第3話 リサイクルショップ・エレノアが店名だ!
ネストライティア王国――王城、玉座の間。
「佐藤と鈴木……か」
国王は、目の前に並べられた報告書に目を通していた。
「はい。勇者ではありません」
宰相が静かに答える。
「しかし、二人の持つ能力は非常に特殊です」
「具体的には?」
「佐藤のスキルは『買取』『出張買取』『査定』『鑑定眼』『棚卸』。鈴木には『補充』『発注』『加工』『清掃』があります」
国王は首を傾げた。
「……どう聞いても商人だな」
「ええ。ですが、問題は佐藤の『買取』です」
宰相の表情が険しくなる。
「買い取った物を自分の所有物にするだけではありません。その物が本来持つ潜在能力まで引き出す可能性があります」
「……それは危険だな」
「はい。もし強力な武器や魔道具を魔王軍に渡れば、王国にとって大きな脅威になります」
国王はしばらく考え込んだ。
「ならば、王国側で商売をさせればいい」
「商売を?」
「店を持たせ、資金を援助する。二人を王国と繋ぎ止めておくのだ」
こうして王国は、佐藤と鈴木に開業資金を用意することになった。
その額――。
金貨一万枚。
この世界では、金貨一枚がおよそ一万円。
つまり、日本円に換算すれば――約一億円。
魔道を抜け、アリッサの店にたどり着いた。
佐藤と鈴木は王国から資金を確認する
「……金貨一万枚?」
佐藤は目の前に積まれた大量の金貨を見つめていた。
「はい。王国からの資金援助だそうです」
鈴木も金貨を眺める。
長いポニーテールが、ピクピクと揺れていた。
佐藤は腕を組む。
「普通、金貨一万枚ってありえねぇよな」
鈴木はポニーテールをピクピクさせながら、真剣な顔で言った。
「絶対何かしらの策略の匂いがします」
「……」
佐藤は鈴木を見る。
「……漫画の読みすぎだよ、お前」
「でも、一億円ですよ?」
「まあな」
佐藤は改めて金貨の山を見る。
「王国、太っ腹だな」
「だから怪しいんですよ!」
「考えすぎだって」
鈴木は納得していない様子だった。
「……絶対、何かありますよ」
「はいはい」
佐藤は金貨を一枚手に取る。
「それより、これだけあれば……」
佐藤は店を見る。
「店、買えるな」
「……え?」
アリッサの顔が引きつった。
「ちょっと待って」
「アリッサ」
「なによ?」
「この店、売ってくれ」
「嫌よ!」
即答だった。
「まだ何も言ってないだろ」
「顔に書いてあるわよ!」
鈴木は小さくため息をついた。
「……やっぱり策略より、佐藤さんのほうが怖いです」
「なんでだよ」
アリッサの店。
佐藤は店内を見回していた。
古びた棚。
傷んだ床。
壁に掛けられた古い魔道具。
「じゃあ査定だけ」
「それも嫌!」
アリッサが叫ぶ。
だが、佐藤はすでにスキルボードを開いていた。
「査定」
「ちょっと! 勝手に使うな!」
佐藤の目が光る。
鑑定眼が店全体を捉えた。
土地。
建物。
家具。
設備。
店内に残された商品。
すべての情報が表示されていく。
「土地、金貨二百五十枚」
「建物、百五十枚」
「設備、五十枚」
「商品、五十枚」
佐藤は合計を確認する。
「合計、金貨五百枚」
「五百枚……」
アリッサが目を丸くする。
「それで買うの?」
「買える」
「だから売らないって!」
佐藤はスキルボードを操作する。
「一括買取」
「話を聞けぇぇぇ!」
――ピコン。
《買取完了》
対象:店舗
所有権を佐藤秀晴へ移行します。
「……」
「……」
「……」
アリッサは完全に固まっていた。
「私の店……」
佐藤は鍵を手にする。
「今日から俺たちの店だな」
「返してよぉぉぉ!!」
その瞬間――。
佐藤のスキルボードに、新しい表示が現れた。
《新規スキル解放》
店舗再生
買取した店舗を再生・改修する。
店舗の潜在能力に応じ、最適な店舗へ再構築します。
「……新しいスキル?」
佐藤が表示を確認する。
鈴木が隣から覗き込む。
「何ですか?」
「店舗再生だ」
「使ってみます?」
「そうだな」
佐藤がスキルを選択する。
「店舗再生」
――発動。
店全体が光に包まれた。
古びた床が綺麗になり、傷んでいた壁が修復される。
埃をかぶった棚は分解され、商品を並べやすい現代的な棚へと変化していく。
照明が明るく灯る。
窓ガラスが磨かれ、店内が一気に明るくなった。
「すごい……」
鈴木が思わず声を漏らす。
そして――外観まで変化していく。
古びた店は、清潔で明るい現代的なリサイクルショップへと生まれ変わった。
大きなガラス張りの入口。
整然と並ぶ商品棚。
明るい店内。
まるで日本にあったリサイクルショップそのものだった。
「……」
アリッサは言葉を失う。
「何これ……」
「リサイクルショップだ」
「いや、そういう意味じゃない!」
佐藤は満足そうに店を眺める。
「店は綺麗じゃないとな」
佐藤は店の外へ出る。
そして、新しい看板を取り付けた。
そこに刻まれた名前は――。
リサイクルショップ・エレノア。
「……エレノア?」
アリッサが看板を見る。
「おばあちゃんの名前よね?」
「ああ」
佐藤は頷いた。
「お前のばーさん、エレノア・テッサ・ルイドヴォルケンって名前なんだろ?」
「そうだけど……」
アリッサは少し遠くを見る。
「おばあちゃんって、変わった人だったのよ」
「どんな?」
「いろんな世界に行ってたって」
「いろんな世界?」
「ええ。どこに行ってたのかも、何をしてたのかも、あんまり教えてくれなかったけど」
アリッサは続ける。
「それに……あの魔王様も、おばあちゃんには口を出さなかったし」
「魔王が?」
「そう。おばあちゃんが何をしてても、『好きにさせておけ』って」
佐藤は看板を見る。
「なるほどな」
「何が?」
「いや」
佐藤は少し笑った。
「リサイクルショップ・ヒラガも、ジーさんが自分の名前入れてたんだよな」
鈴木が佐藤を見る。
「そうだったんですか?」
「ああ。俺はもっとカッコいい名前がいいって言ったんだけど、ジーさんがそこだけは譲らなくてな」
佐藤は新しい看板を見上げる。
「だから、こっちも同じだ」
「……」
「この店を残した人の名前を、店に残す」
アリッサはしばらく看板を見つめる。
「……まあ」
小さく笑った。
「おばあちゃんの名前なら……いいかもね」
その後、佐藤たちは店内の確認を始めた。
「商品を並べる場所は……」
佐藤が店内を歩いていると、突然立ち止まった。
「……ん?」
「どうしました?」
鈴木が尋ねる。
「この店、地下があるぞ」
「地下?」
アリッサが振り返る。
「そんなのないわよ」
「ある」
「私、ここに住んでたのよ?」
「地下三階まである」
「…………」
アリッサの顔が固まった。
「……私の店なのに?」
「そうみたいだな」
「知らないわよ、そんなの!」
佐藤は壁を見る。
「それと、ここ」
コンコン。
「隠し部屋がある」
「……え?」
佐藤が壁を押す。
ゴゴゴゴゴ……。
隠された扉が開いた。
その先には――。
古びた魔道具。
見たこともない道具。
大量の魔導書。
そして、異世界の物と思われる品々が並んでいた。
佐藤は一つの魔道具を手に取る。
「これって……」
部屋を見渡す。
「いろいろヤバそうな物、隠してたな。お前のばーさん」
「だから、わかんないわよ!」
アリッサは頭を抱える。
「おばあちゃんが何をしてたのかなんて、私にも分からないんだから!」
佐藤は魔道具を眺める。
「……エレノアか」
その頃――。
魔王城。ソルモン
「魔王様、報告があります」
「何だ?」
「例の異世界人たちが店を開いたようです」
「ほう」
「店の名前は……」
兵士が名前を告げる。
「リサイクルショップ・エレノアです」
「…………」
魔王の表情が変わった。
「……エレノア?」
ネストライティア王国。
「陛下!」
宰相が慌てて駆け込んでくる。
「どうした?」
「異世界人たちの店の名前が判明しました!」
「それがどうした?」
「エレノアです」
「……エレノア?」
国王が立ち上がった。
エルフの森アルヴェリア
「エレノア……?」
ドワーフの国グランガルド
「あのエレノアだと……?」
獣人族の国サイカン
「エレノアの名を掲げただと!?」
世界各地で、一つの名前が囁かれ始める。
だが――。
店の中にいる三人は、その意味を知らない。
佐藤は店の入口に立つ。
「よし」
新しい看板を見上げる。
「明日から営業だ」
「はい!」
鈴木が元気よく返事をする。
アリッサは看板を見つめた。
「……ここは私の店よ」
「もう買い取ったけどな」
「……」
アリッサは拳を握る。
「見てなさい……」
佐藤を睨む。
「絶対に取り返してみせる!」
「どうやって?」
「それは……これから考えるのよ!」
「ノープランかよ」
「うるさい!」
こうして――。
異世界に、現代的なリサイクルショップが誕生した。
その名は――。
リサイクルショップ・エレノア。
しかし誰も知らない。
その看板に刻まれた名前が――。
やがて王国、魔王軍、エルフ、ドワーフ、獣人。
そして世界そのものを巻き込むことになるとは。




