第三章第十二話
雨がしとしとと降り続くガルシア地方、エスタディオ・リアソル。
エル・ブランコを迎え撃つのは、この時代にスペインサッカー界を席巻し、「スーペル・デポル」の異名で恐れられたデポルティボ・ラ・コルーニャだった。
彼らの武器は、圧倒的な破壊力を誇る超攻撃的中盤と南米の至宝たち。ブラジル出身の至高の司令塔が繰り出す変幻自在のトリックプレイ、爆発的な得点力を誇るオランダ人ストライカー、そして中盤を力強く支えるスペイン代表のダイナモらが織りなすパスワークは、ひとたび波に乗れば相手を跡形もなく飲み込んでしまう。
「ヒビキ、リアソルのピッチは重い。そしてデポルの攻撃は一度リズムに乗らせると誰にも止められなくなる。打ち合いを制するぞ」
主将であり闘将が重々しい口調でチームを引き締める。
雨のリアソルで始まった一戦は、予想通りの壮絶な「点の取り合い」となった。
前半9分、デポルが誇る至高の司令塔がペナルティエリア手前で虹を描くようなヒールリフトから相手DFをあざ笑うかのようにかわし、左足で先制ゴールを叩き込む。
『0 - 1』。
スタジアムが爆発的な歓声で包まれる。だが、エル・ブランコもすぐさま反撃に出る。
前半22分、左サイドの悪魔が雨を切り裂く地を貼るような弾丸ミドルシュートを放つと、濡れたピッチで相手GKがファンブル。そのこぼれ球に爆速で詰めた響木がワンタッチで押し込み、同点に追いつく。
『1 - 1』!
しかし、スーペル・デポルの攻撃陣の手綱は緩まない。前半38分、オランダ人ストライカーが右サイドからのグラウンダークロスを前線で巧みに合わせ、再びデポルがリードを奪う。
『1 - 2』。
乱打戦の様相を呈する中、迎えた後半14分。響木の冷酷な戦術眼がピッチの「歪み」を捉えた。
デポルの強力な攻撃陣は前傾姿勢を強めるあまり、ボランチと最終ラインの間に大きな「バイタルエリアの空洞」を作り出していた。
中盤の底で黒いエンジンが相手のパスを刈り取ると、素早く中央の至高のエースへ。エースは相手CBを引きつけ、バイタルエリアに浮いていた響木へショートパスを供給する。
響木はボールを受けると見せかけてスルー。
「なっ……!?」
デポルのCB陣が後手に回る。流れたボールの先には、右サイドから中央へ鋭く切り込んできた右サイドの悪魔。右サイドの悪魔はダイレクトで右足を振り抜き、鮮やかな同点弾をゴール左上へ突き刺した!
『2 - 2』!
「ゴーッッール!! エル・ブランコ同点!! 響木の圧巻のスルーから、右サイドの悪魔が完璧な一撃を叩き込みました!!」
息を呑む攻防。しかし、試合はこれで終わらない。
後半33分、デポルがFKから頭で合わせて三度勝ち越しに成功する。
『2 - 3』。
狂乱のリアソル。残り時間は15分を切っている。雨足が強まり、ピッチ状態が悪化する絶体絶命の状況。
だが、響木蒼生の瞳には焦りなど一切なかった。
(水たまりでボールが止まる……グラウンダーのパスは読まれる。なら、狙うのは『頭の上』だ)
後半41分、ペナルティエリア手前でボールを受けた響木は、相手ボランチが寄せてくるコンマ数秒前に右足のつま先でボールをふわりと浮かせた。
濡れたピッチを無効化する、雨空を切り裂くループスルーパス。
ボールはデポルの強固な最終ラインを綺麗に越え、落ち際を狙って走り込んだ至高のエースの足元へピタリと収まる。至高のエースはキーパーとの一対一を冷静に流し込み、三度同点!
『3 - 3』!
「追いついた!! なんという試合だ!! 響木のアイデアに溢れた浮き球から至高のエース!!」
ベンチもサポーターも総立ちになる中、響木はすぐにボールを抱えてセンタースポットへ走った。勝ち点1では足りない。「勝ち点3」しか頭にない男の姿に、チーム全体が触発される。
そしてドラマは、アディショナルタイム3分に訪れた。
右サイドからのFK。右サイドの悪魔が蹴り込んだ鋭いクロスが、中央で混戦を生む。
相手CBと闘将が競り合い、こぼれたボールがペナルティエリア中央の「水たまり」の上でピタリと止まった。
全員の動きが一瞬止まる。
その奇跡的な静寂の瞬間、誰よりも早く反応し、狂気すら感じるスピードで滑り込んだのは響木だった。
「……決めろッ!!」
水飛沫を上げながら、泥に塗れた右足を一閃!
ドスッ――――!!
弾丸のような一撃がデポルGKの手を弾き飛ばし、ゴール天井に突き刺さった!!
『4 - 3』!!
『ピーーーッ! ピーーーッ! ピーーーッ!』
勝ち越し直後に響き渡るタイムアップの長笛!
「ゴーッッール!! 決まったアアアッ!! 響木蒼生!! アディショナルタイムの劇的勝ち越しゴール!! 2ゴール2アシスト!! スーペル・デポルとの死闘を制したのはエル・ブランコ―――ッ!!」
土壇場での大逆転劇。泥まみれになった響木のもとへ、至高のエースや左サイドの悪魔、チームメイトたちが雪崩のように押し寄せ、歓喜の輪が広がった。
敵地リアソルでの壮絶な乱打戦を制し、エル・ブランコは混戦のラ・リーガで大きな価値を持つ勝利を手にしたのだった。




