20. オマエがやらなきゃ、誰がやる
戦闘態勢をとった3人は少しの時間動かなかった。シアンとクトルはアルニコに言われた言葉がのどに突っかかっていた。先に思い出したのはシアンだった。
銀行強盗を制圧したあの日、クトルは死にかけた。逃走用の車に乗っていた男に発砲され、オーシンの助けがなければ無事では済まなかっただろう。その時強盗の一人から出た「アルニコ」という名前、車からチラリと見えたあの顔。間違いない。
「思い出した。お前、あの時の銀行強盗の仲間か。」
アルニコの記憶にシアンの顔はなかったが、きっとあの場にいたのだろうと理解した。
「捕まえ損ねたよなぁ、悔しいよなぁ。今、やってみろよ。」
アルニコは先輩が捕まったことと、あの状況でも少しだけ資金を確保したことを理由にゲリラの幹部の一人に任命された。その資金を利用してこのゲリラの勢力は爆発的に拡大する結果となった。
暫しの静寂の後、アルニコが動き出し、激しい戦いが始まった。
2対1だったがアルニコはその人数の逆境を諸戸もせず2人を相手にしていた。しかし、妙に連携の取れた攻撃に苦しんでもいた。
(Rangerは現在2種類までしか同時発動できない。そして今、水蒸気、空気抵抗この2つを使ってる。アホそうな奴は丸腰同然。そうなると優先するべきはチビの方。
しかし、おかしい。速度の倍率を変える壁は加速しかなかったはず。チビを逃がしたらこの電車は止められるだろうが)
アルニコは戦いの中小さくため息をついた。
「情報が違う。」
アルニコはこの2人の連携を崩すことを優先した。
「クトルと言ったか、いいのか。お前が同時に3種類扱えたら今頃俺は負けてるだろう。どうした、その鉄棒一本で俺に勝てると?空気抵抗を0にしただけで活躍した気になっていると?祝福を扱うのがそんなに難しいか?俺はそうじゃなかったなぁ。物心ついたころから自身の力に気づき、今では幹部だ。」
クトルは顔に悔しさを浮かべていた。実際問題、自身が同時に扱える属性がもっとあれば、こんなピンチなど屁じゃない。自由度の高いこの祝福をフルに活かせていないと自分が一番分かっている。
鉄棒を強く握りしめるクトルをシアンは見ていた。
「わかってないのはお前だ。」
人生で初めてクトルをかばった瞬間だった。
「未知なものは「簡単」と言いがちだが、理解しているからこそ「難しい」と言えるんだ。お前みたいな個性のない祝福には分からんだろうがな。」
シアンはクトルの努力、成長を理解していた。だからこそクトルの凄さ、悩みに気づき尊敬をしていた。正直クトルは少し泣きそうだった。
この言葉を背に、クトルにより一層のやる気が湧いた。その様子を見て、アルニコの口角は少し上がった。
シアンが意識を返答に向けた瞬間にクトルの持っている鉄棒がアルニコの方に引っ張られた。
「うわぁぁぁぁ!」
クトルの持っている鉄棒をクトルごと振り回し、遠心力に抗っていたがアルニコから一発食らい、クトルは鉄棒を離してしまった。横に吹き飛ばされたクトルに何もしてやれることができないシアンは願うだけだった。
「耐えろ!クトル!!」
「ふんぬっ!!」
クトルにかかる空気抵抗は0であるため、思ったよりも簡単に電車の側面にへばり付くことができた。
「…危ない。今行くよ!…あれ?」
しかし、クトルの体は側面に張り付いたままだった。
「その様、ゴキブリみたいだな。お前はもうそこから動けない、俺を始末しない限り。」
アルニコとクトルの衝突の瞬間、クトルは触れられていた。つまり磁力体となり電車から離れられないのである。
シアンがクトルの方に気をとられていると目の前からクトルの鉄棒が飛んできた。腕をクロスして防御できたが鉄棒は体から離れなかった。
気づいた時には遅かった。鉄棒はシアンと車体をガッチリとくっつき、シアンも身動きを取れなくなってしまった。
(まさか俺自身も磁力体!?すでに体を触られていたというのか)
シアンもすでに触れられていた。能力は掌で触れたもの限定だと考えていたが、アルニコの体のどの部位に触れても対象を磁力体に変えることができる。誤算だった。
「安心しろ、トンネルの中で解除してやる。ズタズタになるだろうがな。あぁそうだ、チビ。お前は残酷にもトンネルの縁と…
「ドン!」だ。ハハッ!分かったか!口を動かす前にもっとやることあるだろ!」
(やばい、俺たちは詰みだ…)
アルニコは余裕そうにあぐらをかいて座った。
「今、絶望しているか?自分の価値について考えてるか?そうだよく考えろ。そして絶望しろ。価値は比べて測るのもだ。よく「価値は失うと理解する」とかほざくやつがいるが、違う。あるとき、ないときを比べてるにすぎん。
結局は比べることでしか理解できないんだよ。自分と俺とで比べろ!!惨めだろ!」
2人は言い返せなかった。言い返せる状況にないからだ。ただ下唇を嚙むことしかできなかった。
アルニコは振り向き、姿勢を低くし始めた。
「俺は直接手を下さない。そろそろ時間だ、じゃあな。」
トンネルは目と鼻の先であった。シアンとクトルは共に思考を巡らせていた。
(ダメだ!僕のせいでシアン君が気を取られてこんなことに)
(完全に俺のせいだ。気を抜きすぎだ、アホ!)
(助けを呼んだほうが…)
(せめてクトルだけでも…、違う!)
(この状況は)
(誰かが打開するんじゃない)
(僕が)
(俺が)
(やらなきゃ、誰がやる!!)
その瞬間、アルニコが宙を舞った。
(は?こんなことできる奴はいないはず)
アルニコは宙で周りを見渡した。
「誰だぁァァァァ!!!」
そのまま鈍い音と共に、列車はトンネルへと消えていった。




