3. 十人十色
食堂で円になり、険しい顔で中央のお菓子をつまんでいる不思議な集団がいた。幸いその集団以外誰もいない静かな空間だった。
「こういうクラスで顔合わせした時の恒例行事、自己紹介をしてもらおうか。
がしかし、趣味とか出身とからいらんぞ。興味ないからな。おまえらにはなんの祝福を持ってるか言ってもうらぞ。」
その場にいる全員が嫌な顔をした。それもそのはず、祝福とは自身の戦闘力、戦い方を開示することと同義であり、祝福の情報開示は個人情報を漏らすことよりも避けたいことだからだ。それにプーリムの祝福は全員が熟知しており、プーリムには何のデメリットもない。だが、他人の祝福を聞けることは滅多にないことなので異を唱える者もいなかった。
誰も喋ろうとしない。そもそも喋りたくない生徒が8人、教官以外誰も喋らないので自身が喋る機会をうかがっている生徒が一人。
仕方がないのでプーリムから紹介を行うことにした。
「じゃあまず俺からだ。
俺の祝福は知っての通り、「Paper」だ。紙を出すというシンプルな能力だが、敵を切り刻んだり、俺が出した紙に文字を写したりと使い方は様々だ。結局のところ、祝福は使う人に依存するってことだな!ガハハ!」
乾いた拍手すらない。全員緊張しているのか、はたまたこの教官についていけないのか...
「…なんだお前ら。嫉妬か。じゃあ次!
…えー、おまえは...フアンだ!」
「シアンです。」
隣でシアンの祝福を一番知りたがっている男の視線が痛いほど伝わった。
「俺はシアンって言います。
祝福は「Magnification」です。能力の概要としては薄い壁を出せます。この壁は目で見ることはできないかつ、ぶつかることもできませんが、この壁は通り過ぎた物体の速度を2倍にします。大きさとか重さとかは変えれません、速度だけです。
以上。」
シアンの発表が終わると隣から拍手が聞こえてきた。彼の顔は推理小説を一つ読み切ったかのように澄み切っていた。
と、こんな感じで誰かの発表が終わると1人の拍手が聞こえ、また一人が発表することを繰り返した。途中彼の拍手が耳障りと感じた男が彼に注意するまで。
全員の自己紹介が終わると続けてプーリムが発言した。
「よし!みんな嘘はなかったな。俺は事前に全員の祝福覚えてきたからな!嘘つくような性悪がいなくてよかったよ。」
(自己紹介させる意味あったか?性悪はお前だ。)
心の中で何を思うかは自由だ。シアンの教官への信頼、尊敬ポイントは0に近い。
「じゃあ、これにて解散!これから二年間地獄のような日々が始まるからな、覚悟しておけ。
...あぁあと連絡事項として一週間後にこの「ぶどう組」の全員でトーナメントするからな、知っておけ。ちなみにメイズは参加せんぞ。こいつは戦闘向きの祝福じゃないからな。
それじゃ!」
プーリムが直し忘れた椅子の配置を残りの9人で片づけを行ってから、各々が寮に戻った。
寮は一クラス2部屋しか配られないため、男女で2つに分け、4人一部屋、5人一部屋の組み合わせで二年間を過ごさなければならない。寮に戻るや否やベットにダイブする子供のような男が2人いた。
「うほぉーい!俺ベットなんか初めてだよ!基本床だったからな!」
この男はカージナル。一言で表すならお調子者である。
「俺は牢屋にいたからこんな柔らかいベット、グスン、感動するぜ。」
この男はパンジー。この男もお調子者である。
先ほどの自己紹介とは打って変わって、そこにはさっきまで険しい形相の男達はいなかった。寮はお世辞にも良いと呼べる場所ではないがこの男達にとっては贅沢なようだ。
その様子に違和感を抱いたシアンが口を開いた。
「おまえらそんなはっちゃけた奴だったか?」
お調子者その①とその②が言い返した。
「それはなぁ、同じ年代の女の子がいたら、なぁ、カージナル?」
「そうだ!!お前知らんだろ!男子校がどれだけ窮屈か!こっちは飢えてんだよ、グスン...」
「俺なんか牢屋だし!フン。」
「前科持ちがいばるな。」
シアンは突っ込まざるを得なかった。
一方でクトルはクールな男、ムロンに質問攻めをしていた。
「君の、あの、「Reparation」ってやつ?「代償」がどうとか僕には理解できなかったんだけど、僕でもわかるように教えてくれない?」
「…俺を殴ったらその痛みが何倍にもなって返ってくるって言ったら分かりやすいかな?」
「なるほど!じゃあ一発殴っていい?いいでしょ!痛い目見るの僕だし!」
「お、おぃ。ちょっとま...」
ムロンが忠告をする前にクトルは彼を軽く殴った。
バヒュ―――――ン
ドサッ!
クトルは宙を舞い、あるベッドの上に着地しそのまま起き上がることはなかった。
「忠告を...。どうしようもない、阿呆だな。」
そのままムロンは誰も持ち主がいない
その二人の様子を横目で見ていたお調子者二人組は少し落胆していた。
「あーあ、ベット選びっていう楽しいイベント残ってたのに。クトルはここのベットでいいか。
カージナルはどっちがいい?」
「...こっちでいいや。
となると次のイベントはぁ~」
期待の眼差しでシアンが選ばれた。
「シアン!お前どの女が好みだったか教えろ!」
(めんどくさ)
カージナルとパンジーはこういう話が大好きだ。一方でシアンは面倒なやつしかいないのかと、こっちはこっちで落胆していた。
「俺はパス。恋愛しにここに来たわけじゃないんだ。」
シアンはベッドに横たわった。どうやらもう寝る気のようだ。
察したムロンも口を挟んだ。
「先言っておくが俺もパスだ。」
雰囲気は盛り下がったが2人は話をやめる気はなかった。
「アイビーいいよな。幼馴染感あって。「Rotation」っていう物体を回転させる祝福ってなんか、かわいいし。
な!パンジー!」
「あいつな、あのおかっぱ。ぶりっこぽそうで、なんか、いや。」
「…。あ!あいつもいいよな!メイズ!あの子の「Return」で傷口いやしてもらいてぇー。ついでに傷んだ心も。」
「あの糸目女な。あいつ目の前のお菓子にも目もくれずどこからか持ってきたトウモロコシ食ってて。正直キモいよな。」
遂にはカージナルも冷めてしまった。
「…。おまえ、やる気ある?牢屋暮らしで流行りなんもしらねーんじゃねーの。」
「そんなことねぇ!!この数日間、遅れをとならいためにもトレンドを滅茶苦茶勉強してきたんだからな!」
「もしかしてお前の推しってカメリアか?名前はかわいいけど、不愛想だし。
「Prediction」?だっけ?予知能力でなんでも見透かされそうで。浮気なんかも即バレだな。」
「浮気する前提ならお前恋愛向いてないぞ。
俺はやっぱ、ヴィオレだよな!スタイル!容姿!多分祝福も最強!!」
「おぉ!!すげぇ。高嶺の花は難易度高いから鑑賞で我慢するってのが相場なのに!
見直したぜ、おい!」
一応会話を聞いていたシアンは口を挟んだ。
「あいつは止めておけ。噂を知らんのか?」
シアンが我慢できなくなって話に入ってきたとパンジーは思った。
無論そんなことはない。
「今更この話に混ぜてほしいっても無駄だせェ。お前は一度断ったんだ。」
「そうだそうだ!あー、でも俺ヴィオレ狙うつもりないからその話聞きたいかも。」
サフランは少し悩んだがどんな過去を持とうが自分が抱擁してやろうと覚悟を決め、シアンに話を続けるよう頼んだ。
「あいつの祝福は「Lich」。魂であればなんでも取り込めて自分の力に変換できる。力の増え方は掛け算方式で3つまで取り込めるが取り込んだ魂の祝福は使えない。例えば力が2倍の魂と5倍の魂を取り込んだら本来の力の10倍が出せる。」
「それは自己紹介の時聞いたよ。自由に出し入れできて、魂は人間に限らず動物や植物でもOKらしいな。」
「あいつの魂の枠は常に一つ埋まってることは?」
衝撃の発言にパンジーは固まった。
「...そ、それは初耳だ。」
「取り込んだ魂の祝福は使えないが魂の特性や容姿は使うことができる。犬の魂を取り込んだら耳や尻尾を出せる。女優の魂を取り込んだら全く同じ容姿にすることもだ。
…そろそろ気づいたかもしれないが、ヴィオレは10年前に死んだ女優の若かりし頃と容姿がそっくりだ。おそらくその魂を取り込んでる。その証拠にアイツは3つ魂を取り込めるという証明ができない。
例えば犬の耳と猫の爪、リスの尻尾を生やせるのなら3つ別々の魂を取り込める証明になる。
だが、あいつはそれをできない。いや、しないと言うべきか。
...容姿が気に入ってるなら手を引くことをお勧めする。」
「...た、魂が3つ取り込めるという確証はないだろ!!もし2つだったらそんな説不立証だ!」
「...「祝福」の申請は、確かに3つだ。」
黙っていたカージナル。あまり賢くない彼だがやっと理解が追い付いた。
「魔女がいるって噂は聞いてたが、そいつのことか?パンジー、"Don't Mind" だな。」
「う、うるせぇ!そんなに俺が決意の弱い男に見えるのか!?」
口ではそう言ってるが明らかにショックそうだ。
「それと、最強は俺だ。そこを間違えるな。」
思わぬシアンの一言にパンジーは反抗心を少し取り戻した。
「...やっぱお前、嫉妬じゃね?ヴィオレに身長負けてるからか?」
「口には気をつけろ。お前は最強を目の前にしてそんな口きけるのか?」
パンジーは指の骨を鳴らしながらシアンに近づいた。
「一週間は待てん。今ここで、やるか。」
(ほんとガキばっかだな)
静かに寝たいムロンだったが子供三人に邪魔されてイライラを背中で表していた。
一方女子寮では。
「萎えたね、アイビー。」
「ね、メイズ。」
「...良さげな男いなかったね。」
「ね。もしかしたら、顔に出てたかも。」
女子部屋では同じような会話が繰り広げられていた。
「てか、うちらのクラス「ふどう組」って言うの?やばくない?」
「ほんと、幼稚園。他のクラスは「りんご組」とか「みかん組」なのかな?「とうもろこし組」がよかったな。」
「...そこは普通果物縛りでしょ。」
メイズはどや顔をしながら返答した。
「とうもろこしはねぇ...。果物でもあるのよ。」
「え!?マジ!!!」
そんな二人を遠めに見るネイビーの目は冷たかった。そんなネイビーにヴィオレは話しかけた。
「そんな険しい顔して。何か不満なの?」
「私は普段からこんなのよ。それにあんたも顔厳しかったでしょ。」
「私は、周りに流されるタイプだから。」
ヴィオレは恥ずかしさを隠すように呟いた。
(どういうこと?)




