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第三章第十八話

カンプ・ノウでの勢いそのままに、ブラウグラナの破竹の進撃はヨーロッパ最高峰の舞台――UEFAチャンピオンズリーグ(CL)へと飛び火していた。


オランダ人指揮官のもと、前線には圧倒的な個の推進力を誇る左の快速ウインガーと右の強靱なサイドアタッカー。中央にはポストプレイの雄である大型オランダ人FW、そしてその影に潜む「ペナルティエリアの密猟者(BOX THE POACHER)」響木蒼生。


欧州の強豪たちが次々とブラウグラナの破壊的な攻勢の前に沈んでいく中、ついに迎えたCL準決勝。


対戦相手は、イタリアの誇る圧倒的な守備戦術「カテナチオ」を体現するセリエAの絶対的王者だった。


敵地サン・シーロ(ジュゼッペ・メアッツァ)で行われた第1戦。

世界屈指の鉄壁を誇る相手CB陣と守護神は、ブラウグラナの両翼によるサイドアタックを完璧に封じ込めた。左の快速ウインガーの突破は間合いを殺され、右のサイドアタッカーのクロスは跳ね返され続ける。


焦りから前傾姿勢を強めたブラウグラナは、後半終了間際に電光石火のカウンターを喰らい、0-1で手痛い敗戦を喫してしまう。


アウェイゴールを奪えず、1点のビハインドを背負って迎えたカンプ・ノウでの第2戦。


「いいか、相手は必ず引き込んでブロックを敷いてくる。だが、僕たちのフットボールが世界一であることを証明するぞ!」


オランダ人大型FWがチームを鼓舞し、カンテラ育ちの若き闘将CB(カルレス・プジョルモチーフ)がサポーターを煽り立てる。9万人のクレが創り出す地鳴りのような「Cant del Barça」がカンプ・ノウを震わせていた。


キックオフの笛とともに、ブラウグラナは猛攻を開始した。

しかし、カテナチオの壁はどこまでも強固だった。エリア内に重層的な人垣を築き、響木や大型FWにボールが入った瞬間、2人掛かりで潰しにかかってくる。


前半は0-0。重苦しい空気のまま時間が過ぎ、後半25分が経過した。

2戦合計『0 - 1』。残り時間は20分を切っていた。


スタジアムに漂い始めた焦燥感。だが、その極限のプレッシャーの中で、響木蒼生の思考は氷のように冷たく冴え渡っていた。


(壁は厚い。だが、相手がボールを弾き返すコンマ数秒前、CBとSBの隙間が一瞬だけ歪む……)


後半33分、破調の時が訪れる。


中盤の要であるオランダ人司令塔が、リスクを冒して相手バイタルエリア手前までポジションを上げる。


右サイドでボールを受けた右ウイングのサイドアタッカーが、相手SBを引きつけてインサイドへグラウンダーの斜めパス。


中央で構える大型FWが相手の巨漢CBと背中合わせで激しく身体をぶつけ合い、ボールをピタリと足元に収める。


相手の守備陣全体の意識が、ボールをキープする大型FWへと一瞬集まった――。


「……捕まえた」


響木は相手CBの完全な死角から、影のように斜め後方へスッと引き抜けるランニングを仕掛けた。


大型FWはブラインド越しに響木の気配を察知し、相手CBの股抜きで冷酷なワンタッチのヒールパスを配球する。


ペナルティエリア内、一瞬にして生まれた静寂の「エアポケット」。


滑り込んだ響木は、飛び出してきた相手守護神の動きを冷徹に見極めると、右足のアウトフロントでボールの底をチョンと叩いた。


ふわりと浮かび上がったボールは、世界最高峰のキーパーの伸ばした手をすり抜け、ゴールネットを揺らした!


『1 - 0』!!(2戦合計『1 - 1』)


「ゴーッッール!! 響木蒼生!! ついにカテナチオの壁を打ち破った!! 大型FWの見事なヒール落としから、冷酷なチップキック!! カンプ・ノウが爆発します!!」


歓喜に沸くカンプ・ノウ。しかし、同点ではまだ延長戦だ。響木は歓喜の輪から抜け出すと、ボールを抱えてセンタースポットへとダッシュした。勝ち越ししか見据えていない男の姿勢に、チーム全体の熱量が限界突破する。


そしてドラマは、後半44分に訪れた。


怒涛の猛攻を仕掛けるブラウグラナ。左サイドでボールを持った快速ウインガーが、この日一番の爆発的なスピードで縦へ突破。相手DFラインを深くまで押し込む。


マイナスの角度へ送られた鋭いグラウンダーのクロス。


ペナルティエリア中央、相手CB陣が必死の滑り込みでクリアを試みるが、雨上がりのピッチでボールがわずかに不規則な回転を起こし、ペナルティエリア手前にぽつんとこぼれた。


全員の足がコンマ数秒止まる。


その奇跡的な一瞬を、誰よりも早く、野生的な嗅覚で捉えていたのは響木だった。


「仕留める……!」


響木は勢いそのままに走り込むと、浮き上がろうとするボールに対して軸足を深く踏み込み、右足を一閃!


ドカン――――――!!


地を這うような弾丸ライナーが、密集するDFの足元を縫い、サイドネット左隅へと突き刺さった!!


『2 - 0』!!(2戦合計『2 - 1』)


『ピーーーッ! ピーーーッ! ピーーーッ!』


タイムアップの長笛が響き渡る!


「決まったアアアッ!! 響木蒼生!! 劇的な勝ち越しゴール!!“BOX THE POACHER”の圧巻の2ゴールで、セリエAの絶対王者を撃破!! ブラウグラナ、UEFAチャンピオンズリーグ決勝進出決定―――ッ!!」


カンプ・ノウが狂乱の渦に包まれる。

ベンチから選手やスタッフが雪崩れ込み、大型FWやカンテラ出身の闘将CBが響木を揉みくちゃにして肩車した。


オランダ化への批判、新体制への疑念――そのすべてを圧巻の決定力でねじ伏せ、響木蒼生はブラウグラナをヨーロッパの頂点(CL決勝)の舞台へと導いたのだった。

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