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第二章第十九話

1999年、11月。初冬の冷気と熱気が交錯する東京・国立競技場。


クラブ世界一を決める最高峰の舞台――「トヨタカップ」。

欧州王者として日本への凱旋を果たした赤い悪魔を、スタンドを埋め尽くした超満員の超満員のサポーターが大歓声で迎え入れていた。


「見ろ……帰ってきたぞ! 世界の頂点に立った、俺たちの響木が!!」


ピッチ上には、欧州を震撼させた【4-4-2】の最強陣容が並び立つ。

その前線で背番号9を背負う響木蒼生は、国立の芝の感触を噛みしめながら、静かに息を吐き出した。


そして、試合開始のホイッスルとともに、欧州王者の破壊的なフットボールが爆発する。


前半12分。

右サイド深く、「貴公子」が美しいフォームから放った黄金のアーリークロス。

南米王者の強烈なCB陣が一瞬判断を迷ったその死角へ、影のように潜り込んだのは響木だった。

バウンド直前、しなやかに身体を捻ってのジャンピングダイレクトボレー。

弾丸のようなシュートがゴールネットを揺らし、早々と先制(1 - 0)。


勢いは止まらない。

前半28分には、万能型FWとの絶妙なワンツーからペナルティエリア内に侵入し、GKの位置を冷静に見極めた冷酷なワンタッチシュートで2点目。


さらに前半41分。

左サイドの天才ドリブラーが切り裂いたグラウンダーのクロスに、相手DFの背後から滑り込んで泥臭く押し込み、前半だけで圧巻のハットトリックを達成した。


『3 - 0』。


世界のトップで揉まれ続けた日本の捕食者が見せつけた、あまりにも異次元の勝負強さと完成度。前半のうちに試合の趨勢は完全に決していた。


ハーフタイム。

湿度の高い熱気が漂う控室で、名将が満足そうにガムを鳴らし、響木の肩を叩いた。


「ヒビキ、見事な仕事だった。後半はお前を休ませる」

「……はい、ボス! ありがとうございました!」


前半45分のみの出場。しかし、国立競技場のサポーターたちに衝撃と歓喜を刻みつけるには、あまりにも十分すぎる時間だった。


試合はそのまま『3 - 0』でタイムアップ。

赤い悪魔がトヨタカップを制し、名実ともに世界王者の頂点へと輝いた。


表彰式を終え、熱狂の冷めやらぬ国立競技場の関係者エリア。

長道を進む響木の視線の先に、忘れもしない懐かしい顔ぶれが並んでいた。


「よお、世界一のストライカー殿!」


真っ先に大声を上げて駆け寄ってきたのは、かつて共に汗と泥を流した「ステラマーレ函館」の元チームメイトたちだった。

原野が豪快に響木の肩を抱き寄せ、門倉キャプテンと沖瀬が温かい微笑みを浮かべる。


さらにその奥には、鬼方(おにかた) 陣(じん)監督をはじめ、ヘッドコーチ、GM、そしてスカウトの伊波。

そしてもう二人――響木のスパイクを誰よりも丁寧に磨き、手入れし続けてくれた名物ホペイロと財務担当の姿があった。


「あ……みなさん……!」

おどおどとした素顔に戻った響木は、恐縮しながら深々と頭を下げた。


「おいおい、ヒビキ! なんだよ前半だけでハットトリックって! 容赦なさすぎるだろ!」

原野が笑いながら背中をバシバシと叩く。

「フフ、相変わらずあの死角に入るタイミングは芸術的だったよ」と沖瀬が頷けば、「世界一になっても、ピッチを降りると相変わらず借りてきた猫だな」と門倉が目を細めた。


そして、名物ホペイロの老人が、愛おしそうに響木の足元を見つめ、静かに歩み寄ってきた。


「ヒビキくん……向こうに行っても、スパイクの手入れは怠っていないようだね。手入れの行き届いたいい革の匂いがする」

「あ……はい! 源さん(ホペイロ)に教えていただいた通り、試合の後は自分で磨いています。源さんの磨いてくれたあのスパイクがあったから、僕はここまで来られました」


響木のまっすぐな言葉に、老ホペイロは目頭を熱くさせながら深く頷いた。 その姿を黙って見つめている財務担当の崎山(さきやま) 帰(じん)。


「よし……よし。それでこそ、我らがステラマーレのストライカーだ」


少し後ろでパイプを咥えていたスカウトの伊波が、目尻のシワを深くして笑う。

「鬼方さん、俺の言った通りだったでしょう。あいつは世界のどこへ行こうと変わらないですよ」


腕を組んだまま静かにたたずんでいた鬼方 陣 監督が、ゆっくりと響木の目の前へ歩み出た。

厳格な眼差し。だが、その瞳の奥には温かい誇りが溢れていた。


「響木」

「はい! 鬼方監督!」


「見事な戦いだった。お前が背負ってきた『誠』の誇りは、今や世界を照らす光となった。……だが、ここはゴールではない。お前のフットボール人生は、まだまだ続いていくのだからな」


「……はいッ!!」


胸の奥から湧き上がる熱い想いに、響木は力強く頷いた。


北の港町で出会った大切な仲間、スタッフ、そして自分を育んでくれた誇り高きチーム。

世界王者の称号を手にした今も、自分の原点はいつでもあの函館の地に、そして仲間たちの温かい絆の中にあった。


夜空に輝く満月のもと、仲間たちの温かい笑顔と歓声に包まれながら、響木蒼生は心からの笑顔を弾けさせた。


――『第一部・第二章:プレミア&世界頂点編』完――

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