第三章第四話
シドニー五輪・準々決勝。
日本の前に立ちはだかったのは、あのブラジルから大金星を挙げたカメルーンを押し退け、グループリーグを堂々1位で突破してきたアメリカ代表だった。徹底された戦術的規律、強靭なフィジカル、そして幾度もの試練を潜り抜けてきた組織力が光る難敵だ。
「カメルーンの上をいったチームだ。一瞬の隙も見せるな」
フランス人監督の厳しい視線を受け止め、日本のイレブンは静かにピッチへと足を踏み入れた。
一発勝負のノックアウトステージ。雨上がりのシドニー・フットボール・スタジアムに、緊張のホイッスルが鳴り響く。
試合序盤、アメリカは圧倒的な推進力を前面に押し出し、日本の【フラットスリー】の裏へロングボールを執拗に放り込んできた。アメリカの巨漢FW陣が力任せに体をぶつけてくるが、中央の主将が冷静沈着にラインをコントロールし、右の熱血CBと左の「ボンバーヘッド」が鬼気迫る表情で跳ね返していく。
中盤では守備の鉄人と大型ボランチが激しい球際で体を張り、アメリカの二次攻撃を遮断。徐々に日本がゲームの主導権を握り始める。
そして前半34分、試合の均衡が破れた。
中盤の底で鉄人がボールを奪いきると、素早く中央の絶対的エースへ。エースは相手DFの激しいチャージにびくともせずボールをキープすると、右サイドへ寸分狂わぬサイドチェンジを配球する。
ボールを受けた黄金世代の天才プレーヤーが、柔らかなタッチで相手DFを揺さぶり、右足のアウトフロントで絶妙なループパスをペナルティエリア内へ供給。
そこへ、1997年世代のオフザボールの天才が巧みなランニングで相手CBを引き連れてスペースを作る。
空いたわずかな「エアポケット」――。 誰よりも早くその落下点に姿を現したのは、影のように気配を消していた響木蒼生だった。
「……捕まえた」
バウンドする球軌道に対し、響木はしなやかな跳躍から右足を一閃。
ドスッ――!
必殺のダイレクトボレー。 雨を含んだ重いボールが、アメリカGKの必死の差し出す手を弾き飛ばし、サイドネットを激しく揺らした。
『1 - 0』!
「ゴーッッール!! 先制!! 響木蒼生!! 息をのむような美しい崩しから、日本のエースが冷酷に仕留めました!!」
響木は感情を爆発させてベンチへと走り、アシストを送った天才プレーヤーや仲間たちと力強く抱き合った。
後半に入り、追いつきたいアメリカはなりふり構わず怒涛のパワープレイを仕掛けてくる。しかし、日本の【フラットスリー】はミリ単位の連動を崩さず、相手をことごとくオフサイドの罠へと陥れていく。
さらに後半29分には、左サイドから天才レフティーが蹴り込んだ悪魔的な曲がりのフリーキックに、途中出場のゴールデンエイジのエースストライカーが頭で叩き込んで決定的な追加点。
『2 - 0』!
最後まで集中を切らさなかった日本が、アメリカのパワーを完璧に完封。 『2 - 0』の完勝で難敵を退け、見事にベスト4(準決勝)進出を果たしたのだった。
試合後、汗を拭いながら引き揚げる響木のもとへ、主将が歩み寄ってくる。
「ナイスゴールだ、響木。アメリカの堅守を打ち破る最高の一撃だったよ」
「ありがとうございます! でも、ディフェンス陣がゼロで抑えてくれたおかげです」
控えめに笑う響木だったが、その瞳はすでに次なる戦い――メダルがかかる準決勝のピッチを見つめていた。




