第八章第三話
2014年、春。ついに迎えた「J3リーグ」の歴史的な開幕戦。
超満員の観客が集うスタジアムには、新設されたプロリーグの熱気が充満していた。対戦相手は、J2昇格の筆頭候補と目される若手プロ予備軍主体の強豪クラブ。圧倒的なフィジカルとスピードを誇る相手に対し、「プリズンガーディアン島根」は弁護士である法条監督が授けた【3-4-2-1】の新システムでピッチへと送り出された。
「みんな、相手の個の能力に臆する必要はない。我々の3-4-2-1は、理論上完璧に噛み合うように設計されている」
弁護士らしく論理的な口調で法条監督が語りかけ、開業医の神田コーチが選手一人ひとりの顔色と脈拍を確認して送り出す。
『ピィィィッ!』
主審の長笛とともに、運命の開幕戦がキックオフされた。
序盤、相手は強烈なハイプレスを仕掛け、島根の陣地に攻め込んでくる。しかし、最後方にそびえ立つのは新加入のプロ契約GK・桐生と、農協の巨漢CB・大河原を中心とする3バックだった。
「跳ね返すぞ! 空中は俺に任せろ!」
大河原が激しいボディコンタクトで相手FWを抑え込み、こぼれたハイボールを大型GK桐生が圧倒的な威圧感でキャッチする。
「ナイス大河原さん! 前へ繋ぐぞ!」
中盤では、体育教師ボランチの石川が泥臭いタックルで相手の攻撃の芽を摘み、新加入の武闘派ボランチ・黒木が鋭い刈り取りでセカンドボールを回収。ダブルボランチが中盤を完全に強固なフィルターへと変えていく。
そして、試合が動いたのは前半35分。法条監督の【3-4-2-1】の戦術メカニズムが完璧な化学反応を引き起こす。
「早坂! 藤井! 両サイドを押し上げろ!」
左WBのプロ契約・早坂と、右WBの信金マン・藤井が同時に高い位置へスプリント。幅を使った揺さぶりに相手DF陣の視線が散る。
その瞬間、1トップ(ST)の響木蒼生が、あえてペナルティエリアから中盤へとすっと降りる動きを見せた。
「響木が引いた! マークを外すな!」
相手CBがたまらず響木につられて前傾姿勢になったコンマ数秒――。
響木が空けた広大なスペース(バイタルエリア)へ、2シャドーが斜めに飛び込む。相手DFラインに一瞬の亀裂が生じた。
「響木さん! ここだ!」
右WBの藤井が精密な低空クロスを前線へ送る。
相手GK桐生をも怯ませる地上戦の精度。だが、相手CB陣は死に物狂いでクリアに入り、ボールはペナルティエリア手前へとこぼれた。
相手DF陣が「弾き返した」と確信し、一瞬だけ視線と意識を切ったコンマ数秒の“エアポケット(真空地帯)”。
そこに現れたのは、降りる動作から影のようにバックステップを踏み、完全に相手の死角へと潜り込んでいた響木蒼生だった。
「な……いつの間にそこに!?」
ヘディングを封印した響木は、空中戦の競り合いには一切参加しない。しかし、ボールの落ち際、相手の意識が遮断されたコンマ一秒の隙間を冷徹に見極めていた。
ノーモーションで右足アウトフロントを一閃!
ドスッ――!
地を這うような無回転ライナーが、相手GKの伸ばした手の先をすり抜け、左サイドネットを激しく揺らした!
『1 - 0』!
「ゴーッッール!! 響木蒼生!! J3開幕戦、鮮烈なる先制ゴール!! 法条監督の3-4-2-1が見事な機能を見せ、公務員ストライカーの一蹴がJ3のピッチを揺らしました!!」
「響木さん!! 最高のポジショニングだ!!」
アシストを決めた信金WB藤井が叫びながら飛びつき、武闘派CH黒木と熱血CH石川がハイタッチを交わす。最後方ではGK桐生とCB大河原が力強く拳を突き上げた。
プロ契約の3名(桐生・黒木・早坂)と、生え抜きの社会人組(大河原・藤井・石川)、そして二足の草鞋を履くエース響木。
職種もバックグラウンドも異なる彼らが【3-4-2-1】のシステムのもとで完璧に融合し、プリズンガーディアン島根はJ3開幕戦を『2 - 0』の完封勝利で飾ったのだった。




