第6話 初依頼と店づくり
前日の夜――リサイクルショップ・エレノア
長い一日が終わり、店内は静まり返っていた。
佐藤は椅子に座り、疲れ切った顔で天井を見上げていた。
「……疲れた」
今日は商業ギルド・ヴェルナへ行き、店のことを話した。
そして――冒険者ギルド・グランツ。
さらに鈴木まで冒険者登録をすることになった。
佐藤は深いため息をつく。
「店を作るだけでも大変なのに……冒険者までかよ」
その隣では、鈴木が冒険者証を眺めていた。
真っ白なカード。
そこには――
【シュズキ・アキ】
【ランク:F】
と記されている。
鈴木はカードを両手で持ち、嬉しそうに眺めていた。
「……ふふふ」
「何だよ」
「私、冒険者なんですよ!」
「昨日まで店員だっただろ」
「今日から兼業冒険者です!」
「切り替え早いな……」
鈴木は冒険者証を胸元に抱える。
「なんか……嬉しいです」
「そうか?」
「はい!」
満面の笑みだった。
「だって、私にもこの世界でやれることができたんですから!」
佐藤は少しだけ黙った。
そして――
「……まあ、そうだな」
「店長?」
「無理だけはするなよ」
「はい!」
鈴木は元気よく返事をする。
その夜。
二人は明日の予定を確認していた。
佐藤は店の準備。
鈴木は冒険者として初依頼。
「薬草採取か……」
「はい!」
「魔物が出る可能性もあるぞ」
「……」
鈴木が固まる。
「怖くなったか?」
「ちょっとだけ……」
「なら無理するな」
「でも!」
鈴木は拳を握る。
「やってみたいです!」
佐藤は鈴木を見る。
「……分かった。ただし、危なくなったら逃げろ」
「了解です!」
「命より大事な依頼なんてないからな」
「はい!」
こうして――
二人はそれぞれの明日に備えた。
翌朝――
リサイクルショップ・エレノア。
佐藤は店内を見回していた。
「……さて」
昨日までとは違う。
今日から、この店を本格的に動かしていかなければならない。
「商業ギルドとの話もあるし、商品の整理もしないとな」
佐藤は腕を組む。
「俺は店を作る」
そして――
「鈴木は冒険者として動く」
その時。
鈴木が店の奥から出てきた。
服装はいつものつなぎ作業着。
腰にはアリッサからもらった短剣。
胸元には冒険者証。
「店長!」
「おう」
「準備できました!」
「……完全に冒険者だな」
「でしょう!」
鈴木は嬉しそうに笑う。
「じゃあ、行ってきます!」
「おう。気をつけろよ」
「店長も頑張ってください!」
鈴木は店を飛び出していった。
佐藤はその背中を見送る。
「……大丈夫か、あいつ」
少し心配しながらも、佐藤は店の整理を始めた。
「さて……俺は俺の仕事だ」
冒険者ギルド・グランツ
鈴木が扉を開ける。
「こんにちはー!」
受付にいた女性がゆっくり顔を上げた。
眠そうな目。
低いテンション。
「……ミレイ・アストラです」
「鈴木愛生です!」
「……冒険者証」
「はい!」
鈴木がカードを差し出す。
ミレイはカードを見る。
「……シュズキ・アキ」
「鈴木です」
「……シュズキ・アキ」
「だから鈴木です!」
「……」
ミレイはカードを見つめる。
「……覚えました」
「本当ですか?」
「……たぶん」
「たぶん!?」
ミレイは気にせず依頼書を取り出した。
「……Fランクなら、まずは薬草採取」
「薬草!」
「……十束」
「十束ですね!」
「……薬草は三枚の葉と細い茎。先端が赤いのが特徴です」
ミレイは淡々と説明する。
「……傷んでいるものや、必要な部分が欠けているものは納品できません」
「なるほど!」
「……根まで抜いて、採取場所を荒らさないようにしてください」
「分かりました!」
「……あと」
ミレイは顔を上げる。
「……魔物が出ることがあります」
「……」
鈴木の笑顔が止まった。
「怖いです」
「……逃げてください」
「即答!?」
「……冒険者は生きて帰るのが仕事です」
「分かりました!」
ミレイは依頼書を渡した。
「……頑張ってください」
「はい!」
「……ちゃんと帰ってきてください」
「もちろんです!」
「……受付処理が面倒なので」
「そこですか!?」
ミレイは無表情だった。
草原
鈴木は薬草を探していた。
「……薬草って、どれ?」
周囲には似たような草が大量に生えている。
「これ?」
違う。
「じゃあ、これ?」
違う。
「こっち?」
やっぱり違う。
「むずかしい……!」
鈴木はしゃがみ込んだ。
その時――
頭の中に声が響いた。
【ナビシステムを起動します】
「え?」
目の前に透明な文字が浮かぶ。
【使用者:鈴木愛生】
【レベル:1】
【職業:冒険者】
【スキル】
《発注》Lv1
《補充》Lv1
《加工》Lv1
《清掃》Lv1
【固有スキル】
《愛に生きる者》
「これ……何?」
【ナビシステム】
【召喚された者を補助する特殊システムです】
「補助?」
【スキルの効果・状態・使用条件などを確認できます】
「じゃあ、何でも教えてくれるんですか?」
【いいえ】
「即答!?」
【戦闘の代行、意思決定、未来予測はできません】
「なるほど……」
鈴木は少し考える。
「つまり、教えてはくれるけど……最後に決めるのは私なんだ」
【その認識で問題ありません】
表示が変わる。
【基本スキル最大レベル:Lv10】
【条件を満たした場合、スキルが進化する可能性があります】
「進化!?」
【単純な使用回数だけでは進化しません】
「へぇ……」
鈴木は自分のスキルを見る。
《発注》
《補充》
《加工》
《清掃》
「……全部」
鈴木は笑った。
「私がお店でやってきた仕事だ」
冒険者としては地味かもしれない。
けれど――
「私には、これがある!」
鈴木は立ち上がった。
薬草採取
「まずは……《加工》!」
鈴木が薬草に触れる。
【薬草】
【品質:普通】
【状態:良好】
【加工可能】
「これが薬草!」
別の草に触れる。
【対象外】
「これは違う!」
さらに探す。
一本。
二本。
三本。
「よし!」
鈴木は薬草を集めていく。
しかし――
「十束って、結構大変だなぁ……」
そこで鈴木は思いついた。
「そうだ!」
「《発注》!」
【薬草】
【周囲に27本】
【最短距離:18メートル】
「見つかった!」
鈴木は走り出す。
「《発注》って、注文するんじゃなくて……探すスキルなんだ!」
【物資の生成・召喚・転送はできません】
「そこまではできないんだ……」
鈴木は自分の足で薬草を集めていく。
順調だった。
「あと少し!」
その時――
ガサッ。
「……?」
草むらが揺れた。
ガサッ……。
鈴木の手が止まる。
「風……じゃない」
もう一度。
ガサッ。
鈴木は腰の短剣に手を伸ばした。
その瞬間――
【警告】
【魔物接近】
「……!」
草むらから巨大な狼が姿を現した。
炎のような赤い毛。
鋭い牙。
低い唸り声。
「グルルル……」
鈴木の顔が強張る。
【対象:バーンウルフ】
【推奨行動:撤退】
「……逃げろってこと?」
バーンウルフが一歩近づく。
鈴木は短剣を抜いた。
手が震えている。
怖い。
それでも――
「……でも」
鈴木は短剣を握り直す。
「私……冒険者になったんだ!」
バーンウルフが地面を蹴った。
「来いっ!!」
鈴木愛生。
初めての冒険者依頼。
薬草採取――そのはずだった。
しかし。
彼女にとって初めての戦いが、今、始まる。




