19. グレー
シアン、アルニコは互いに相手の行動を探るべく静止していた。
(アルニコから手を離させたのにヴィオレが起きない。首を強く握られてたからそれで失神したか、だとしたらここで戦うのはまずい)
シアンが構築した考察はこうだ。
アルニコの戦闘スタイルを見る感じ、掌で触れたものに対してN極かS極を付与する。遠隔で操作できることは物体の磁力であり、弱い磁力から強い磁力に変えることで物体が吸い付くように見える。アイビーを襲った黒い物体も、車両の磁力より額に付いた物体の磁力を強めることで額の物体と壁にくっついていた物体が引き合った。
シアンは接近戦を選んだ。
触れられるとまずいことは分かっていたが、シアンは賭けに出た。
(一か八かの、最大出力128倍‼)
シアンの全力の蹴りはアルニコを車両の天井を突き破るほど吹き飛ばした。しかし、アルニコと電車は互いに引っ張り合い、磁力の力で戻ってきた。
シアンもアルニコを追うように車外に移動した。
(こいつをリタイアさせるのは失敗したか。だがこれでいい、ヴィオレのいる場所からは遠ざけた)
「いいのか外に出て!俺はくっつけるからいいが、お前はどうだ。立ってるだけで辛そうだ。そのまま吹き飛ばされるなよ、つまらんからな!」
確かに外の強い空気抵抗に抗おうと、電車にしがみつくことに必死になっているようだ。
その様子を見て、アルニコは手を止めて少し考えた結果、シアンと話し合う余裕はあると考えた。
「なあ!一回話してみたかったんだ。お前は平等、自由どちらが大事だ?」
シアンはアルニコの会話にのった。
「さあな!帰って自由研究のお題にしたらどうだ。」
「ハハッ!面白くないな!どちらも選べないだろ。かつて俺もそうだった。」
アルニコは警察官として日々平和のため自力を尽くしていた。市民の平和、自由と平等を守るため。しかし、あるゲリラの偵察任務に就いた時彼の考え方は変わった。
「縛れば平等がうまれる。解放すれば自由がうまれる。相対する概念なんだ。平等を求めるお前らは白、自由を求める俺たちは真っ黒。ヒーローは好まれ、悪役は忌み嫌われる。でも皆が好きなのは白じゃない。
人気のない横断歩道で赤信号を渡ることを注意してくるやつは好きか?なんでも正そうとしている人間をお前は好きだと思えるのか?
求められる方は白でもなく黒でもなく…
グレーなんだよ。だからこの瞬間!俺とお前が混ざり合ってるこの瞬間が!最高なんだよ!
分かるか!!」
「…狂ってるな、お前。」
完全に思想に染まっている。同意はできないが、完全に否定しきれない自分自身が悔しかった。
「...だから俺は黒になった。」
その瞬間、苦しそうにしていたシアンの動きが元に戻ったように見えた。
「うぉぉぉぉ!くらえーーーー!!」
アルニコの背後から鉄棒を持ったクトルが頭をかち割ろうとしていた。鉄棒は車内の荷物置き場の床部分から取ってきたようだ。
アルニコは早めに気付けたため、鉄棒を腕で防いで見せた。
クトルはシアンの横に並んだ。
「Ranger、空気抵抗0。大丈夫だった?シアン君。」
「丁度教えを説かれてたところだ。128倍も使ってしまってな、もう初見殺しは使えん。
...お前はしっかりタスクをこなせたか?」
「中にいたお仲間はあんまり喋ってくんなかったけど、ここの路線にやけに詳しい人から教えてもらって大体わかったよ!
あの人たちの目的はこの電車を官邸に突っ込ませることが目的らしいよ。この先にあるカーブのレールを壊して、その直線状にある官邸に落とすって算段だよ。恐ろしいね!」
「了解、ありがとう。」
シアンがアルニコに立ち向かっている間、クトルはアルニコの仲間を減らしながら敵の目的を探っていた。一年も満たないが、長い月日を経て一人で複数を相手取るくらいには成長していた。シアンはその実力を見越してクトルに重要な任務を任せていた。
(アイビーを先に潰された意図が分かった。車輪を逆回転して、電車を止められる奴が厄介ってこった。
...それと助かったぜ、鉄オタも役に立つときあるんだな)
「蒸気ガードは?祝福の2つ同時発動は安定してるか?」
「うん。まだ同時に3つは無理だけど。」
「よし。やるぞ、この二人で!」
二人は背中合わせでアルニコの方を向き、戦闘態勢をとった。
一方アルニコは頭の片隅にある違和感を探っているところだった。
「...思い出したぞ、その顔。俺が殺し損ねた奴じゃないか。」
目線はクトルに向いていた。




