第三章第五話
シドニー五輪・準決勝。
メダル確定、そして「金メダル」への王手をかけた運命の一戦。日本の前に立ちはだかったのは、欧州の超強豪・スペイン代表だった。
パスサッカーの聖地から乗り込んできたスペインは、洗練されたポゼッションとテクニカルな個の打開力を兼ね備えた、今大会屈指の優勝候補。勝者が確実に銀メダル以上を手にする極限のプレッシャーの中、スタジアムの熱気は絶頂に達していた。
「技術とポゼッションで世界最高峰の相手だ。だが、我々の【フラットスリー】と、奪ってからのスピードは彼らを凌駕する。歴史を作ってこい」
フランス人監督の静かな激に、日本のイレブンは研ぎ澄まされた眼光で応えた。
審判のタイムリーな笛とともに、激闘の火蓋が切って落とされる。
序盤から試合は、スペインが細かなパスワークで日本の陣内へ押し込む展開となった。だが、日本の誇る【フラットスリー】は美しく機能する。センターの主将がミリ単位でラインを統率し、右の熱血CBと左の「ボンバーヘッド」が強力なアタッカー陣に前を向けさせない。
さらに中盤では、守備の鉄人が鬼気迫る運動量でスペインのパスラインを潰し、大型ボランチが屈強なフィジカルでボールを刈り取っていく。
耐え続けた日本に、至高の瞬間が訪れたのは後半15分だった。
相手の意図的なパスを鉄人がインターセプト。こぼれ球を拾った大型ボランチが、即座に縦へ力強い推進力を見せる。
中央でボールを受けた絶対的エースが相手DFを引きつけ、左サイドへ絶妙なスルーパスを展開。走り込んだ天才レフティーがダイレクトでボールをコントロールし、黄金の左足を振り抜いた。
描かれたのは、急激にインスウィングで曲がり落ちる芸術的なアーリークロス。
スペインの意表を突く軌道に、世界最高峰のCB陣も一瞬足を止める。
その「わずかな死角」へと、影のように一歩早く侵入していたのは響木蒼生だった。
「……ここだ!」
バウンドに合わせて空中へ跳躍し、しなやかな体幹で肉体を捻る。
ドスッ――!
必殺のジャンピングダイレクトボレー!
放たれた一撃はスペインGKの差し出す手をあざ笑うかのように打ち破り、右サイドネットへ突き刺さった!
『1 - 0』!
「ゴーッッール!! 先制!! 響木蒼生!! スペインの堅守を打ち破ったのは、日本の絶対的ストライカー!! 悪魔的なクロスに完璧なタイミングで合わせました!!」
響木は吠えながらコーナーフラッグへと走り、駆け寄ってきた天才レフティーや仲間たちと抱き合った。
後がなくなったスペインは、怒涛の猛攻を仕掛けてくる。しかし、右サイドの天才プレーヤーや途中出場の選手たちがボールを保持して時間を使い、全員守備で最後まで1点を守り切った。
ピーーーッ! ピーーーッ! ピーーーッ!
勝利を告げる長笛が、シドニーの夜空に響き渡る。
『1 - 0』。
欧州の強豪・スペインを打ち破り、日本代表が史上初の「五輪決勝進出」を果たすとともに、銀メダル以上を確定させた瞬間だった。
歓喜に沸くピッチで、仲間たちとハイタッチを交わす響木。その視線の先には、いよいよ最後に掴み取るべき「世界一の称号(金メダル)」が待っていた。




