第八章第九話
2015年、春。晴れ渡る空のもと、満員のサポーターが埋め尽くすスタジアムで、ついに「プリズンガーディアン島根」のJ2開幕戦が火ぶたを切ろうとしていた。
対戦相手は、元日本代表の司令塔と身長190cmを超える超ド級のブラジル人FWを擁する、J2最有力・J1昇格候補の強豪プロクラブ。圧倒的な資金力とタレント力を誇る相手に対し、島根は弁護士である法条監督が構築した
【可変型3-4-2-1】で挑む。
「みんな、相手のネームバリューに怯む必要はない。我々のロジックはJ2でも完璧に通用する」
法条監督が冷徹に告げ、開業医の神田コーチが一人ひとりの体調と心拍数を確認して力強く背中を叩く。
『ピィィィッ!』
主審の甲高いホイッスルが響き、激闘のJ2開幕戦がキックオフされた!
序盤、J2の強烈なプレッシャーとスピードにスタジアムが息をのむ。相手チームはキックオフ直後から巨漢FWへロングボールを放り込み、圧倒的なフィジカルで島根の防衛線を粉砕しにかかってきた。
「来いッ! J2の助っ人外人!!」
立ち塞がったのは、農協の巨漢CB大河原、そして今季新加入した「大卒ルーキーCB」の二人――神矢蓮と佐伯慎一だった。
ブラッドが空中戦で圧倒的な跳躍を見せるが、大卒ルーキー中央CBの神矢が圧倒的な高さと抜群のタイミングで体を寄せ、自由を奪う。さらに、右CBの佐伯が鋭いリスク察知で落ちてくるこぼれ球を完璧に回収!
「ナイスカバー、佐伯! ライン上げるぞ!」
「了解! 神矢さん、相手の裏抜けケア入ります!」
大学サッカー界を制した神矢の統制力と高さ、佐伯のカバーリングと展開力。そこに大河原の泥臭いパワーが融合した「新3CB」は、J2屈指の破壊力を誇る相手攻撃陣を前に、一歩も引かない鉄壁の塞を見せる。最後方では大型GK桐生が「絶対零度のセービング」で決定機をシャットアウトした。
「すごい……! J2の強力外人に、島根の3バックが完全に競り勝ってるぞ!」
スタンドのサポーターからどよめきが起きる。
相手の攻撃を完封し続けた前半を『0 - 0』で折り返し、試合は後半35分を迎えた。
焦りを見せ始めた相手チームが全線を押し上げ、前傾姿勢になったその瞬間――法条監督の『可変戦術』が牙をむく。
「左の早坂、右の藤井! スイッチを入れろ!」
守備時に5バックを形成していた左WBのプロ契約・早坂と、右WBの信金マン・藤井が、一転して爆音のようなスプリントで相手陣地へ駆け上がる。左右の広大な幅を使った同時押し上げに、相手のDFラインが激しく揺さぶられた。
「ボランチ拾え!」
高校教師CH石川と武闘派CH黒木が身体を張ってセカンドボールを奪取。
右CBの大卒ルーキー・佐伯が前線へ進み出ると、右足からレーザービームのような低空ロングフィードを放つ!
「響木さんッ! 行けーーッ!!」
佐伯の精密なフィードが向かう先。
1トップの響木蒼生は、あえて相手CB2人の密着を受けながら、ペナルティエリア外へと静かに降りる動きを見せた。
「逃がすな! 響木を囲め!」
相手DF3人が響木の足元を警戒し、吸い寄せられるように前傾姿勢をとる。
しかし――コンマ数秒後。
響木はボールを受ける直前、影が消えるかのような電光石火のバックステップを踏み、相手の視線が途切れた「絶対的なエアポケット(死角)」へと身を躍らせた。
「な……消えた!?」
ヘディングを封印した男が狙うのは、地上の真空地帯。
佐伯のフィードを、前線へ飛び込んできた信金WB藤井が頭で落とす。
ワンバウンドしたボールが落ちるその場所には、すでに右足を振り抜く体勢を完璧に整えた背番号9の姿があった。
相手GKが絶望的な表情で手を伸ばす。
だが、響木の右足アウトフロントから放たれたボールは、ノーモーションのまま鋭くカーブを描き、左サイドネットへと突き刺さった!
ドスッ――!
『1 - 0』!
「ゴーッッール!! 響木蒼生ーーッ!! 電光石火の一撃!! 大卒ルーキーCB佐伯の絶妙フィードから、公務員ストライカーの一蹴がJ2開幕戦で破裂しました!!」
地鳴りのような歓声がスタジアムを揺らす!
「響木さん!!」
アシストの起点となった大卒CB佐伯と神矢が叫びながら駆け寄り、右WBの藤井、ボランチの石川と黒木、そして大河原が響木を揉みくしゃにする。
アディショナルタイムの猛攻も、神矢と佐伯を中心とする3CBが最後まで完封。
『1 - 0』!
J2優勝候補の強豪プロクラブを相手に、プリズンガーディアン島根は衝撃の「J2開幕戦完封勝利」を飾り、全国のJリーグファンにその名を轟かせたのだった。




