第三章第一話
シドニー五輪編開幕です
2000年、9月。南半球の眩い光が降り注ぐ、オーストラリア・シドニー。
ミレニアムの節目に開催されたオリンピックのピッチには、日本フットボール史上最も眩烈な輝きを放つ若き将星たちが集結していた。
アトランタの奇跡を知る絶対的エースのトップ下を筆頭とする「アトランタ五輪世代」。 1997年の世界ユースで激闘を繰り広げた響木蒼生や天才レフティーらの「1997年ユース世代」。 そして、ワールドユース準優勝という快挙を成し遂げた「黄金世代」
オーバーエイジ枠を一切使用しない、オールU-23の超攻撃的集団。 A代表をも凌駕する戦術的完成度と熱狂的な人気を誇るこのチームを率いるのは、頑固なまでに己の美学を貫くフランス人名将だった。
彼が持ち込んだ落とし込みは、高度な組織的連動を求める戦術――【3-5-2/フラットスリー】。
ディフェンスラインの3枚がミリ単位で呼吸を合わせ、整然とラインを押し上げては相手 FWを冷酷にオフサイドの罠へと陥れる。そして中盤から前線にかけては、日本が誇る天才たちが縦横無尽にアイデアを交錯させる、まさに「史上最強」の名にふさわしいチームだった。
迎えたグループリーグ初戦。 シドニー・フットボール・スタジアムを埋め尽くした大観衆の前で、日本代表がピッチへと散っていく。
ゴールマウスを守るのは、黄金世代の絶対的守護神。 フラットスリーのセンターには、冷静沈着なインテリジェンスでラインを統率する1997年世代の主将。その右には闘志溢れる熱き熱血CB、左には練習生から泥臭く這い上がってきた「ボンバーヘッド」が頑強な壁としてそびえ立つ。
ボランチには、広大なスペースを一人でカバーする守備の鉄人と、強烈な推進力を誇る黄金世代の大型ボランチ。
前線はまさに眩惑の絵の具だった。 右サイドにシルクのようなタッチで観客を魅了する天才プレーヤー。 左サイドに魔法の左足を持つ天才レフティー。 そして中央のトップ下に鎮座するのは、圧倒的なフィジカルと世界基準のパスでゲームを支配する絶対的エース。
前線には、極上のスペースメイクで相手DFを撹乱するオフザボールの天才と、プレミアリーグで3冠を達成し、世界の頂点へと登り詰めた背番号9・響木蒼生が並び立つ。
「見せてやろう。俺たちのフットボールを」
絶対的エースの低い一言とともに、試合開始の笛が鳴り響いた。
対戦相手である世界の強豪国は、試合立ち上がりから日本の【フラットスリー】を切り崩そうと、前線へロングボールを放り込んでくる。 しかし、中央の主将が挙手とともにラインを提示すると、3枚のDFが一糸乱れぬ動きで同時に一歩前へ出た。
『ピーッ! オフサイド!』
完璧な連動。相手FWは苛立ちを露わにし、審判へアピールするが判定は覆らない。右の熱きCBが不敵に笑い、左のボンバーヘッドが豪快にハイボールを跳ね返していく。
そして前半22分、日本の誇る「至高のハーモニー」が爆発する。
自陣深くで鉄人のボランチが泥臭くボールを奪い取ると、素早く中盤の底の大型ボランチへ。 そこから右サイドへ展開されると、黄金世代の天才がボールをストップさせることなく、アウトフロントで柔らかい浮き球のパスを相手中盤の頭上へ通す。
ボールを受けたのは、トップ下の絶対的エースだった。 相手CBが力任せに潰しにかかるが、彼はびくともしない圧倒的なフィジカルで相手を背負い、反転しながら左サイドへ絶妙なスルーパスを打ち込む。
走り込んだ天才レフティーが、代名詞である魔法のの左足を振り抜く。 描かれたのは、ゴール前で急激にカーブしながら落ちる芸術的なクロス。
「……来た」
相手CB陣がボールを目で追う一瞬の隙。 オフザボールの天才が巧みなランニングでDFを引き連れてスペースを空けると、その「ぽっかりと空いた死角」へ、影のように滑り込んだ男がいた。
響木蒼生。
バウンドする球軌道。響木はノーモーションで空中へ躍動する。
ドスッ――!
必殺の、ジャンピングダイレクトボレー。
雨を切り裂くような重厚な破裂音がスタジアムに響き渡り、放たれたシュートは相手GKの手をかすめることすら許さず、ゴール左上の天井ネットを激しく突き破った。
『1 - 0』!!
「ゴーッッール!! 先制!! 響木蒼生!! 完璧な崩し! 黄金世代、1997年世代、アトランタ世代の旋律が見事に重なり合った、圧巻のコンビネーションから日本の超新星が叩き込みました!!」
大歓声に包まれるシドニーのスタジアム。 跳び上がってガッツポーズを作る響木のもとへ、右サイドから天才プレーヤーが弾けるような笑顔で飛びつき、左サイドの天才レフティー、そして絶対的エースが不敵な笑みを浮かべて歩み寄ってくる。
「ナイスボレー、まあまあだな。」
「ハハハ。相変わらず、キレキレだね。左足のキック!」
ピッチを降りれば謙虚で大人しい青年だが、その一撃は世界の強豪を恐怖に陥れる冷酷そのものだった。
勢いに乗った日本は止まらない。 ベンチには1997年ユース世代の右のスペシャリスト、黄金世代のエースストライカーや左サイドの天才ドリブラー、レジスタ、ユーティリティープレイヤーといった破格のカードが控え、層の厚さでも相手を圧倒。後半にも響木が再び死角からのワンタッチで追加点を奪い、初戦を『3 - 0』という圧倒的なスコアで粉砕してみせた。
ベンチ際、腕を組んで佇むフランス人名将が、満足そうに眼鏡の奥の目を細める。
「美しい……これぞ私が求めていた、組織と個が融合した究極のフットボールだ」
A代表をも凌ぐ熱狂と強さを見せつけ、世界中を驚愕させたシドニー五輪の初戦。 金メダル獲得への栄光のロードマップは、この圧巻の輝きとともに鮮やかに幕を開けたのだった。




