8. 勇者たち
下着店ではパニックになって外に飛び出そうとしている店員をネイビーが止めていた。
「ダメよ。外に出たら無事に帰ってこられる確率は低い。撃たれるのかもしれないのよ。」
冷静なネイビーの一方、メイズとアイビーは少し怯えていた。アイビーはその動揺を隠そうとしていたが足が少し震えていた。
模擬トーナメントの時とは違う「マジ」の空気管。それに圧倒されていた。
ヴィオレはガラス越しに宝石店に押し入った強盗の分析をしていた。
「3人、そのうち一人は祝福持ちっぽいね。店内の制圧もどこかこ熟れてる。常習犯ね。」
ヴィオレは立ち上がって、全員に話しかけた。
「どうする?制圧する?」
驚きかつ強気な意見はネイビーに即否定された。
「あなた、玉砕するつもり?それとも貴方もお縄に?」
法律では特別に認めてもらえていない役職以外、祝福を使うことは禁止されている。
祝福を用いて強盗を制圧をすること自体は可能かもしれないが、自身も捕まってしまう。
祝福を用いたことによる正当防衛が認められたケースもあるが、制圧が必ず成功する実力がある訳ではないためリスクの方が大きいのである。
現状身動きが取れない、そんな状況だ。
「シアン君、行っちゃぁ危険だよ。」
このメンバーの中でシアンが一番やる気だった。
「要は祝福を使わずにあいつら3人をぶっ飛ばせばいいんだろ?」
シアンは唾を飲み込んだ。
「やってやるぜ。犠牲者ゼロ!強盗全員取り押さえをな!」
今にも飛び出しそうなシアンの肩を何者かが掴んで、動きを止めた。
(な!?力、強っ!動けねぇ)
「ダメだぜ、少年。」
シアンは自身の左肩を掴む何者かを確認するために振り返った。
男は大きく、それ以上に何か凄まじいオーラを感じた。
(教官!?いや、それ以上なのか)
男は静かに、シアンの耳元で囁いた。
「こういう時こそ冷静に、だ。
「相手を屈服させる」ではなく、道理にかなうような動きを考えるんだ。」
シアンはハッっとした。と同時に背中を勢いよく押された。
「さぁ!!行ってこい。俺に見せてくれ。」
(力加減を知らんのか、こいつは)
強く叩かれ過ぎてヒリヒリする背中を抑えながら宝石店へ向かった。
宝石店の壁際、中の様子を確認した。
(見たところ祝福持ちは一人。文字は...「K」か。
机の棚の鍵穴を触ってる。どうやら祝福は「Key」っぽいな。戦闘に関係ない祝福で一先ず安心か)
作戦を考えているシアンの肩を掴む者が現れた。
驚いて振り向くとそこにはカージナルとパンジーがいた。
「俺も、やるぜ。シアン一人にかっこつけられるのは御免だぜ!」
「俺もパンジーと同じだ。覚悟見せてやるぜ。
それでシアン作戦は?」
シアンの口角が少し上がった。
「...一人につき一人だ。担当を決めて抑えるぞ。」
店内は緊張で静まり返っていた。
パリン!!
突然、自動ドアの隣のガラスが割れた。その開いた穴からカージナルが飛び出てきた。
「どりゃぁぁ!!俺様のお通りだぁ!ひれ伏せ!!」
無策の特攻に驚きつつ、祝福持ちの強盗以外はピストルを構えた。
引き金に指がかかったと同時に、別々の場所から2回ガラスが割れる音がした。
シアンとパンジーはそれぞれピストル持ちを取り押さえ、武器を手の届かない場所へ放り投げた。
投げられた武器は店員が拾い、強盗の手に渡らないようにしてくれていた。
シアンに取り押さえられた強盗はうつ伏せになりながら正面を見上げるとカージナルが誇ったように立ち尽くしており、鼻で笑われた。
「カージナル!!こいつを抑えておけ。あと一人は俺がやる!!」
シアンは強盗の上から素早く祝福持ちの強盗の前へと移った。
二人の目があった。
少しの静止の後、シアンから仕掛けた。左の拳を少し後ろへ振りかぶった。相手はそれに対して体上部の防御に徹したが、それはフェイントであった。
左拳はぴたりと止まり、左足が目にもとまらぬ速さで相手の足を払い、強盗は宙に位置していた。
地面に激突すると同時にうつぶせの状態で強盗を取り押さえ、制圧が完了した。
作戦はシンプルなものの、完璧な制圧劇であった。
一方、ぶどう組の女子たちもお隣で起こっている騒動に気づいていた。
「ねぇ!!誰か戦ってるよね。行こうよ!私たちもジッとしてられない!」
アイビーの鶴の一声で全員外に出た。
「お前よぉ、それで俺を捕まえたつもりかぁ?」
祝福持ちの強盗がシアンに話しかけたと同時に、シアンによる拘束が解けた。
「っな!!逃げるな!!」
(クソ!!こいつの祝福は相手の拘束も開錠することができるのか!?舐めてた)
いつの間にか自動ドアを潜り、逃走を図っていた。
「あばよ!!
...グァ!!!」
急に地に伏せて動かなくなった。
「やった。シアン君!捕まえたよ!!僕やるときはやるでしょ。」
3人の制圧劇を後方でイジイジ見ていたクトルだったが、弱い自分を変えたいと思い立ち現場に近づいていたことが功を奏した。
「Ranger」の空気抵抗操作を活かして、地面と平行な壁を作り出し地面とサンドイッチのように拘束していた。
「お、お前祝福を使って!」
ナイスカバーであったが、クトルは法を破ってしまった。本人は少しした後、やっと気づいたようだった。
一方、祝福持ちの強盗は二度も捕らえられたため非常に悔しがっていた。今回はクトルの空気抵抗による高速であるため、容易に開錠もできない。
「クソ。くそぉ!!!!アルニコ!!撃て、コイツを!!」
丁度外に出てきた女子たちは逃走車の窓からピストルを構える人間が見えた。強盗グループは3人ではなく、逃走車を運転する者も含めて4人であった。
「クトル君!!後ろ!」
ヴィオレが叫んだが、回避するには遅すぎた。
「え?」
パンッ!!
「Vector、弾丸。」
クトルに向けて放たれた弾丸は不自然にした方向に曲がり、クトルの頭を貫くことはなく地面に激突した。
アルニコは何者かによって邪魔されたことに素早く気づき、自分の先輩を見捨てることにし走り去っていった。
そしてシアンはあることに気づいた。
「Vecotr...?もしかしてあなたはオーシンさんですか!!?」
男はシアンの方を向いた。
「あぁそうだ。お前たちを試すようなことして悪かったな。ただ、ナイスファイトだ!」
シアンの尊敬であり最大の目標が目の前にいた。何から話せばいいか迷っていた。この貴重な時間を有意義に活用できる質問を。
(なんでこんなところに?こんな星に用などないはず。いやいや、そんなこと聞いてる暇なんて。
この人がどれくらいここにいるか分からないんだ。
俺が聞きたいことは...)
「祝福って何だと思いますか。」
シアン自身も何を聞いているのだと思ってしまった。そしてオーシンも困っていそうだった。
「その質問は...困ったなぁ。」
オーシンは暫く考えた後回答した。
「祝福はなぁ、いつの時代も人類の発展を支えてきた。
それは祝福が強力だったからじゃなくて、祝福を使う人類の想像力や夢が大きかったからだ。
祝福の原動力は「可能性」。
今できることを何に使うかではなく、この左腕に描かれた文字の意味をどこまで拡大解釈できるかだ。
その解釈に呼応して祝福で出来ることも増えるさ。」
オーシンはシアンの左手の甲を覗いた。
「「Magnification」、「倍率」か。もう一度その祝福の意味について考え直しな。
今できていることとは、別の角度の発想を。
覚えておくよ。いつしか俺に次ぐ最強の祝福の名になることを信じてな。」
後方でサイレンが鳴った。
何もせず傍観していると思われたムロンだったが、実は通報をしていたのである。
その連絡を聞きつけ、今警察が到着した。
その後警察が現場を取り締まり、シアン達は感謝状を受け少しの間「下界」では有名人になれた。
クトルが祝福を使ってしまった件だがオーシンがその場を仕切り、祝福持ちの強盗はオーシンが捕らえたという認識で話が進んだためクトルが咎められることはなかった。
パンジーとカージナルはシアンに対して嘘をついたが、オーシンが本当に居たという想定外のおかげでシアンにボコボコにされるという未来がなくなったことにより胸をなでおろす結果となった。
色々あったが全員が満足する形の休日となった。




