第三章第十三話
サンティアゴ・ベルナベウ。
世界中のフットボールファンが息をのんで見守る、宿命の直接対決「エル・クラシコ」。
満員のスタンドを埋め尽くした8万人のマドリディスタたちが打ち鳴らす手拍子と地鳴りのような歓声が、ベルナベウの夜空を震わせていた。
対戦相手は、来シーズンに響木が袖を通すことになっている「青と臙脂」の宿敵・ブラウグラナ。
相手の前線には、世界最高峰のテクニックと圧倒的な個の打開力を誇るブラジル人の天才や、鋭い切れ味を見せるオランダ人アタッカー陣が並び立つ。さらに来期からチームメイトになるという運命の糸が、この戦いの緊張感をより一層深いものにしていた。
「ヒビキ、来年のことなんて気にするな。今日の俺たちはエル・ブランコであり、目の前のブラウグラナを叩きのめすことだけが使命だ」
トンネルの中で、主将であり闘将が響木の背中を力強く叩く。
「分かっています。今、僕が戦うのはこの白のユニフォームのためです」
響木は静かに、しかし冷酷な決意を宿した瞳でピッチへ踏み出した。
主審の笛とともに始まった伝統の一戦。序盤からクラシコ特有の殺伐とした熱気がピッチを包み込む。
ブラウグラナは伝統のポゼッションフットボールでボールを保持し、中盤からテンポよくパスを回してエル・ブランコの隙を探る。前半15分には、相手のブラジル人天才がペナルティエリア外から意地を見せる強烈な左足のミドルシュートを放ち、ゴールバーを叩いた。
だが、エル・ブランコの誇る黒いエンジンが中盤で相手のキーマンに激しく喰らいつき、徐々に流れを引き寄せていく。
そして前半31分、ベルナベウを狂喜させる歓喜の瞬間が訪れる。
右サイドでボールを持った右サイドの悪魔が、古巣であるブラウグラナの怒号のようなブーイングをあざ笑うかのように鮮やかなステップでディフェンダーを突破。
中央へ鋭いグラウンダーのパスを配球する。
ペナルティエリア中央、相手CBが至高のエースを警戒して一瞬引いたそのわずかな隙――。
死角から滑り込んできたのは響木だった。
相手キーパーが間合いを詰めようと飛び出してきた瞬間、響木は右足のインサイドでボールの軌道をほんの数センチだけ変える繊細なループシュートを放つ。
ふわりと浮かんだボールはキーパーの頭上を越え、吸い込まれるようにサイドネットを揺らした。
『1 - 0』!
「ゴーッッール!! 響木蒼生!! 初めてのエル・クラシコで先制ゴール!! 右サイドの悪魔からのパスを、あまりにも冷酷で美しいチップキックで仕留めました!!」
響木は右サイドの悪魔のもとへ駆け寄り、ベルナベウのサポーターに向かってエンブレムを示しながら咆哮した。
後半に入ると、後がなくなったブラウグラナが怒涛の反撃に出てくる。後半20分、相手のオランダ人FWが泥臭く押し込んで同点に追いつき、試合は一進一退の激しい攻防へ。
『1 - 1』。
両チームの激しいプライドがぶつかり合い、カードが飛び交う殺伐とした展開の中、決着の時が訪れたのは後半42分だった。
左サイドの悪魔が力強い推進力で前線へ持ち上がり、相手の意図を突くインサイドへのアーリークロスを供給。
ペナルティエリア手前でボールを受けた響木は、背後からの激しいプレッシャーを受けながらも完璧なトラップで前を向く。
「行かせるかッ!」
ブラウグラナのDF陣2人が挟み込みに来た瞬間、響木はシュートと見せかけて右足を振りかぶり、滑り込んできたDFの足元を狙い澄ました絶妙なスルーパスを通した。
その先へ完璧なタイミングで抜け出していたのは、至高のエース!
「もらった!」
至高のエースが左足を振り抜き、ゴール右隅へと突き刺す!
『2 - 1』!!
「勝ち越した!! 至高のエース!! 響木蒼生の引きつけてからの至高のスルーパス!! クラシコを制するのはエル・ブランコか!?」
土壇場での勝ち越し劇。ベルナベウは歓喜の爆発を起こし、そのまま試合終了の長笛が鳴り響いた。
『2 - 1』。
宿敵ブラウグラナとの直接対決を、自身の1ゴール1アシストという圧巻の活躍で制した響木。
白のユニフォームを着て臨んだ最高の決戦で勝利を収め、エル_ブランコはラ・リーガ優勝へ向けて大きな一歩を踏み出したのだった。




