第八章第七話
J3初代王者となり、悲願のJ2昇格を決めてから数週間。
熱狂が静まり返った初冬の島根で、クラブは歓喜の余韻に浸る間もなく、新たな「現実」という壁にぶち当たっていた。
J2ライセンスの交付、そしてJ2参入条件を満たすためのスタジアム整備費やクラブ運営費の大幅な増額――。
その重圧を一身に背負っていたのが、GMの門倉だった。
「J2となれば、遠征費も運営規模もJ3の比ではない……。数億円規模の資金を確保しなければ、昇格の権利そのものが露と消える」
門倉は連日、地元の政財界や地元企業、金融機関を奔走していた。時には厳しい条件を突きつけられ、門頭を払われることもあった。しかし、泥まみれになりながら頭を下げ続ける門倉の胸にあったのは、あのピッチで死に物狂いでボールを追いかけ、街に夢を与えた選手たちの姿だった。
「彼らは仕事とサッカーの二足の草鞋を履き、最高の形で結果を出してくれた。今度は俺が、クラブが、彼らをJ2の舞台へ立たせる番だ!」
門倉の熱意と、地元・島根の熱狂的な後押しが動きを生む。地元の有力企業や金融機関が相次いでスポンサー名乗りを上げ、サポーターや市民による小口募金運動も巻き起こった。門倉の血と汗が滲むような資金調達の努力が実を結び、クラブは見事にJ2参加条件をクリアしてみせたのだった。
一方、公務員としての響木蒼生の日常にも、静かな変化と決意が宿っていた。
職場での業務をいつも通り粛々と終えた夕暮れ時。
書類を片付ける響木の元へ、同僚たちが笑顔で声をかけてくる。
「響木さん、J2昇格本当におめでとうございます! 門倉GMが資金集めで駆け回っているニュースを見て、私たちもすごく勇気をもらいました」
「J2になると、全国ネットのTV中継や強豪クラブとの対戦も増えますね。職場のみんなでずっと応援していますよ!」
「ありがとうございます。門倉GMや地域の皆さんのおかげで、僕たちは次の舞台へ立てます。公務員としての職務を全うしながら、J2のピッチでも最高の結果を出してみせます」
響木は静かに頭を下げ、胸の奥で誓いを新たにした。
その夜、改修工事が進むホームスタジアムのピッチ端で、響木と門倉は並んでグラウンドを見つめていた。
「響木……何とか資金の目処が立ったよ。お前たちをJ2へ連れて行ける」
安堵と疲労の混じった表情で語る門倉に、響木は温かい視線を送った。
「門倉さん、本当に感謝します。あなたが命がけで作ってくれた舞台です。僕たちは決して無駄にはしません」
「J2は甘くないぞ。元日本代表や強力な外国人助っ人を擁するメガクラブがズラリと並んでいる。過密日程も厳しくなるはずだ」
「ええ。ですが、どんな猛者が相手であろうと、弁護士の法条監督、開業医の神田コーチ、そして僕たちの3-4-2-1と二足の草鞋の絆があれば戦えます。僕が狙う地上のエアポケットは、J2のピッチでも確実に存在しますから」
響木の澄んだ瞳に宿る、圧倒的なまでの自信とストイックな闘志。
J3王者から、プロの猛者たちが蠢く戦場「J2」へ。
門倉の執念によって開かれた扉の先で、二足の草鞋を履く怪物・響木蒼生と「プリズンガーディアン島根」の次なる壮大な挑戦が、今まさに始まろうとしていた。




