18. 正義vs正義
車内に広がった不穏な空気を察するにはさほど時間を要さなかった。
クトルはとっさに祝福を使った。
「Ranger、雲クッション!」
アイビーの後頭部に突き刺さった黒い物体と頭部の間にクッションとなるよう雲を設置した。
「俺たちは攻撃を受けてる!警戒態勢!」
シアンが周囲の警戒を促す。
ネイビーはアイビーの額と後頭部についた物体をはがそうとしたが、無理に動かすと互いが連動するため無理に動かすことができなかった。まるで互いが引き合っているかのように。
祝福から攻撃を受けていることは分かるが、未知に囲まれ一同は動くことができなかった。
シアンの耳に付けている通信機器もザーザーと音を立てている。集中して判断を下さないといけない状況であるのに煩わしく感じる。
それらの事象からシアンはハッと気づいた。
「クトル、どうせ今も持ってるだろ。コンパスを出せ。」
クトルは言われるがままコンパスを手に持った。コンパスは示す先を失い、針がクルクル回転し続けていた。
「これは、針が回り続けて止まらない。」
「俺たちは仲間を一人戦闘不能にされたが、こちらも収穫はあったようだ。
攻撃者の祝福は磁力を操る、範囲は恐らく触れたもの。アイビーは人混みに紛れて額に磁石を付けられた。そしてあらかじめ車内にも同じものを置いていた。
コンパスが回転していることや通信が遮断されていることから恐らくこの車両自体が巨大な磁性体に...」
突然背後から気配を感じた。
「正解だ。」
開いた貫通扉から何者かが現れた。
一番初めに反応したのはヴィオレだった。ヴィオレはすかさず攻撃をしたが、その男は攻撃をヒラリとかわしヴィオレに触れ、前方の車両に移動した。
「これで二人目。弱すぎて腰抜けだ。」
男は何両も前に移動した。
「え?え!え!え!?」
と同時にヴィオレの体が浮き、男の方に吸い寄せられた。ヴィオレは能力により磁力を帯び、男に吸い寄せられてしまった。ヴィオレが通過した車両は次々に座席がアスレチックのように複雑に配置され、簡単に追うことはできない。ヴィオレは奥の車両で首根っこを掴まれ拘束されている。
ヴィオレが連れ去られてしまったが意外にもネイビーは冷静だった。
「大丈夫、標的はもう目視できた。攻撃を始める。Prediction、攻撃者。」
カメリアの祝福は一度目視できた対象が視界から外れても予知が続くように進化していた。弓を構え弓矢を男の喉に向けて放った。
しかし、男はそれに気づきヴィオレを盾にした。放たれた矢はヴィオレの腕に刺さった。
「チッ、盾に使われた。これ以上攻撃はできない。」
首を掴まれ必死にもがいていたヴィオレは次第に力を失い、腕がダランと下に落ちた。
(面倒になった。様子を見るに敵はやり手。しっかりと考えられた策略で俺らを追い詰めてやがる。しかし、俺たちを積極的に攻撃したりコイツの目的は一体...。
クソッ!そんなこと考えるよりも状況を打破しなければ)
判断が遅れるほど状況が悪化することはシアンは理解していた。そしてある決心をした。
「ネイビー、ここに残ってアイビーを守護かつ、多分敵はあいつ一人じゃないだろうからほかの雑魚を射撃。」
シアンはクトルの肩を力強く掴んだ。
「ほぇ!?」
クトルはそのまま耳打ちをされた。
「うん、分かった。上手くやるよ!」
クトルは車両の窓から身を乗り出し、少し覚悟の準備をしているようだった。
「ふー、よし!」
クトルは車両の天井に飛び乗り前方へと足を進めた。
シアンがクトルに何をさせたのか気になったが無理に詮索することは今は避けた。
「それで?あなたは何をするつもり?」
「もちろんヴィオレの救出だ。それとあの男を始末する。」
複雑に組み合った座席たちを前に少し目を閉じ、自分の軌跡を思い浮かべイメージトレーニングを行った。シアンは深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、目を開いた。
「Magnification、加速。」
シアンは加速し、障害物の海へ姿を消した。障害物を次々に避け、男が気づいた時にはシアンは懐に潜っていた。
シアンは蹴り上げ攻撃をしてヴィオレを男から離した。手から離れたヴィオレは苦しそうに咳をしていた。
シアンは次に男が動くのを警戒しながら待っていた。
「面倒だ、俺は直接手を下したくないんだ。社会を良くしようと動いてるだけなのに、ましてや人殺しなど。わかってくれるかい?シアン君。」
「...なんで俺の名前を。」
シアンは男の顔を確認し何処か違和感を覚えた。目の前の男は長い前髪をかき上げシアンを挑発した。
「アルニコだ。覚えておけ、お前が人生最後に知る名だからな。」




