第二章第十七話
プレミアリーグは冬の白く冷たい猛威を振るい始めていた。
雨と泥、そして容赦ないフィジカルの激突が支配するピッチ。だが、オールド・トラッフォードのピッチ上には、世界中のフットボールファンを歓喜させる至高の旋律が奏でられていた。
名将が構築した伝統の【フラット型 4-4-2】。
その布陣は、まさに隙のない完成された要塞であり、同時に破壊的な攻撃機構だった。
最後尾には、圧倒的な威圧感でゴールマウスに立ちはだかるデンマーク代表の巨漢GK。
最終ラインの中央には、相手ストライカーを物理的に圧倒するオランダ代表の絶対的CB。
中盤の底では、激しいタックルと強烈なキャプテンシーでチームを締め直すアイルランドの闘将が睨みを効かせ、左サイドからはウェールズの天才ドリブラーが爆発的なスピードで相手陣内を切り裂く。
そして、名将の手によってユース時代から丹念に鍛え上げられた生え抜き組――「ひな鳥」と呼ばれる精鋭たちが、阿吽の呼吸でチームの精度と強度を支えていた。
そしてフロントライン――。
トリニダード・トバゴ出身の万能型FWの柔軟で変幻自在なポストプレイと連動し、相手CB陣の視界の外、わずかな「死角」へと影のように滑り込むのが、背番号9・響木蒼生だった。
「ヒビキ! 行けッ!」
右サイド深く。相手サイドバックのマークをあざ笑うかのようにかわした「貴公子」が、美しいフォームから右足を振り抜く。
描かれるのは、雨を切り裂く黄金のアーリークロス。
相手CBが「届かない」と判断した絶妙な軌道。そのボールの落下点へと、誰よりも早く、気配を消して潜り込んでいたのは響木だった。
バウンドする直前、空中へと躍動する響木の肉体。
ドスッ――!
必殺の、ジャンピングダイレクトボレー。
放たれたボールは雨の粒子を散らしながら、相手GKの差し出す手を嘲笑うかのようにサイドネットへ突き刺さった。
「ゴーッッール!! またしてもこの二人のコンビネーション!! 貴公子のピンポイントクロスから、響木蒼生が完璧なダイレクトボレー!! プレミアを震撼させる『黄金のホットライン』が、今日も夢の劇場で爆発しました!!」
実況の熱狂的な叫びとともに、オールド・トラッフォードが揺れる。
ゴールを決め、胸を叩いて雄叫びをあげる響木のもとへ、右サイドから貴公子が弾けるような笑顔で駆け寄ってくる。
"Great goal, Hibiki! Perfect!"
(見事なゴールだ、ヒビキ! 完璧だったよ!)
豪快に抱きついてくる貴公子の背中に、普段はおどおどとした控えめな響木も、勝利の熱狂の中で照れくさそうに笑い返した。
「センキュー! アシスト、サンキューです!」
試合を重ねるごとに精度を増していく二人の連携。メディアやサポーターは、この右サイドからの放たれる精密なアーリークロスと、ペナルティエリアで冷酷に仕留める響木のボレーのラインを敬意と恐怖を込めて『黄金のホットライン』と呼んだ。
セントラルミッドフィルダーで目を光らせるアイルランドの闘将も、無言で響木の肩をガシッと力強く叩き、不敵な笑みを浮かべる。
巨漢GKも自陣のゴール前から「ナイスゴールだ、小僧!」と雷鳴のような大声で吠えていた。
プレミアリーグ特有の激しい削り合いや、巨漢DFたちの容赦ないチャージにも揉まれながら、響木は確実にゴールを重ねていく。
言葉の壁は依然として厚かったが、ピッチの上で彼が示す「冷酷なゴール」という結果が、気性の荒いチームメイトや気高きサポーターたちの信頼を完全に勝ち取っていた。
響木のゴール量産とともに、チームはリーグ戦で破竹の連勝街道を突き進んでいく。
ベンチ際、腕を組みながらその光景を見つめる名将は、噛んでいたガムを鳴らし、満足げに目を細めた。
「フッ……東洋から来た捕食者が、我が『赤い悪魔』の完璧なピースになったな」
プレミアの冬空に響き渡る、サポーターたちの『ヒビキ』コール。
北の港町で生まれた浅葱色の才能は、世界最高峰のメガクラブで黄金のホットラインを形成し、世界のフットボールシーンを塗り替える圧巻の進撃を続けていた。




