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第2話 魔女っ子言うな

王城。

 召喚の間には、先ほどまで眩い光が満ちていた。

 しかし――。

 召喚された者は、誰もいない。

「また失敗したな。宰相、いたのか。気付かなかった」

 エウリウスが振り返る。

「はい……」

 宰相は苦笑いを浮かべた。

 その隣では、神官長が黙って召喚陣を見つめている。

「……」

「今回は凄いなぁって、光り方したんだけど」

「今までにない光り方でしたね」

「ところでさ」

 エウリウスは首を傾げる。

「リサイクルショップって何?」

「……」

「中古って何? 古いやつとか売るの?」

 宰相と神官長が顔を見合わせる。

「神官長、わかる?」

「いえ」

「だよね」

 エウリウスはあっさり納得した。

「しかし陛下」

 宰相が口を開く。

「本当に資金を与えてよかったのでしょうか?」

「何が?」

「先ほどの二人です」

 佐藤と鈴木。

 異世界からやって来た二人に、王国は店を開くための資金を与えた。

「異世界人とはいえ、勇者でも魔術師でもありません」

「そうだな」

「それなのに店を……」

「面白そうじゃない?」

「陛下……」

「成功すれば王国の新しい商売になるかもしれないだろ?」

「失敗したら?」

「……」

 エウリウスは少し考えた。

「その時は店を閉めてもらえばいい」

「資金は?」

「……頑張ってもらおう」

「他人事じゃないですか!」

 こうして王国は、よく分からないまま異世界人に商売を任せた。

 そして――。

 その異世界人たちは、すでに次の問題に直面していた。

「資金はゲットした」

 佐藤が満足そうに袋を持ち上げる。

「お店もあるし、ラッキーですね」

 鈴木も嬉しそうに頷く。

「おい、魔女っ子。聞いてるのか?」

「魔女子さん?」

 鈴木が首を傾げる。

「違う。魔女っ子」

「魔女子さん……?」

「だから違うって!」

「誰のことですか?」

「そこにいるだろ」

 佐藤が指差した先には、腕を組んで不機嫌そうな顔をしている女性がいた。

「……誰が魔女っ子よ」

「お前」

「私にはアリシアっていう名前があるんだけど!?」

 女性は胸を張った。

「アリシア・テッサ・ルイドヴォルケンって名前があるのよ!」

「何だその魔法少女のライバルの妹みたいな名前は?」

「……は?」

 アリシアの顔が固まった。

「佐藤さん、その話わかんないです、私」

 鈴木は真顔だった。

「え?」

「え?」

 二人が顔を見合わせる。

「名前長いぞ、魔女っ子」

「だから魔女っ子じゃないって!」

「私はアリシア・テッサ・ルイっど……」

「噛んでんじゃん、名前」

「噛んでない!」

「テッサルイっどって何だよ」

「私の名前よ!」

「さっきと変わってるぞ」

「……」

 アリシアは固まった。

「……言い直すわ」

 アリシアは深呼吸する。

「アリシア・テッサ・ルイドヴォルケン!」

「長い」

「……」

 アリシアは少し考えた。

「じゃあ……アリッサでいいわ」

「じゃ、アリッサで」

「早いわね!」

 こうしてアリシア・テッサ・ルイドヴォルケンは、アリッサと呼ばれることになった。

「アリッサの店って、ここから遠いのか?」

 佐藤が尋ねる。

「遠いわよ。この世界には人間と魔族以外にも、エルフ、ドワーフ、獣人が住んでるんだけど……」

 アリッサは少し言葉を詰まらせた。

「私の店は、その国々のちょうど真ん中にあるの」

「へぇ」

「しかも、お互い仲が悪いのよ」

「なんでそんなとこに店出してんだよ」

 その言葉を聞いた瞬間。

 アリッサの表情が変わった。

「……」

 俯いた彼女の目には、少しずつ涙が浮かんでいく。

「私だって……嫌だったわよ」

「……」

「私、魔族とも人間とも……どっちとも取られるから」

 アリッサは拳を握った。

「だから、どの国からも嫌がらせされたり、疎まれたりして……」

 声が震える。

「気がついたら……あの場所に行き着いてたのよ」

「……」

「国王にはこき使われるし……」

「……」

「魔王には頻繁に呼び出されるし……」

「……」

「挙げ句の果てには、人間と何か企んでるんじゃないかって疑われるし……」

 アリッサは涙を拭った。

「私だって……好きであんな場所に店を出したわけじゃないのよ」

 しばらく沈黙が流れる。

 そして――。

「……なるほどな」

 佐藤が口を開いた。

「つまり、めちゃくちゃ立地がいいってことだな」

「今の話聞いてた!?」

 アリッサの叫び声が森に響いた。

 そんなやり取りをしながら、三人は店へ向かう。

「結構な距離だな。今日中に着くのか?」

「は? あんたバカ?」

「なんでいきなりバカ扱いなんだよ」

「歩いて帰るわけないでしょ」

 アリッサは呆れたようにため息をついた。

「ここなら人も来ない森だから、ちょうどいいでしょ~」

「何が?」

「魔法を使うのよ」

 アリッサが杖を取り出す。

「魔道を通るの。そうすればショートカットできる」

「それってワープってやつですか?」

 鈴木が尋ねた。

「……?」

 アリッサが首を傾げる。

「ワープ?」

「はい」

「何それ?」

「いや、こっちが聞いてるんですけど……」

 佐藤が二人を見比べる。

「つまり魔道ってのはワープじゃないのか?」

「だからワープって何なのよ」

「……」

「……」

 どうやら異世界人と魔女の間には、まだまだ埋められない知識の差があるようだった。

「まあいいわ。見れば分かるから」

 アリッサが杖を掲げる。

「魔道、開門――!」

 足元に巨大な魔法陣が浮かび上がった。

 そして――。

 一瞬で景色が変わった。

「マジかよ」

 佐藤は目の前の光景を見て声を漏らす。

「フフン! 驚いたでしょ? あっという間でしょ!」

 アリッサは得意げに胸を張った。

「魔道を使えば、こんな距離なんて一瞬なんだから!」

「……」

 佐藤は店を眺める。

「めっちゃボロいな」

「どこ見てんのよ!」

 アリッサが即座にツッコむ。

「魔道に驚きなさいよ!」

「いや、魔道はすげえよ」

「じゃあ何でその顔なの!?」

「店が気になる」

「そっち!?」

 鈴木も店を見回した。

「確かに……ちょっと年季がありますね」

「鈴木まで!?」

 アリッサは頭を抱えた。

「この店はね、私が長年使ってきた大切な店なの!」

「なるほど」

 佐藤は腕を組む。

「つまり――」

「何よ?」

「リフォームしたほうがいいな」

「魔道の感想は!?」

「すげえ」

「雑!!」

 佐藤は店内を見回した。

 壁は傷だらけ。

 棚は傾いている。

 床もところどころ軋んでいる。

 長年使われてきたことだけは、嫌というほど分かる。

 佐藤は鈴木を見る。

「鈴木、やるぞ!」

「はい、佐藤さん」

「ちょっと待ちなさい!」

 アリッサが二人の間に割って入る。

「何をやる気なの!?」

「決まってるだろ」

 佐藤は腕まくりをする。

「リフォームだ」

「勝手に決めるなぁ!!」

「資金はある」

「私の店よ!?」

「今日からリサイクルショップだ」

「話を聞いて!!」

 鈴木はすでに店の中を調べ始めていた。

「佐藤さん、ここの棚は使えそうです」

「じゃあ残せ」

「はい」

「こっちは?」

「壊れてますね」

「捨てよう」

「はい」

「ちょっと待って!!」

 アリッサの悲鳴が店内に響き渡る。

「なんで私より二人のほうが店の改装にやる気満々なのよ!!」

「店主だからだろ」

「店主は私よ!!」

「じゃあ店長な」

「そういう問題じゃない!!」

 こうして――。

 アリッサの古びた店は、異世界から来た二人の手によって、新たな姿へと生まれ変わろうとしていた。

 その名も――。

 リサイクルショップ。

 だが、この世界の誰もまだ知らない。

 それが一体、どんな店なのかを。

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