2. 今日の運勢
どこまで歩いたか。10分近くは徒歩で移動した。その間少年が黙っていることはなかった。
「僕の名前はクトルだよ、覚えてね。
えーっとねぇ、僕の祝福はね、Rangerって言って自然のものならなんでも操ることができるんだ!たぶん。」
「でもおまえは雨雲しか操れねーじゃねーか。
あと、ついてくんな」
クトルの質問攻めは少年の目的地付近まで続いていた。少年はクトルを振り切るあらゆる方法を模索していたが、どの策も結局は暴力に行き着くため、怒りを押し殺して足早に歩いていた。
それでも質問攻めは止まなかった。
「...へぇ。シアンっていうんだね。」
「名前を聞くのが遅い。どれだけ質問したと思ってるんだ。」
何回目か分からないため息が出た。
「おまえ、話の順序ぐちゃぐちゃすぎてな、疲れるよ。絶対部屋汚いだろ。」
「うっ!…掃除のことは置いといてさ、君の祝福を教えてくれてもいいじゃないかー。」
シアンは自身の髪をグシャグシャとかき回した。
「教えねぇ。教えるわけがない!
自分の祝福を言ったら俺も答えてくれると思ったか、間抜けめ。そもそも「祝福の紋章を隠してはいけない」法律さえなければこんな文字ぶらさげてねーよ。
それと、ついてくんな。」
「あ!それでね、」
まだ話を続けようとするクトルを無視し、鳩尾に向かって打撃を加えた。クトルはその場で蹲り、その間にシアンは走ってクトルを振り切った。
短距離走世界記録を塗り替えそうなスピードで走るシアンを見て、クトルはますます興味がわいた。
「まってよー。僕もそっちに用があるんだよー。」
シアンの目的地は戦闘員訓練校だった。この施設の見た目は露天掘りされた鉱山の様であり、その見た目とどこの大学にも通うことのできない成績の若者が集まることから「下界」と呼ばれている。都市の中に突然現れる「下界」に初見の人は驚くが、次第に慣れ、見下すようになる。下界に行くことは文字通り汚名である。
シアンは自らの意思でこの場所を選んだ。自分を見下す人々を命を懸けて守らなければならないこの役職を選んだのだ。しかし、この者たちを助けたいからではない。体が弱かったシアンにとって銀河で命を懸けて殺し合いをするということは、今までの弱かった自分のイメージを180度変えようとする意志の表れだった。
(俺はここで、そしてこの祝福であらゆる存在を超えてやる!!)
「あれ?君もここが目的地だったんだね。奇遇ぅ。仲よくしよぉ。」
シアンは自分の不運を呪った。おそらくシアンの顔にも抑えきれない嫌悪が表れていたが良くも悪くもクトルは顔色を窺わない人間だった。
無理やりの握手を交わしたのち、掲示板に向かった。
新学期一番のイベント、クラス分けがこの訓練校にも存在する。シアンはこの面倒な奴と別れることだけを考えていた。
一緒になる確率は低い。実に1/30であった。
「うわぁ~。結構クラスあるね。一緒になれるといいね♪」
(なってたまるか!お前とはここでおさらばだ)
互いに心躍らせ、掲示板のクラス番号を各々確認し、指定の部屋へ移動した。
シアン(最悪だ。最悪だ。最悪最悪最悪最悪)
「シアン君元気ないね。まあ緊張するのも無理ないか、新天地だもんね!一緒にがんばろ!ね。」
クラスの人数に合わぬ広い教室だった。そんな中隣の席でクトルは俯いているシアンを励ましていた。
時間もたち、部屋には全員で9人。見知った顔もあるが、この部屋の人間たちが作り出している空気にシアンは違和感を抱いていた。
(男が4人、女が4人。全員の左手に紋章。こいつら、過去に何か問題ありな顔してるな。この校舎では訓練兵同士の蹴落としもあるからな。一人ひとり素性を探らなきゃだな。)
そろそろ集合時間になる。この訓練校の期間は二年。これから始まる厳しい訓練を覚悟しながら、夢を果たすため様々なことを計画していた。
(まぁまず蹴落とすのは隣のやつだけどな。そうだな明日やるか、しかも物理的に蹴落としてやる)
そんなことを考えているうちにまた一人扉開け、入ってきた。身長は190超の大男。体の至る所に古傷が刻まれており只者ではないことは一目でわかる。
初対面のはずなのにこの男の自然と放つ威圧感にクトル以外の8人は圧倒された。
「意外とワイワイやってるもんかと思ったが、なんか冷たいな、この教室。秋か。俺は特に恋愛禁止してないから堂々としてろよ。あ、でも男5人女4人なら一人男が余ってかわいそうだな。思いやり、大事やぞ。」
何を言っているのかさっぱりな男は中央の教壇に立って話をつづけた。
「しばらくお前たちの教官をするプーリムだ。生意気、無口、あと野菜を食べない奴は嫌いだ。俺は嫌いな奴にはお構いないからな。気をつけろ。」
シアンは彼を知っていた。数年前にテレビで伝説の軍人として紹介されていた。まだ定年でもない彼が何故こんなところにいるのかは知らないが、シアンは高揚していた。彼から学ぶことはとても多い、そしてわかりやすい目標がこんな近くにいるからだ。
「それと、急だが俺の教育目標を話す。今から一年半後の「あつまれ!訓練兵トーナメント」でこのクラスから優勝者をだす。これは俺の目標だが、この大会で活躍すれば軍の目に留まるからな、オファー待ったなしだ、貴様らも本気でやる価値はある。ま、俺はこんな大会でなくてもスポンサーもいたがな、ハッ!」
(この男、毎回一言余計だ。隣のクソガキほどではないが)
彼の実力は全員が周知している。これから起こる訓練に怯えながら期待もしていた。
そんな中、初めて指示されたことがこれだった。
「というわけで本格的に訓練を始めるのは明日だ。今日はお互い自己紹介でもして終わりにしよう。ほら、みんな移動しろ。食堂の椅子動かして輪つくるぞ。」
プーリムはそそくさと教室を後にした。短い時間にマイペースに進めた顔合わせの機会だったが現在は嵐が去ったような雰囲気だった。プーリムに教官が身についていないことは自明だとその場にいた全員が感じていた、一人を除いて。
(教官としては100点満点中、5点だな)
抜けた気合を取り戻すべく、勢いよく椅子から立ち上がった。
「早く動いて、椅子を移動させに行くぞ。この、のろま騒音クソガキ。」
朝からの件でシアンの怒りは頂点だった。なんなら助けなかったらよかったとも後悔していた。
「なんかすごい名前つけてない?
...そもそも僕の方が身長おっきいからガキは違うんじゃない?」
(絶対殺す)




