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第4話 営業許可を貰おう

 店内に商品棚が並び、カウンターも整った。

 魔王軍との騒動を乗り越え、店そのものは見違えるほど綺麗になっている。

 佐藤は腕を組み、店内を見渡した。

「よし……これで店は完成だな」

 鈴木も満足そうに頷く。

「はい。掃除も終わりましたし、店内の準備もできました」

 二人は顔を見合わせる。

 そして――。

 佐藤が店内をもう一度見渡した。

「……でも商品がない」

「……ないですね」

 棚にはアリッサが元々持っていた魔法薬や魔道具が少し置かれているだけ。

 リサイクルショップとしては、あまりにも寂しい。

 佐藤はポンと手を叩いた。

「まずは買取だ」

「買取?」

「そうだ。リサイクルショップなんだから、商品を仕入れないと始まらない」

 佐藤にとっては当たり前の話だった。

「買取して、商品を仕入れる。必要なら加工や修理をして、それを販売する」

 鈴木も納得したように頷く。

「買取、加工、販売ですね」

「そういうことだ」

 佐藤は入口を指差した。

「よし。看板を出して、今日から買取開始――」

 その時だった。

「……あの」

 アリッサが申し訳なさそうに手を挙げる。

「私、この店……商業ギルドに登録してないわ」

「…………」

「…………」

 佐藤と鈴木の動きが止まった。

「……は?」

「商業ギルドに登録してないの」

 佐藤はゆっくりアリッサを見る。

「おい、この無能経営者魔女っ子」

「誰が無能経営者よ!!」

 アリッサのポニーテールが怒りで跳ねる。

「店をやってたんだよな?」

「そうよ!」

「なのに商業ギルドに登録してない?」

「……してない」

「なんでだよ!」

 佐藤は頭を抱えた。

「商品を仕入れる以前の問題じゃねぇか!」

 鈴木も苦笑する。

「せっかく、これから買取を始めようと思ったのに……」

 アリッサは慌てて弁解する。

「でも、今まで普通に店はやれてたのよ!」

「しかしなんで今まで無事に店出来てたんだよ」

 佐藤は呆れたように続けた。

「普通は違法営業で摘発されるぞ。ギルドって国の機関だろうが!」

 するとアリッサは、えっへんと言わんばかりに胸を張った。

「ここはネストライティア王国、魔王城ギルガンディス、獣人国サイカン、ドワーフの国グランガルド、エルフの国アルヴェリア――」

 そして得意げに笑う。

「その中間地点よ!」

「……中間地点?」

「そう! どの国からも近すぎず遠すぎない場所。王国もおいそれと手を出しにくいってわけよ!」

 佐藤は呆れた。

「それ、立地が良いっていうより、国同士が手を出せない場所に店建てただけじゃねぇか」

「結果的に最高の立地でしょ!」

「いや、危険地帯だろ」

 鈴木は周囲を見渡す。

「でも、商売をするには確かに面白い場所ですね」

「でしょ?」

 アリッサはまた胸を張る。

 その時、何かを思い出したように口を開いた。

「そういえば……通告書は届いてたわよ」

「……は?」

 アリッサが取り出した紙を佐藤に渡す。

 佐藤は内容を読む。

「…………」

 数秒後。

「おい」

「なによ?」

「これ、差し押さえの一歩手前だぞ」

「え?」

「『期限までに商業登録を行わない場合、営業停止および店舗資産の差し押さえを検討する』って書いてあるじゃねぇか!」

 鈴木も覗き込む。

「本当ですね……」

 アリッサは目を泳がせる。

「……そんなこと書いてあった?」

「書いてある!」

「だって難しい言葉ばっかりだったんだもの!」

「だからって放置するな!」

 佐藤は深くため息をついた。

「……仕方ない。商業ギルドに行くぞ」

「はい!」

 鈴木は元気よく返事をした。

「緊張しますね」

 そう言う割に、鈴木はニコニコと笑っている。

 佐藤は横目で見る。

「……お前、緊張してないだろ」

「してますよ?」

「その顔で?」

「緊張すると笑っちゃうんです」

「絶対違うだろ」

 アリッサまで呆れる。

「私よりよっぽど図太いわね、あんた」

 こうして三人は、商業ギルドへ向かうことになった。 



 中央商業ギルド・ヴェルナ

 しばらく歩いた三人の前に、巨大な建物が現れた。

 何階建てなのか分からないほどの巨大な建築物。

 大勢の商人が出入りし、馬車まで頻繁に行き交っている。

 佐藤は思わず立ち止まった。

「なんだこりゃ……デカいなぁ」

 首を限界まで上に向ける。

「王国並みの建物だぞ」

「本当に大きいですね」

 アリッサは得意げに説明する。

「そりゃそうよ。ここは中央商業ギルド・ヴェルナなんだから」

 中央商業ギルド・ヴェルナ。

 ネストライティア王国を中心に、大陸各地の商業や交易を取り仕切る巨大な組織。

 商人や店舗の登録。

 営業許可。

 商品の流通。

 税務。

 他国との交易調整。

 商業に関する様々な業務を担う、商人たちにとって欠かせない存在だった。

 佐藤は建物を見上げた。

「……これ、本当にギルドか?」

 鈴木が笑う。

「もはや一つの街みたいですね」

 三人が中へ入る。

 そこにはさらに広大な空間が広がっていた。

 壁には魔力によって文字が表示される巨大な板まで設置されている。

 佐藤は興味深そうに眺めた。

「それにこれは魔法なのか? 電光掲示板みたいなやつだな」

 アリッサが首を傾げる。

「電光けいじ?」

「電光掲示板」

「なにそれ?」

「……そうか。この世界には電光掲示板がないのか」

 鈴木が苦笑する。

「佐藤さん、それは日本のものですから」

「そうだったな」

 アリッサが胸を張る。

「これは魔導表示板よ。商業ギルドが開発した最新の魔道具なんだから!」

「魔法版の電光掲示板か」

「だから電光掲示板って何よ!」

 そんなやり取りをしながら、三人は受付へ向かった。

 受付嬢が笑顔で立ち上がる。

「ようこそ、中央商業ギルド・ヴェルナへ」

「どうも」

 受付嬢が尋ねる。

「本日はどのようなご用件でしょうか?」

 佐藤が答えようとした。

 しかし――。

「アリシア・テッサ・ルイドヴォルケン様ですね?」

 三人が固まる。

 佐藤は鈴木を見る。

「……俺たち、まだ名乗ってないよな?」

「はい」

「なのにアリッサの名前が出た」

 鈴木はニコニコしながら頷く。

「ですね。ラノベ展開です」

「だよな」

 アリッサが首を傾げる。

「何の話してるのよ?」

 受付嬢は書類を確認する。

「少々、お待ちください」

 そして顔を上げる。

「……皆様、こちらへお越しいただけますでしょうか」

「こちら?」

「別室へご案内いたします」

 佐藤の顔が引きつる。

「……嫌な予感がするな」

 別室

 案内されたのは、ギルドの奥にある部屋だった。

 そこには大量の書類が積まれていた。

 佐藤は周囲を見渡す。

「これはあれだ」

 鈴木が首を傾げる。

「はい?」

「ギルド長が出てくるな。パターンだ」

 アリッサが鼻で笑う。

「ばっかじゃないの?」

「なんでだよ」

「ギルド長はこの商業ギルドのトップよ? 国王並みに影響力ある人が来るわけないじゃん」

 佐藤と鈴木が顔を見合わせる。

 鈴木はニコニコしたまま言った。

「アリッサさん、それは言っちゃいけない約束フラグですね」

「は?」

 その瞬間――。

 部屋の奥にある巨大な扉が、

 ゴゴゴゴゴ……。

 と音を立てて開いた。

 佐藤はニヤリと笑う。

「ほらな」

「…………」

 扉の向こうから、一人の男が現れる。

 白髪交じりの髪。

 落ち着いた佇まい。

 そして、国王にも匹敵するほどの威圧感。

 男はアリッサを見るなり、口元に薄い笑みを浮かべた。

「やぁ。ようやく来たか?」

 アリッサの顔が引きつる。

「再三の呼び出しに応じず、困っていたんだがな――アリッサ」

「…………」

 佐藤が呟く。

「お前……」

「な、なによ?」

「本当に呼び出し無視してたのかよ」

 鈴木も続ける。

「しかも再三……」

「ち、違うのよ!」

 男はため息をついた。

「違わんだろう」

 そして名乗る。

 エドガルド・レインハルト。

 中央商業ギルド・ヴェルナのギルド長だった。

 魔女の過去

 エドガルドは佐藤と鈴木を見つめる。

「なるほど……」

「何がなるほどなんだ?」

「王国が勇者召喚を行っているのは知っていたが……また犠牲者が出たか」

「犠牲者?」

 エドガルドはアリッサを見る。

「しかも、このアリシアの被害者とは。いったい何人目だ! 魔女のアリシア・テッサ・ルイドヴォルケン!」

「だから私のせいじゃないってば!」

 佐藤と鈴木がアリッサを見る。

 エドガルドは続けた。

「こいつはな。召喚魔法に『魔導書転換の書』を組み込んだものを、世界中にばら撒いたんだ」

「……は?」

「触れた対象者に召喚の適性があれば、承諾など無視して強制召喚する」

 佐藤の顔が引きつる。

「それ、完全にヤバいやつじゃねぇか」

「だからそんなつもりじゃなかったのよ!」

「承諾無視で強制召喚だろ?」

「……そうなるわね」

「なるわね、じゃねぇよ!」

 なぜ今まで放置されていたのか

 エドガルドはアリッサを見た。

「しかし、それとは別に私は君にがっかりしている」

「何よ?」

「何故、店をやるなら許可をもらいに来ない」

 アリッサが黙る。

「商業ギルドへの登録もせず、何度も通告を無視する。商売をする者として、あまりにも無責任だ」

 するとアリッサはムッとした。

「言いたい放題言っちゃって」

 腰に手を当てる。

「知ってるのよ。あんた達、私の店が中心にあるから手を出せないんでしょ?」

 エドガルドは笑った。

「……本当にそう思っているのか?」

 空気が変わる。

「魔女風情が」

「……!」

「何故、手を出さないだと?」

 エドガルドは鋭い目でアリッサを睨んだ。

「それはな――貴様が少しでも王国召喚に関わっているからだ」

 アリッサの顔から笑みが消える。

「勇者召喚の可能性を持っているからだ」

 エドガルドは低い声で続けた。

「でなければ、直にでも差し押さえて潰しているぞ。分かってんのか!」

「…………」

 アリッサの顔が一気に青ざめる。

 佐藤は納得した。

「……そういうことね」

 鈴木も頷く。

「まんまと王国に守られてたんですね」

「…………」

 完全に言い返せなくなったアリッサ。

 営業許可

 重い空気の中、佐藤が一歩前へ出た。

「ギルド長さん」

 エドガルドが佐藤を見る。

「俺達は一応、国王から商売の許可は得てる」

「……ほう」

「店を始めるための資金も援助してもらってる身だ」

 佐藤は真っ直ぐエドガルドを見る。

「だから、俺達の営業を許可してほしい」

 エドガルドはしばらく黙っていた。

 そして書類を取り出す。

「よかろう。ただし、条件がある」

「条件?」

「まず経営の詳細。利益の算出。そして、どういうところと取引するのかを明確に示せ」

 佐藤は少し困った顔をする。

「……まあ、そうですよね」

 エドガルドは続ける。

「この国の法律――商業法は守ってもらう」

「分かってます」

「特に武器、防具、魔法薬。そして書籍だ」

「書籍?」

「書籍は魔導書ではないだろうな。魔導書はものによっては規制品だ」

 佐藤は慌てて手を振る。

「書籍って言っても普通の本だよ。そんな物騒なもんじゃないよ」

 鈴木も頷く。

「料理の本や歴史の本なども扱う予定です」

「……料理の本まで?」

「はい」

 エドガルドは少し意外そうな顔をした。

「普通の書籍なら問題はない。だが、規制品を扱う場合は別途許可を取ってもらう」

「分かりました」

 佐藤は頷いた。

 そしてエドガルドは最後の書類に目を通す。

 しばらくして――。

 ペンを置いた。

「営業を許可しよう」

「おお!」

 鈴木の顔が明るくなる。

「ありがとうございます!」

 エドガルドは二人を見る。

「くれぐれも法律には気をつけろ」

 そして――。

 アリッサへ視線を向けた。

「そして呼び出しには直に応じろ!」

「…………」

「聞いているのか、アリシア・テッサ――」

「聞いてます!!」

 アリッサが勢いよく返事をする。

 佐藤は苦笑した。

「お前、完全に問題児扱いだな」

「うるさいわね!」

 鈴木はニコニコしている。

「でも、これで無事に営業できますね」

 佐藤は営業許可証を手に取った。

 そして――。

「よし!」

 拳を握る。

「これでようやく、買取を始められるな!」

「はい!」

 三人はギルドを後にする。

 ようやく手に入れた、正式な営業許可。

 これでリサイクルショップ・エレノアは、本当の意味で店としてスタートする。

 しかし――。

 佐藤たちはまだ知らなかった。

 この店に最初の客として現れる人物が、店の運命を大きく変えることを。

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