第三章第九話
マドリードの街が二つに叩き割れる日――。
エル・ブランコとアトレティコが激突する「マドリード・ダービー」。敵地ビセンテ・カルデロン・スタジアムは、異様な熱気と容赦ないブーイング、そして激しい爆竹の音で狂乱の渦と化していた。
アトレティコは、泥臭いまでの闘志と過激なまでのフィジカルコンタクトを全面に押し出す狂犬の集団。さらに前線には、弱冠18歳にして腕章を巻き、爆発的なスピードと冷酷なシュートセンスでスタジアムを魅了する「神の子」と呼ばれる若き天才FWが君臨していた。
「ヒビキ、カルデロンのファンは容赦ない。だが、ピッチの上で黙らせる方法はひとつしかないぞ」
主将であり闘将が、響木の肩を強く叩いてピッチへと送り出す。
キックオフの笛とともに始まったダービーは、まさに「戦場」だった。
アトレティコの中盤は、響木や至高のエースに対して削り取るような激しいタックルを連発。ボールを持った瞬間に2人、3人が狂犬のように群がり、激しく身体をぶつけてくる。
前半18分、アトレティコが電光石火のカウンターから試合を動かす。
相手CBのロングフィード一発に抜け出した「神の子」が、左サイドの悪魔の追撃を爆発的な加速で振り切り、右足一閃。弾丸シュートがエル・ブランコのゴールネットを激しく揺らした。
『0 - 1』。
荒れ狂うカルデロンのサポーター。アトレティコは先制後、さらにブロックを深く敷き、泥臭く激しい守備でエル・ブランコのパスワークを寸断しにかかる。
「チッ……あいつら、完全に激しさを前面に出してきてるな」
右サイドの悪魔が相手の激しいチャージに顔を顰める。
しかし、激化する削り合いの中でも、響木の瞳だけは氷のように冷たく澄み切っていた。
(激しく当たってくれば来るほど、相手CBの踏み込みは深くなる。……なら、その一瞬の『逆』を取る)
前半40分、待望の瞬間が訪れる。
中盤の底で黒いエンジンが相手の縦パスを完璧に読み切って奪取。素早く前線の至高のエースへ。
エースは相手CBを引きつけると、滑り込むようなスルーパスをペナルティエリア手前へ供給する。
響木がボールを受ける。その瞬間、アトレティコの巨漢CBが牙を剥き、響木の足ごと刈り取るような激しいスライディングで牙を突き立ててきた。
だが、響木は動じない。
ド足元への激しいタックルが届く直前、響木はノーモーションで右足を振り抜く。相手CBの身体は勢い余って空を切った。
ドスッ――!
放たれたシュートは、相手GKの脇下をすり抜ける冷酷なグラウンダー。ゴール左隅のサイドネットへと吸い込まれた。
『1 - 1』!!
「ゴーッッール!! 響木蒼生!! 狂乱のカルデロンを黙らせる同点弾!! 激しいタックルを冷酷な一瞬のかわしで無力化しました!!」
響木は静かに人差し指を口元に当て、荒れ狂うアトレティコのスタンドへ向けて「静かに」のポーズを決める。駆け寄ってきた至高のエースと熱い抱擁を交わした。
勢いに乗ったエル・ブランコは後半、圧倒的なクオリティでアトレティコをねじ伏せる。
後半23分には、右サイドの悪魔の鋭いクロスを至高のエースが頭で合わせて逆転すると、後半38分には左サイドの悪魔の弾丸ミドルシュートのこぼれ球に、誰よりも早く反応した響木がワンタッチで押し込んでダメ押しの3点目。
『3 - 1』。
宿敵アトレティコとの過酷なダービーマッチを、響木の2ゴール1アシストの圧巻の活躍で制したエル・ブランコ。混戦を極めるラ・リーガの首位戦線において、強烈な存在感を解き放ったのだった。




