第三章第十一話
アンダルシアの情熱が吹き荒れるエスタディオ・ベニート・ビジャマリン。
緑と白のストライプに染まったスタンドから響く地鳴りのような歓声の中、エル・ブランコを迎えたのは、ラ・リーガ屈指のテクニカルなフットボールと破壊的なサイドアタックを誇るレアル・ベティスだった。
ベティスの脅威は、右サイドに君臨する爆発的なスペイン代表ドリブラーと、左サイドから魔法のようなドリブルを繰り出す独特なテンポを持つ、ブラジル人ドリブラーのコンビネーション。ひとたびボールを持てば、観客を魅了するステップで相手DFをことごとく置き去りにしていく。
「ヒビキ、ベティスのホームは独特のノリがある。乗らせると手が付けられなくなるぞ」
左サイドの悪魔が鋭い視線を相手の右ウイングに向けながら呟く。
キックオフ直後から、試合はベティスの情熱的なアタックによって熱狂の渦に巻き込まれた。
前半12分、ベティスの爆発的ドリブラーが自慢の高速またぎフェイントでエル・ブランコの左サイドを完全に切り裂き、鋭いグラウンダーのクロスを供給。中央へ走り込んだFWがダイレクトで合わせ、ベティスが鮮やかに先制する。
『0 - 1』!
スタジアムを包む割れんばかりの緑と白のフラッグ。歓喜に沸くベティスの勢いは留まることを知らず、その後も両サイドから華やかなドリブルとワンツーでエル・ブランコの陣内を脅かし続けた。
だが、どれほど敵地が熱狂に包まれようと、響木蒼生の思考は氷のように冷徹だった。
(ベティスのアタックは華やかで強力だ……だが、サイドアタックに人数をかける分、攻撃から守備へ切り替わった瞬間の『サイドバックの裏のスペース』が大きく空く)
前半35分、狙い澄ましたカウンターが発動する。
中盤の底で黒いエンジンが、ベティスのブラジル人ドリブラーからボールを完璧に奪取。素早く右サイドの悪魔へと預ける。
相手サイドバックが上がっていたベティスの右陣内。その広大なスペースへ、響木は迷わず斜めのランニングを仕掛けた。
「そこだ、ヒビキ!」
右サイドの悪魔から放たれたアウトサイドのカーブパスが、ベティスDFの頭上を越えて響木の走破ライン上へとピタリと収まる。
完璧なファーストタッチで一瞬で抜け出した響木。カバーに入ろうとするベティスのCBに対し、響木はシュート体勢に入ると見せかけて右足を振りかぶった。
ベティスCBが必死にスライディングでブロックを試みる。
だが、響木は振り抜かずにボールを足裏で地面に叩き付ける様に止め、相手の滑り込みを滑らかにかわした。一瞬にしてペナルティエリア内にポツリと生まれた静寂。
キーパーの位置を冷静に見極め、右足のインサイドでゴール左隅へ流し込む。
ドスッ――!
『1 - 1』!
「ゴーッッール!! 響木蒼生!! 相手の前傾姿勢を完璧に逆手に取った冷酷なカウンター!! 鮮やかなキックフェイントでベティス守備陣を無力化しました!!」
響木は静かに息を吐き出すと、アシストを送った右サイドの悪魔と拳を突き合わせた。
同点に追いつかれたベティスは後半、さらに前がかりになって攻勢を強めてくる。しかし、一瞬の隙を見逃さない「捕食者」がベティスの息の根を止めた。
後半28分。
ベティスの攻勢を凌いだエル・ブランコは、左サイドの悪魔が超高速のロングフィードを一発で前線へ放り込む。
ボールの落ち際、ベティスCBが競り合おうとした瞬間、響木は身体をあえて相手に預けながらバックヘッドでボールを後方へそらした。
その「そらし」の先へ、影のように走り込んでいたのは至高のエース。
キーパーとの一対一を冷静に浮き球のチップキックで制し、見事な逆転ゴール!
『2 - 1』!
「ナイスな『そらし』だ、ヒビキ!」
「完璧な走り込みでした!」
至高のエースと笑顔でハイタッチを交わす響木。
ベティスのテクニカルな攻勢に苦しめられながらも、相手の隙を冷酷に突く戦術眼で1ゴール1アシストを記録。情熱のスタジアムを沈黙させ、エル・ブランコが激闘の末に価値ある勝利を収めたのだった。




