9. 正しいこと
出会いの春から時が経ち、呆れるような暑さを感じる時期になった。この時期と言えば休暇だが、訓練兵には夏休み盆休みなど存在しない。休暇の有無は担当教官の匙加減であるため、訓練兵たちは運に身を任せるしかないのである。ところでぶどう組の新兵達に休暇は...
意外にも盆休みは3日間与えられた。
そんな季節でもこの「下界」には楽しみがある。それは「あつまれ!訓練兵トーナメント」が開催される時期でもあるからだ。この惑星単位で見ても甲子園のような一大イベントであり、期待が集まる戦士の活躍、組み合わせによるドラマなど見所は沢山である。参加のできない一年生は来年のため、2年生の勇士や闘争心を見るためそのほとんどが観戦を行う。
トーナメントが開催される前日にぶどう組は教官に一つの教室に集まるよう指示された。プーリムから放たれた命令は全員に衝撃を与えた。
「明日から一週間ほど遠征に行くから身支度しとけよ。勿論強制だ。トーナメントの観戦はできんからな。」
教室全体には「え~。」という声が響き渡った。当然である。毎年行われている行事かつ見る機会は初めてではないものがほとんどだが、一般人としての目線と同じ訓練兵としての目線とでは全く異なった体験である。今だから観戦するトーナメントほどの貴重な体験は中々ない。
「仕方ないだろ~。相手側はこの時期しか空きがなかったんだから。まぁ俺のコネで遠征費用とかかかんないから金銭面は安心しろ。」
(それは問題じゃないんだよ!来年のための情報収集とか戦い方の勉強をして―んだよ!)
(遠征!わくわく)
シアンは分かりやすく不満をあらわにしている一方で、クトルの心は踊っていた。
教室の空気が悪いままだがプーリムは話をつづけた。
「今回遠征に行くが全員に課題を設ける。それは自分の「正義」とは何かを考えてもらう。訓練兵ではなく兵士になったとき、お前たちは自分を馬鹿にしている奴らのために戦うんだ。いつか限界がくる。だから自分はなんのために戦うのか、戦う意味を見つけてもらうための遠征だと思っていてくれ。別に発表する場とかは設けんからな。
以上、質問は?」
シアンが迷わず手を挙げた。
「教官、なぜトーナメントより遠征の方が大事なのでしょうか?なぜ遠征が強制なのでしょうか?今までは自由だったのになぜ今回はやりたいようにやらせてくれないのですか?納得するような理由を教えてください。」
こういう場面は決まってシアンが切り込む。誰しもが言いづらいことであっても不満や思ったことがあれば正直に質問する、それがシアンだ。場が凍るような質問も絶えないが、今回に限ってはほとんどの生徒の味方の意見であった。
プーリムは教室を見渡した。
「おまえら、シアンと同じ意見か?」
クトル以外はうなづいた。それをみて少し深呼吸し、顔をこわばらせて口を開いた。
「これは怒っているわけではない。ただ真剣な話だ、しっかり聞いてくれ。「やりたいことをする」、悪いことではない。ただ良いこととは呼べない。いいか、最も優先すべきなのは「やりたいこと」ではない。「正しいこと」だ。趣味だから、好きなことだから。それらの陰に隠れた脅威に気づかず、身を滅ぼす。「正しいこと」を判断するためには強い信念が必要だ!だから「正義」とは何なのか、真剣に考えてもらいたい!
とまぁこんな感じだ。賛成できない者は手を挙げろ。」
初めて教官の教官らしい姿を見た。言葉足らずではあるもののしっかりとした指導者による考えに対して全員少し驚いた。その驚きは意外性によるものだった。
反論を述べる生徒は誰もいない。全員が納得はしていないが理解はした。その意見には100%賛成ではないが、教官についていこうと考えたためである。
しかし一つ手が挙がった。
「なんだ、アイビー。反論か?」
「い、いえ。違います。遠征先はどこなのかなって...」
「あぁ~そうだな、言ってなかったか。夏ならではの場所だぞ。」
全員が淡い期待を寄せた。ただでさえ嫌な遠征に行かなければならないのだからせめて夏らしいことをしたい。
(もしかして海!?水着を選んでた成果がここで!?)
「山だ。」
「や、山?」
アイビーはポカンとした。山のどこが夏らしいのか。田舎の山への帰省ならギリ理解できる。
「夏と言えば虫取りだろ。まぁ今回は害獣狩りだから虫とは無縁だが。」
プーリムは耳をほじりながら回答した。
「や、やま。」
アイビーは静かに席に着いた。
「他は、なさそうだな!よし、解散!」
辺りは暗くなった。
寮に帰る道中、隣にいるクトルがうなっているのを見てシアンは声をかけた。
「なんだ、気持ち悪い顔して。」
「いやぁー。「正義」かぁー。難しいなぁって思って。やっぱ遠征中にひらめくしかないかぁ。シアン君は考えてる?」
シアンはどや顔をしていた。こういう顔をするときは決まって気分が良い。
「もう答えは出てる。」
「はや!教えてよ!」
シアンは拳を天に突き上げて叫んだ。
「強いほうが「正義」だ!それ以上も以下もない。」
さすがのクトルでもその考えに納得はできなかった。
「それ、先生が言ってる意図と違うような。いいの?」
「決まってない奴に言われたくないね。それと教官を「先生」っていうのやめろって言ったろ。恥ずかしい。」
「え!また言ってた!?うぅ。殴らないで。」
クトルはシアンに怯え小さく蹲った。
「それも外で言うのやめろよな。俺の印象最悪だ。普段から殴ってるみたいじゃないか。」
「あ、そうなの?でも変えた方がいいと思うけどなぁ。その子供っぽい考え。」
シアンはクトルの腹に一発くらわせた。
翌日、用意されたバスでとある田舎に着いた。山の中にぽつんとあり、町の中では高齢者をよく見かける、そんな集落だ。この場所が遠征地になる。
全員が「正義」を見つけられる遠征になることを祈ろう。




