第三章第二十一話
ラ・リーガ最終節、カンプ・ノウ。
最終節のピッチに立った響木の表情には、一切の迷いも慢心もなかった。
最前線で圧巻の潰れ役となる大型オランダ人FW。 左サイドから疾風の如く切り込む快速ウインガー。 右サイドから精密かつ強靭な推進力をもたらすサイドアタッカー。 そして中盤の底でタクトを振るい、魂の守備で背中を支えるオランダ人司令塔とカンテラ出身の若き闘将CB。
異国の才能と地元の魂が、響木蒼生という「ペナルティエリアの密猟者(BOX THE POACHER)」を中心に完璧に結実していた。
前半21分、右サイドアタッカーのピンポイントクロスから、大型FWが作った影へ潜り込んだ響木が冷酷なワンタッチで流し込んで先制。 さらに後半30分には、左の快速ウインガーの爆速突破からの折り返しを、相手CBの死角から滑り込み鋭いトゥーキックでゴールネットを揺らした。
『2 - 0』。
タイムアップの長笛がカンプ・ノウに響き渡った瞬間、9万人のクレが総立ちとなり、地鳴りのような「Cant del Barça」が大空へ打ち鳴らされた。
「試合終了!! ブラウグラナ、堂々のラ・リーガ制覇を達成!! そして……シーズン33ゴールを叩き出した響木蒼生が、異例の2年連続ピチーチ(得点王)を獲得しました―――ッ!!」
ピッチ上でお互いを称え合い、歓喜の輪を作る選手たち。大型FWと若き闘将CBが響木を両脇から担ぎ上げ、青と臙脂の紙吹雪が舞い散る中、響木は眩いトロフィーをカンプ・ノウの夜空へ高く掲げた。
欧州最高峰の頂点を決める舞台、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝。会場となったスタジアムは、超満員のサポーターが放つ熱気と緊張感で、異様なほどのプレッシャーに包まれていた。
オランダ化への批判を圧倒的な結果で跳ね返してきたブラウグラナ。 前線には、最前線に鎮座する大型オランダ人FW、左サイドで爆発的な推進力を誇る快速ウインガー、右ウイングで強靭なフィジカルと精度を誇るオランダ人サイドアタッカー。そして、その前線を冷酷な決断力で完結させる「ペナルティエリアの密猟者(BOX THE POACHER)」響木蒼生。
対する相手は、欧州随一の組織力と強固な守備ブロック、そして鋭いカウンターを誇る欧州屈指の強豪クラブだった。
「いいか、ここまで来たら批判も戦術論も関係ない。僕たちのフットボールが欧州最強であることを、この90分で世界に見せつけよう!」
オランダ人大型FWの熱い言葉に、カンテラ育ちの若き闘将CBが魂の咆哮で応え、チームの士気は最高潮に達する。
主審の笛とともに、運命の決勝戦の火蓋が切って落とされた。
序盤から試合は激しい球際の応酬となる。相手の強固なディフェンス陣は、ブラウグラナの両翼のスピードを警戒し、ペナルティエリア手前に緻密な守備網を構築。ブラウグラナがボールを保持して主導権を握るものの、決定的な隙を与えない。
前半35分、一瞬の隙を突いた相手の鋭いカウンターから失点を許し、ブラウグラナは1点のビハインドを負う重苦しい展開に追い込まれる。
『0 - 1』。
焦色が漂い始めるスタジアム。しかし、極限のプレッシャーがかかる舞台であればあるほど、響木の眼光は氷のように研ぎ澄まされていった。
(相手CBのライン統率には隙がない。だが、両ウイングが幅を取って相手のサイドバックを釣り出した瞬間、中央のCB間にだけ『コンマ何秒かの歪み』が生まれる……)
後半17分、その「歪み」を突く同点劇が生まれる。
中盤の要であるオランダ人司令塔が中盤で相手の縦パスをインターセプトし、素早く左サイドへ。 ボールを受けた左の快速ウインガーが爆発的な一瞬の加速で相手右SBを完全に抜き去り、深く抉ってマイナスへグラウンダーのパスを供給する。
中央の大型FWが相手CBを力強く背負い、潰れ役となって死角を作り出す。
その「陰」から影のように抜け出したのは響木だった。
相手CBが大型FWに気を取られた一瞬、響木は転がるボールに対して一切のタメを作らず、右足アウトフロントでボールの軌道を冷酷に変える。
ドスッ――!
ノーモーションで放たれたシュートは、相手守護神の反応を完全に遅らせ、ゴール右隅へと吸い込まれた!
『1 - 1』!
「ゴーッッール!! 響木蒼生!! CL決勝の大一番で同点ゴール!! 快速ウインガーの突破と大型FWの影に潜み、冷酷な一撃を叩き込みました!!」
響木は咆哮し、駆け寄ってきた大型FW、快速ウインガーと熱い抱擁を交わした。勢いを取り戻したブラウグラナは、ここから怒涛の攻勢を仕掛けていく。
そして、試合が決したのは後半43分。
右ウイングのサイドアタッカーが強靭なフィジカルで相手DFの寄せを耐え抜き、中央へアーリークロスを配球。 ペナルティエリア手前で浮き球を胸で収めた響木に対し、相手CB陣2人が激しいプレッシャーで挟み込みにかかる。
その瞬間、響木は右足を振りかぶり、強力なミドルシュートを放つと見せかけた。
相手CB陣がシュートブロックのために必死の滑り込みを見せる。
だが、響木は振り抜かず、右足の裏でピタリとボールを止めると、滑り込むCBの頭上を越える絶妙なループスルーパスをペナルティエリア内へ通した。
そこへ死角から飛び込んできたのは、前線へ上がっていた大型オランダ人FW!
「もらった!!」
大型FWが右足で叩き込んだ豪快なボレーシュートがゴールネットを揺らし、勝ち越し!
『2 - 1』!!
さらにアディショナルタイム、前傾姿勢になった相手の背後を突き、左の快速ウインガーの折り返しから響木がダメ押しの3点目を流し込む。
『3 - 1』!!
『ピーーーッ! ピーーーッ! ピーーーッ!』
ヨーロッパの夜空に鳴り響くタイムアップの長笛!
「試合終了!! 『3 - 1』!! ブラウグラナ、欧州の頂点へ!! UEFAチャンピオンズリーグ制覇達成!! そして勝利の立役者は、2ゴール1アシストの大爆発を見せた“BOX THE POACHER”響木蒼生―――ッ!!」
ピッチ上に歓喜の輪が広がり、ベンチからスタッフや選手たちが一斉に飛び出していく。
エル・ブランコでのリーグ制覇達成に続き、異なるクラブであるブラウグラナでも欧州制覇を成し遂げた響木。 オランダ化への批判や前代未聞の交互契約という異例のプレッシャーの中、響木蒼生は圧巻の勝負強さと冷酷な決定力で、その名を欧州フットボール史の頂点に黄金の文字で刻み込んだのだった。




