第三章第二話
シドニー五輪・グループリーグ第2戦。 初戦の『3 - 0』という鮮烈な勝利は、大会に集う世界の強豪国へ強い警戒感を抱かせるのに十分だった。対戦相手のヨーロッパの参加国は、日本の圧倒的なパスワークと前線の決定力を警戒し、自陣深くへ固くブロックを築く徹底的な「引き込み策」を選択してきた。
しかし、フランス人名将が構築した【3-5-2/フラットスリー】と、融合した天才たちが誇るアイデアの前には、その泥臭い防壁すらも無意味だった。
「固いな。だが、揺さぶればどこかに必ず隙ができる」
トップ下に君臨する絶対的エースが、冷徹な眼差しで敵陣の配置を見抜く。
前半18分。 右サイドの天才プレーヤーが、ワンタッチのヒールパスで相手サイドバックの逆を突く。 そのスペースへオーバーラップしたのは、右CBの熱き闘士だった。果敢な持ち上がりから中央へグラウンダーのパスを供給すると、中央の絶対的エースが相手CBを二人まとめて背負い、力強くボールをキープ。
相手の守備陣が中央へキュッと凝縮したその刹那、絶対的エースから左サイドへ弾丸のようなサイドチェンジが放たれた。
フリーで待っていたのは、天才レフティー。 美しいトラップから、狙い澄ました黄金の左足が描く高精度のアーリークロス。
ペナルティエリア内には、オフザボールの天才が巧みなランニングで相手CBを引き連れてニアへニアへと飛び込んでいた。 その背後――ぽっかりと空いた「静寂の死角」。
「……そこだ」
影のように現れたのは、背番号9・響木蒼生。
相手DFが交錯し、視界から響木を見失った瞬間のクリアボールの落下点。 響木はステップを踏み変えると、バウンドするボールに対してノーモーションで右足を一閃した。
ドスッ――!
重厚な破破裂音がスタジアムを揺らす。 濡れた芝を滑るように放たれたハーフボレーは、相手GKの伸びた指先を嘲笑うかのように、サイドネットの内側へ鮮やかに突き刺さった。
『1 - 0』!!
「ゴーッッール!! 先制!! またしても響木蒼生!! 相手が固めた強固な防壁を、一瞬の隙を見逃さない極上の連動から打ち破りました!!」
シドニー・フットボール・スタジアムが揺れるような歓声に包まれる。 響木は駆け寄ってきた天才レフティーと拳を突き合わせ、照れくさそうにはにかんだ。
だが、日本の攻勢はこれで終わらない。 守備では、中央の主将がラインをミリ単位でコントロールし、相手のロングボールをすべて完璧なタイミングでオフサイドにかける。 左CBの「ボンバーヘッド」も圧倒的な高さで空中戦を制し、セカンドボールは守備の鉄人と大型ボランチが根こそぎ刈り取っていく。
後半15分、交代枠でピッチへ入った黄金世代のエースストライカーと天才ドリブラーが前線へさらなる推進力をもたらす。
後半27分。 天才ドリブラーが滑らかなダブルタッチで相手DFを二人置き去りにし、ペナルティエリア手前へスルーパス。 走り込んだ黄金世代のエースストライカーが強烈なミドルシュートを放つ。GKが必死にはじいたこぼれ球に、誰よりも早く反応していたのは響木だった。
「……もらった」
素早い詰めで泥臭く押し込み、自身この試合2ゴール目となる追加点(2 - 0)。
さらに試合終了間際の後半40分。 ボランチの鉄人が前線でボールを奪いきると、そのまま響木へ。 響木はシュート体勢に入ると見せかけて相手CBを引きつけ、右サイドからオーバーラップしてきたサブのスペシャリストへラストパス。これを冷静に流し込み、ダメ押しの3点目。
『3 - 0』!!
タイムアップの長笛が鳴り響く。試合終了の笛が鳴ると、スタジアム全体から大喝采の「ニッポン」コールが巻き起こる。
「ヒビキ、今日も完璧なポジション取りだったな!」
笑顔で駆け寄ってくる黄金世代のメンバーたちに、2ゴールを挙げた響木は「みんなのパスが凄すぎるだけだよ」と照れくさそうに頭を掻いた。
ピッチを降りれば謙虚な青年。だが、その足跡は確実にシドニーの地で「金メダル」へと向かって刻まれていた。
第1戦に続き、第2戦も『3 - 0』というぐうの音も出ない圧勝。 2試合連続の無失点&圧倒的スコアでの勝利に、現地オーストラリアのメディアも「このチームは一体何者なんだ」「A代表以上の完成度と破壊力だ」と絶賛の嵐を贈った。
ピッチ上で仲間たちと笑顔でハイタッチを交わす響木。 世界の超強豪たちを相手に、日本の誇る黄金の世代たちは、その圧倒的な強さを遺憾なく発揮しながら、金メダル獲得へ向けて容赦なく進撃を続けていた。




