16. 授与
夏の遠征から数週間、少し肌寒い季節がやって来ようとしている。「あつまれ!訓練兵トーナメント」は無事終わり、数々のドラマが生まれた。しかし、そんな行事をぶどう組の生徒達は観戦することはできなかったが、今ではそれを嘆く者はいない。全員が来年の「自分の番」に向けて大きな一歩を得ることができたと考えている。
それもあってか、ぶどう組の面々は少し大人びた印象を受けるくらい自身の成長が表に表れていた。
ある日、シアンとクトルが教室移動していると見ず知らずの男が声を掛けてきた。
「お前、ボコボコにされたんだってな!」
声をかけると言うより挑発であった。しかし、こんな単純な挑発に乗らなくなったシアンは冷静に言い返した。
「…「リンゴ組」のやつか?お前こっちに用はないはずだ。
皆と逸れて迷子になんなよ?」
外気温が下がってきた一方、こっちは熱くなっていた。
「そんなこと言って、まだ包帯取れてないだろ?情けないなぁ。しかもただの猛獣に。甘い訓練でもしてたのだろうよ、おチビちゃん。」
シアンの傷は大方癒えてきたが、全ての包帯は取れていない。それを栄光の証と捉えるか、自らの弱さと捉えるかは人それぞれである。
「外に出ずお肌艶々のお前とは違うんだ、井の中の蛙。」
今シアンと一触即発の男はアムスと呼ぶ。アムスはぶどう組の隣のクラスであり、所謂犬猿の仲であるためしょっちゅう比べられる対象に選ばれる。
「あつまれ!訓練兵トーナメント」が終わり、来年に向けて生徒たちの事前評価が発表された。事前評価は「外界」の教師たち、兵士を雇用する軍隊のスカウト等による総合評価で決まる。
そこでシアンは優勝候補として紹介されたのである。アムス自体も実力者であるが、シアンほど評価は高くない。アムスはシアンのことを認めていないかつ、犬猿の仲のクラスであるため現在こうなっている。
さすがにこの様子を見過ごせないクトルが仲介に入った。
「ちょっと、シアン君やめようよぉ。それ以上挑発したら喧嘩始まっちゃうよ。僕にこの人の処理を任せるのはなしだからね!」
仲介と言うよりこれも挑発である。今日一番の貶しだが本人は無自覚である。
想像もしなかった一言にシアンは少し熱が冷めた。
「…お前火に油を注いでるぞ。ほら。」
既にアムスがクトルに飛びかかっていた。
シアンはクトルを突き飛ばし、アムスに反撃した。しかし、それはバリアのようなものに阻まれた。
「はぁ?お前空飛べるだけの祝福だったろ?なんで、」
アムスはドヤ顔をしていた。
「つまり俺の下の段階にいるってわけだ!!」
「で、アムスを全治一週間にしたと?」
場所は職員室。シアンはプーリムに正座をさせられていた。隣にはクトルがいるが、彼は横で立っている。
「俺は喧嘩したんじゃなくて守ったんだ。油注いだコイツが悪いだろ。」
プーリムは頭を抱えた。今後のさまざまな対応を考えると更に頭が痛くなる。
「はぁ、やりすぎだ。りんご組の教官、うるさいんだからな?」
クラス単位で仲がよろしくないため、相手の教官に頭を下げたくない。それに後々グチグチ言われることが目に見えている。
「それより、」
「それより、じゃない。」
話題を変えようとしたシアンにプーリムが待ったをかけたが、彼が止まることはなかった。
「おいおい、隠し事しといてそれはないぜ。
…「授与」ってなんだ。」
「授与」、それはこの「下界」でのみ起こり、祝福と同様に説明のできない力である。この地で教官となったものは「外界」の地下にある遺体から「授与」の証を与えられる。それを持っている者に指導された生徒は祝福のようなもう一つの能力、「授与」が与えられる。
例を挙げると、先ほどのアムス。彼はりんご組の教官からバリアを張れる「授与」を与えられたのだ。
この強大な能力を今日までプーリムは隠していたのだ。
「…隠していたことは済まなかった。…分かったこの際言おう。」
黙っていた割にはすぐ答えを知れることになり、シアンとクトルに緊張が走る。
「教えてやろう、俺の「授与」は。」
ひと時の静寂が流れた。
「ゴクリ。」
「与え方分からん。てか持ってるのすら分からん。」
2人に驚きと落胆が同時に襲う。
「おま、教官、いいんですかそれで。」
衝撃的すぎて教官に対して「お前」と言いかけてしまった。
「仕方ないだろ、一年目なんだから。ふむ、でも俺らの組だけ何もないのも他組から馬鹿にされるのもいたたまれない。
明日だ。明日を楽しみにしておけ。」
次の日、プーリムは大きな段ボールを持ってきた。
「お前たちに「授与」について黙っていたことを謝罪する。ただ、俺は授与を与えることができない。
代わりと言っては何だが…」
プーリムは段ボールをひっくり返した。様々なデザインのマントが出てきた。
「俺は勲章を取りすぎて、新しい勲章を作らないと追いつかないくらいだったんだ。だから、面倒くさくなった上が勲章の代わりにこのマントをくれた。まぁ俺一人しかいないから、そう何個も配られても意味ないがな。上が無能なんだよ。
この中から一つ選べ!これが俺の「授与」だ!」
いるかどうかと聞かれたら要らないと答えるほど微妙な代わりだった。全員乗り気ではなかったが貰えるものは貰っておこうと、渋々選んだ。
「そんな肩掛けみたいなのでいいの?すこしふわふわしててかわいいけど。」
「主張が少ないやつがいいんだ。お前のは、」
シアンはクトルの選んだマントを見たが、Theマントというデザインであり共感性羞恥を感じた。大体皆はマントと言うより戦闘着のワンポイントお洒落になる様なデザインの物を選んでいた為、逆に目立ってしまう。
「うわ、こてこてすぎるだろ。」
「かっこいいでしょぉ。」
今後外で活動する際は必ずつけてもらうと言われたシアンは嫌そうな顔をした。
全員がマントを選び終えて席に着くとまたプーリムは話し始めた。
「それと、今後決めごとを増やす。それは軍隊でよく使われる「報連相」の一部だ。味方になんの祝福のどの能力を使うのか報告する、ってことをしてもらう。
例えば俺なら、「Paper、メモ。」みたいにな。
ただ殴る蹴るみたいな動作の時とか、敵に聞かれそうな場合はいらん。あくまで味方と連携をとるためだ。とは言え、敵を目の前にしても言えるくらいには習慣にしておくように。
あ、変な技名つけるなよ。誰が聞いても一発で分かるような言葉でよろしくな。こんなところでかっこよくなろうとするなよ、青二才どもめ。」
そろそろプーリムの余計な一言に慣れてきた。




