第二章第八話
グループリーグ第2戦。ナントのピッチには、前節アルゼンチンを撃破し勢いに乗る日本代表と、激しいフィジカルと高度な組織力を誇る欧州の雄・クロアチア代表が対峙していた。
「アルゼンチン戦の勝利がフロックでないことを、ここで証明する」
ピッチ中央で腕を組む絶対的エースのトップ下が放つオーラは、世界的強豪の司令塔たちを凌駕していた。
前半28分、試合が動く。
左利きのボランチが中盤の激しい攻防からボールを奪い取ると、前線の広大なスペースへ完璧な低軌道のパスを打ち込む。
そこへ現れたのは、クロアチアの堅牢なCB陣の「視界の外」から滑り込んできた背番号9――響木蒼生だった。
ペナルティエリア左角から進入した響木は、ボールの勢いを殺さぬまま右足アウトサイドでファーストタッチ。相手GKが慌てて飛び出してきた瞬間、冷酷なまでに落ち着き払った動作で、逆サイドのネットへと滑り込ませるインサイドシュートを放った。
鮮烈な先制ゴール。
クロアチアの守備陣が互いに顔を見合わせ、信じられないというように首を振る。ピッチ外では猫背で控えめにはにかむ青年が、ペナルティエリアの中では世界屈指のディフェンダーたちを静かに狩る死神と化していた。
後半に入っても日本の勢いは衰えない。後半15分、絶対的エースのトップ下が相手二人を引きつけて出したスルーパスに、再び響木が反応する。
ペナルティエリア中央、強烈なプレスに来た相手CBの足が伸びる寸前、跳躍しながらのダイレクトボレー。ボールはGKの頭上を突き抜け、豪快にゴールネットを揺らした。
2 - 0。
響木の2打席連続となる圧倒的な得点力に、ナントのスタジアムは大きな歓声に包まれた。
試合終了間際の後半43分、クロアチアも反撃に出る。
左サイドからのグラウンダーのクロスに対し、クロアチアの絶対的エースである「背番号9」のストライカー(ダヴォール・シューケルがモチーフ)が、天才的な左足のファーストタッチで日本のDFをかわし、泥臭くゴール左隅へ流し込んだ。
世界屈指のストライカーとしての執念を見せつける1点。
だが、反撃もここまでだった。
長いホイッスルが響き渡り、スコアは『2 - 1』。
開幕2連勝。
この瞬間、日本代表は1試合を残して、歴史上初となる「ワールドカップ・グループリーグ突破(決勝トーナメント進出)」という偉業を確定させた。
第3戦のジャマイカ戦。
すでに首位通過への圧倒的な優位性を確保し、決勝トーナメントの過酷な戦いを見据えた日本代表は、大幅なターンオーバーを断行した。
絶対的エースのトップ下、左利きのボランチ、そして連戦で絶大な存在感を示した響木をはじめとする主力を温存し、控えメンバーを中心とした布陣で臨む。
連携に苦しんだ日本は、フィジカルとスピードに勝るジャマイカに2点を先行され、『0 - 2』で敗戦を喫した。
しかし、別会場で行われていた「アルゼンチン vs クロアチア」の死闘が、世界中に激震を走らせることになる。
背水の陣で挑んだアルゼンチンだったが、クロアチアの堅守を崩せず敗退。この結果、グループHの最終順位は誰もが予測し得なかった結末を迎えた。
【グループH 最終結果】
1位:日本(勝ち点6)――歴 史的首位通過
2位:クロアチア(勝ち点6)―― 2位通過
3位:アルゼンチン(勝ち点3)―― グループリーグ敗退
南米の超強豪・アルゼンチンが姿を消し、アジアの超新星・日本がグループ首位で16強へと躍り出た。
ジャマイカ戦をベンチから静かに見つめていた響木蒼生は、体力を完全に回復させた状態で、次なるノックアウトステージという真の死闘の舞台を見据えていた。




