の「エアポケット」。
相手CB陣が潰れ役となった相方に気を取られたコンマ数秒――その死角から、影のように滑り込んでいたのは響木だった。
「……もらった」
全神経を研ぎ澄ませた響木は、流れてきたボールに対して一切のタメを作らず、右足のインサイドでゴール左隅へ流し込む!
ドスッ――!
相手守護神の伸ばした手をすり抜け、ボールがサイドネットを揺らした!
『1 - 0』!
「ゴーッッール!! 響木蒼生!! ついに破ったロシアの壁!! フィジカルコンタクトの強いFWの執念のポストプレイから、“BOX THE POACHER”が冷酷に叩き込みました!!」
地鳴りのような歓声が横浜の夜空に響き渡る。響木は走ってきた相方と激しく抱き合い、咆哮を上げた。
先制されたロシアは怒涛の反撃を開始し、前線へロングボールを放り込んでくる。
だが、日本の強固な守備陣は破れなかった。対人守備の強いボランチが相手の突破を魂のタックルで阻み、右の熱血CBや「ボンバーヘッド」が空中で跳躍して弾き返し続ける。
そして後半32分、決定的な追加点が生まれる。
自陣深くで守備の鉄人が泥臭く奪い取ったボールを、大型ボランチへ。大型ボランチは力強いドリブルで中央を突き進むと、右サイドのスペースへ絶妙な展開。
走り込んだ右の守備の鉄人が鋭い低いグラウンダーのクロスを配球する。
ペナルティエリア内、相手CB陣がパニックに陥る中、フィジカルコンタクトの強いFWがニアサイドへ猛然と突進し、相手DFを引きつける。
その背後、一瞬だけポカリと空いたスペースへ影のように侵入した響木。
バウンドするボールに対し、響木は右足を極限まで鋭く振り抜き、叩きつけるようなダイレクトボレー!
ドカン――――――!!
弾丸ライナーがゴール天井へと突き刺さった!!
『2 - 0』!!
「入ったアアアッ!! 響木蒼生!! 圧巻の本日2ゴール目!! 完璧な連動から、ロシアを突き放す決定的な一撃!!」
狂喜乱舞する日本のベンチとスタンド。
そのまま時計の針は進み、タイムアップの長笛が横浜国際総合競技場に轟いた。
『ピーーーッ! ピーーーッ! ピーーーッ!』
「試合終了!! 『2 - 0』!! 日本代表、欧州の雄ロシアを撃破!! 」
ピッチ上で抱き合い、喜びを爆発させる選手たち。
強固な守備陣がゼロで抑え抜き、前線では相方の泥臭い身体張りと響木蒼生の冷酷な決定力が完璧に融合。
勝利を手にした日本代表は、グループステージ突破へ王手をかけたのだった。




