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第5話 冒険者ギルドと、捨てられた過去

商業ギルド・ヴェルナを後にした佐藤、鈴木、アリッサの三人は、王都の街道を歩いていた。


 巨大な商業ギルドを出たところで、鈴木が腹を押さえる。


「……お腹空きました」


「お前、さっきまでギルドで散々騒いでただろ」


「頭を使ったのでお腹が空いたんです!」


「何もしてないだろ」


 佐藤が呆れていると、通りの先から香ばしい匂いが漂ってきた。


「おっ、あれ食べましょう!」


 鈴木が駆け出す。


 そこには、串に刺された肉を焼く屋台があった。


「ロックボアの串焼き、どうだい!」


「ロックボア?」


 佐藤が足を止める。


 屋台には、こんがり焼かれた肉が並んでいる。


「魔獣の肉だよ」


「……魔獣って食えるのか?」


「普通に食べるわよ」


 アリッサが当然のように答えた。


「魔獣ってモンスターだろ?」


「だから何?」


「いや、ゲームだと倒したら素材になるイメージでな」


「この世界では食料にもなるの」


 佐藤は少し考えた後、串焼きを一本手に取る。


「……まあ、食ってみるか」


「いただきます!」


 鈴木は勢いよくかぶりついた。


「美味しい!」


「……うん、普通に肉だな」


 佐藤も一口食べる。


 香ばしい肉汁が口の中に広がった。


「魔獣って言っても、種類によっては食用になるのよ」


 アリッサが説明する。


「冒険者ギルドなんかじゃ、こういう魔獣の討伐依頼も出るわ。人里に出てきたり、畑を荒らしたりする奴もいるからね」


「なるほど」


 鈴木が頷く。


「じゃあ、魔族と魔獣って同じなんですか?」


「全然違うわ」


 アリッサは即答した。


「魔族は知性を持っていて、言葉を話したり、社会を作ったりする種族。人間やエルフ、ドワーフみたいなものよ」


「じゃあ魔獣は?」


「魔力によって生まれたり、変異した獣やモンスター。基本的には別物」


「なるほど……」


 鈴木は串を食べながら納得する。


「じゃあドラゴンは?」


「……ドラゴンはちょっと特殊ね」


 アリッサの表情が変わった。


「知性が高い種類も多いし、言葉を話す個体もいる。長命で、独自の文化や社会を持つ種族もいるから、どちらかと言えば魔族側に近いわ」


 佐藤は頷いた。


「つまり、ドラゴンは普通の魔獣とは考えないほうがいい、と」


「そういうこと」


 アリッサは真剣な顔で言った。


「ドラゴンには手を出すなよ。魔族が黙ってない」


「……怖いな」


「冒険者ギルドだって、ドラゴンが人里を襲うような場合でもなければ、普通は討伐依頼なんて出さないわ」


「じゃあドラゴンの卵とか見つけたら?」


 鈴木が尋ねる。


「見ても見ぬふり」


「そんなに!?」


「絶対に触るな。持ち帰るな。売るな」


「分かりました……」


 三人はロックボアを食べ終え、再び歩き出した。


 向かう先は――冒険者ギルド・グランツ。


「私は冒険者になります!」


 鈴木が胸を張る。


「俺はならないぞ」


「なんでですか佐藤さん!」


「面倒くさいからだ」


「アリッサさんは?」


「私もパス」


「えぇ……」


 こうして鈴木だけが冒険者登録へ向かうことになった。


 冒険者ギルド・グランツは、商業ギルド・ヴェルナとは正反対だった。


 飾り気がなく、実用性重視。


 冒険者が依頼を受け、魔獣を討伐し、素材を持ち帰る。


 それだけに特化したような建物だった。


「では登録してきます!」


「行ってこい」


「佐藤さんも登録しましょうよ!」


「俺はいい」


「アリッサさんは?」


「私もいい」


「二人とも冷たい!」


 鈴木は受付へ向かった。


 そして登録用の魔法陣の上に立つ。


「それでは登録を開始します」


 魔法陣が光る。


 ――その瞬間。


『エラー……』


「え?」


『エラー……エラー……』


 魔法陣が激しく明滅する。


 次の瞬間。


 ――警報が鳴り響いた。


「何だ!?」


「登録処理が止まりました!」


「原因は!?」


 ギルド内が騒然となる。


 やがて奥から、一人の男が姿を現した。


「何の騒ぎだ」


 冒険者ギルド・グランツのギルド長。


 グラド・ヴァレン。


 その姿を見た瞬間、アリッサが露骨に嫌そうな顔をした。


「あーあー……面倒くさいのが来た?」


 そして佐藤の腕を掴む。


「佐藤、さっさとずらかるわよ」


「鈴木は?」


「置いていきましょう」


「えっ、ちょっとひどい!」


 しかし、逃げる前にガルドがアリッサを見つけた。


「お前……アリシア・ルイドヴォルケンだな!!」


「げっ」


「性懲りもなく冒険者ギルドに何の用だ!」


 佐藤はアリッサを見る。


「おい、お前何したんだよ」


「何もしてないわよ!」


 グラドはアリッサを睨みつける。


「お前ら、商業ギルドにも寄ってきたんだろう」


「なんで知ってんのよ」


「エドガルドから連絡が来たんだよ」


 その名前を聞いた瞬間。


 グラドの手にあったコーヒーカップが――


 ピクッ。


「……あのクソ野郎」


 佐藤は思った。


 どうやら商業ギルドと冒険者ギルドの仲は、想像以上に悪いらしい。


「で、こいつら何もんだ!」


 グラドが佐藤と鈴木を見る。


「教えろよ、アリシア。昔のよしみだろ」


「はぁ~……?」


 アリッサは大きくため息をついた。


「異世界召喚したのよ。二人は」


「いや、お前の魔導書のせいだからな」


「余計なこと言わない!」


 グラドは頭を抱えた。


 そして鈴木の登録エラーを確認する。


「エラーは……おそらく、システムがこの世界の人間を前提に作られてるからかもしれんな」


「そんなことあるんですか?」


「知らん。こんなケースは初めてだ」


 通常の登録はできない。


 そこでグラドは例外として、鈴木を手動登録することにした。


「悪いがFランクから頼むぞ」


「聞きましたか佐藤さん!」


 鈴木の目が輝いた。


「Fランクですよ!」


「おう」


「ってことは、あれですね」


 鈴木は妙に自信満々な顔をする。


「薬草とかドブ掃除ですね!」


「……妙にリアルなこと知ってるわね」


 アリッサが呆れる。


「お前、異世界に来る前から知ってたのか?」


「ラノベで読みました!」


「またこいつはラノベを持ち込んで」


 佐藤は頭を抱えた。


 クラドは淡々と説明する。


「Fランクは薬草採取、簡単な雑用、町の手伝い。まあ、便利屋みたいなもんだ」


「頑張ってランクを上げます!」


 鈴木は拳を握った。


 こうして鈴木愛生は、Fランク冒険者として登録された。


 その後、三人はギルド長室を出た。


 廊下を歩きながら、佐藤はアリッサに尋ねる。


「おいアリッサ。ギルド長となんかあったのか」


「……」


 アリッサは少し黙った。


「昔パーティを組んでただけ」


「……だけ?」


「だけよ」


 鈴木が食いつく。


「えっ! アリッサさんとグラドさんがパーティ!?」


「昔の話よ」


「仲良かったんですか?」


「まあ、それなりに」


 佐藤はアリッサの表情を見る。


「でも、向こうはかなりお前のこと知ってたぞ」


「昔一緒に冒険してたんだから当然でしょ」


 その時。


 アリッサが足を止めた。


「……彼奴等は何もかも……全て捨てたのよ」


「彼奴等?」


 鈴木が聞き返す。


「昔、私たちは五人でパーティを組んでた」


 アリッサは静かに語った。


 グラドも、その一人だった。


 五人で冒険を続け、名の知れたパーティになった。


 だが――ある事件を境に、彼奴等は全てを捨てた。


「冒険も、仲間も、夢も……全部捨てた」


「グラドも?」


「……ええ」


「それで今はギルド長か」


「そう。冒険者を支える側に回った」


 アリッサは拳を握る。


「だから私は、あいつらが嫌いなのよ」


「嫌い?」


「自分たちが何もかも捨てたくせに……私まで置いていったから」


 重い空気が流れる。


 しかし――。


 鈴木の目が、突然キラキラと輝いた。


「もしかしてアリッサさんは追放されたんですか?」


「……は?」


「追放系ですか?」


 鈴木の目は、完全に物語を期待していた。


「そう! そしてアリッサさんはパーティに復讐をしたいってことですね!」


「またこいつはラノベを持ち込んで」


 佐藤が頭を抱える。


「だって全部それっぽいじゃないですか!」


「追放されてないわよ」


「えっ」


 アリッサはため息をついた。


「追放されたのは――」


 一拍置いて。


「商業ギルド長」


「…………」


 佐藤が固まった。


「そっちかよ」


「エドガルド・レインハルト」


「……あの人、昔冒険者だったのか?」


「そうよ」


「ええええ!?」


 鈴木が叫ぶ。


 商業ギルド・ヴェルナのギルド長、エドガルド。


 冒険者ギルド・グランツのギルド長、グラド。


 二人はかつて、同じパーティの仲間だった。


「ちなみにグラドとは昔から犬猿の仲」


「今も十分そうだけどな」


 佐藤が呟く。


 鈴木は再び目を輝かせた。


「元冒険者パーティの仲間が、今は商業ギルドと冒険者ギルドのトップ……!」


「おい」


「これ絶対、過去編ありますよ!」


「だからラノベにするな」


 アリッサは少しだけ笑った。


「……まあ、過去編にしたくなるくらいには色々あったけどね」


「お前まで乗るなよ」


 佐藤はため息をついた。


 そして三人はギルドを出る。


 佐藤が歩きながら言った。


「とりあえず店に戻るか?」


「そうね。これ以上ここにいると、ガルドに昔話を掘り返されそうだし」


「えー! 私はもっと聞きたいです!」


「お前は完全に野次馬だな」


「だって気になるじゃないですか!」


「帰るわよ」


「本当ですか!?」


「……気が向いたら」


「またそれですか!」


 三人はそのまま、リサイクルショップ・エレノアへ向かって歩き出した。


「Fランク冒険者、今日から始動ですね!」


 鈴木が元気よく叫ぶ。


「お前、さっきまで昔話に夢中だっただろ」


「それはそれ、これはこれです!」


「切り替えだけは早いわね……」


 こうして――


 鈴木愛生の冒険者生活が始まった。

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― 新着の感想 ―
この作品が最初から読んでる小説第一号なんですよね これからもじっくり楽しんでいきたいです
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