↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/8

第1話 決算前の大棚卸しは異世界召喚の儀式でした

リサイクルショップ・ヒラガ。

 全国展開している大手リサイクルチェーン店である。

 直営店とフランチャイズ店があり、近年では株式上場まで果たした、そこそこ大きな会社だ。


 そして店の看板には――。

 平賀源内をモチーフにした、可愛らしいからくり狐が描かれている。

 そんな全国チェーンの、とある直営店。

 今日は決算前の大棚卸しだった。

「……多すぎる」

 佐藤秀晴、三十六歳。

 リサイクルショップ・ヒラガの社員。

 そして現在――疲れている。

 ものすごく疲れている。

「商品が多すぎるんだよ!」

 店内を見渡す。

 棚。

 商品。

 棚。

 商品。

 そして商品。

 バックヤードまで商品。

 リサイクルショップにとって、仕入れは補     給と同じだ。

 商品がなければ商売にならない。

 だが――。

「補給しすぎだろ!」

 近年はネット販売の普及で買取件数も増加。

 売りたい人がいる。

 店は買い取る。

 買い取った。

 商品が増えた。

 また買い取った。

 さらに増えた。

 結果。

 置く場所がない。

「佐藤さん! こっちの商品数、合いません!」

「何個だ!」

「三個!」

「三個ならまだいい!」

「こっちは十二個です!」

「だから本部に言ってハケさせろって言ったんだよ!」

「店長に言えば――」

「その店長は?」

「お盆休みです」

「長期の?」

「長期の」

「……」

 佐藤は天井を見上げた。

「いい身分だなぁ、店長」

「佐藤さん」

 声をかけたのは女性スタッフ。

 鈴木愛生。

 ヒラガで働き始めて半年のアルバイトだ。

「本のカウントは終わりましたよ。渡邉さんと一緒に」

「そうか」

「ゲームは渡邉さんがやってます」

「家電は?」

「まだです」

「……だよな」

 そのとき。

「ん?」

 鈴木が一冊の本を持ち上げた。

「佐藤さん、こんなタイトルも書いてない本、買いましたか?」

「俺がそんな無駄なもの買うと思うか?」

「思いません」

「だろ?」

 本にはタイトルがない。

 著者名もない。

 出版社もない。

 値札もない。

 管理番号すらない。

「……なんだこれ」

「分かりません」

「まあ、開けば分かるだろ」

「それ、フラグじゃないですか?」

「何の?」

「ラノベ的な」

「……?」

 佐藤が本を開く。

 次の瞬間。

 ドォォォン!!

「うおっ!」

「きゃあっ!」

 床に巨大な魔法陣が浮かび上がった。

「佐藤さん!」

「何だここは!?」

「これってあれですか!?」

 鈴木の目が輝く。

「異世界召喚ってやつですか!!」

「おい鈴木、これは異世界転生ってやつか?」

「違いますよ!」

「なんで?」

「私たち死んでないですから!」

「……確かに」

「これは異世界召喚です!」

「ラノベ的に?」

「ラノベ的に!」

「なるほど」

「納得するんですか!?」

 光が二人を包む。

「鈴木!」

「佐藤さん!」

「棚卸しは!?」

「そこ!?」

 二人の姿が消えた。


「これで文句ないでしょ!」

 巨大な魔法陣の前で、一人の少女が叫んでいた。

 黒いローブ。

 とんがり帽子。

 魔法の杖。

 誰がどう見ても魔女である。

「召喚してやったわよ!」

 少女は腕を組む。

「早く私を解放しなさいよ! 魔王城に返しなさい!」

「うむ。ご苦労だった」

 玉座に座る国王。

 エウリウス・ラーデン。

 ネストライティア王国の国王である。

「じゃあ帰るわね」

「待て」

「何よ」

「せっかくだ。もう少し――」

「何よ?」

 国王が少女に手を伸ばす。

「ちょっと!」

 少女が即座に避ける。

「どこ触ってんのよ! やめなさい!」

「いや、そういうつもりでは――」

「覚えてなさいよ、クソ国王!」

「口が悪いぞ!」

 そこへ――。

 ドォォォン!!

 魔法陣が光った。

「来たぞ!」

 光の中から二人が現れる。

「……」

「……」

 魔女が二人を見る。

「これが勇者?」

「そうだ!」

 エウリウスが胸を張る。

 魔女はため息をついた。

「召喚はできるって言ったけど、勇者なのかは言ってないでしょ!」

「何だと!?」

「私が言ったのは『異世界から人間を召喚できる』ってこと!」

「ではなぜ勇者召喚の儀式を――」

「勝手に勇者召喚だと思ったのはそっち!」

「…………」

 国王が固まる。

 佐藤が口を開いた。

「おい鈴木」

「はい?」

「なんか揉めてるな」

「揉めてますね」

「俺たち勇者じゃないのか?」

「たぶん」

 国王が二人に近づく。

「して、そなたらは本当に勇者なのか?」

「佐藤です」

「鈴木です」

「……」

 エウリウスの眉がピクッと動く。

「余は勇者なのかと聞いた!」

「名前を聞かれたのかと」

「勇者じゃないですよ」

「では、そなたらは何者なのだ!」

 佐藤は即答した。

「リサイクルショップ・ヒラガの社員です」

 鈴木も続く。

「私はアルバイトです」

「…………」

 国王の顔から表情が消えた。

「リサイクル……ショップ?」

「はい」

「アルバイト?」

「はい」

「……勇者は?」

「いません」

「…………」

 国王が頭を抱えた。

 佐藤は鈴木を見る。

「鈴木」

「はい?」

「これ俺たち、ハズレ枠判定されてる」

「ラノベ的にはそうですね」

「だよな」

「でも、まだ分かりませんよ」

「何が?」

「実は最強スキルでした、ってパターン」

「……」

 佐藤は少し考える。

「だって、憧れないやついないだろう」

「まあ、それはそうです」

「異世界だぞ?」

「ですよね」

 そこへ神官長がやってきた。

「では、スキルを鑑定いたします」

「おっ!」

 佐藤の目が輝いた。

「来たぞ」

「鑑定ですね!」

 神官長が鑑定水晶に手をかざす。

「佐藤秀晴――」

 水晶に文字が浮かぶ。

出張買取

査定

鑑定眼

棚卸

「……」

 佐藤は無言になる。

「そりゃ、それしかしてこなかったからな」

「いやいや」

 鈴木が横から言う。

「私まだ半年ですよ。めっちゃ若いです」

「そうだったな」

「忘れないでくださいよ」

 続いて鈴木の鑑定。

補充

発注

加工

清掃

「…………」

 鈴木が水晶を見る。

「めっちゃ仕事ですね」

「俺たち、異世界に来ても仕事してるな」

「転職できてませんね」

「異世界転職とは何だったのか」

 神官長が困惑する。

「戦闘系スキルは……ありません」

 エウリウスが頭を抱えた。

「勇者ではない……」

 佐藤は国王を見る。

「まあ、勇者じゃないなら仕方ない」

 そしてリサイクルショップの仕事について説明した。

「つまり俺たちは勇者ではないので、力にはなれません」

「うむ」

「しかし、このままじゃ生活できない」

「……うむ」

「なので」

 佐藤は頭を下げる。

「仕事をする許可をください。」

「よかろう」

 エウリウスは頷いた。

「この国で働くことを許そうそこの魔女の店を使うとよい」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます!」

 その瞬間。

「ちょっと待って!!」

 魔女が叫んだ。

「てか、なんで私の店で働くのよ!!」

 佐藤と鈴木が振り返る。

「店?」

「お店やってるんですか?」

「そうよ!」

 魔女は胸を張る。

「私は魔王軍所属だけど、生活のために魔道具店を経営してるの!」

 佐藤が頷く。

「なるほど」

 鈴木も笑顔になる。

「じゃあ、ちょうどいいですね!」

「何がよ!?」

「私たち、リサイクルショップの人間なんで!」

「物の買取と販売なら任せてください」

「勝手に就職先を決めるなぁぁぁ!!」

 魔女の叫び声が、王城中に響き渡った。

 ――こうして。

 勇者として召喚されたはずの二人は、勇者になれなかった。

 代わりに手に入れたのは、

出張買取。査定。鑑定眼。棚卸。

補充。発注。加工。清掃。

 そして魔女が経営する魔道具店への就職先だった。

 このとき、まだ誰も知らない。

 この二人の「普通の仕事スキル」が――

 異世界では、とんでもないチート能力になることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。