13. 「正義」とは
2人と別行動を取っているシアンは森をうろついていた。
(森が妙に静かだ。最終日だから全然猛獣残ってない、とか。)
ガサッ
すぐ横の木陰からリンが出てきた。気配を感じ取れなかったため驚き、戦闘態勢をとったが、リンにはその気がないようだ。不思議そうな顔をしてシアンを見ていた。
「どうした!また抗議のために山を下りてきたのか!」
驚いた自分が恥ずかしかったため大声を出して誤魔化した。リンはうまく喋れないため、どもっていた。
(夜は工場が閉まっているから抗議はしないはず、何が目的だ。
…しかし、しゃべれんってのはだいぶ面倒だ)
仕方がないため、毎日配られていたが用途の分からなかった蒼々紙を手渡した。ペンを渡そうと思ったが、リンは紙を切り刻んで文字をつくった。
シアン(いや、そういう使い方じゃ…)
落ちた紙にはこう刻まれていた。
モリ キル
ユルサナイ
オレ ヒト キル
シアンの背筋が凍った。しかし、すぐ冷静になって考えた。
(もしそうなら俺に攻撃を仕掛けるはず。しかし猛獣を狩りまくった俺達には目もくれない。つまりターゲットはここのジジイ共)
一呼吸を置いて話しかけた。
「すまないな、邪魔した。」
(狙いがジジイ共なら無視だ。俺らに被害はない。この活動が終わればさっさと帰るプランになってるからここで起こった事件は知らない状態で帰還。
俺が黙っていれば...)
シアンは180度回転して数歩歩いた。シアンが脅威を前に退くことは珍しい。祝福を使わずに強盗を制圧したこともあった。しかし、今回は相手が悪いと感じていた。
(おれらが頼まれたのはジジイの守護じゃなく、狩り。任務を無視したことにはならない。
...なにより、さっきのを見て分かった。あいつは相当、強い!)
その場から離れようとしたときある言葉が脳裏に浮かんだ。
プーリム「「正義」とは何なのか、真剣に考えてもらいたい!」
クトル「それ、先生が言ってる意図と違うような。」
シアン(クッ、何で今。俺の、俺の正義は)
遠征開始直後の言葉を思い出した。
プーリム「正義のヒントを与えよう。みんな異なる正義を持っている。だからぶつかる。ゆえに争いがおこる。拳を交えるときはいつ何時も、己の正義を通す時だ!」
シアンは足を止め、リンに質問した。
「おまえの正義は何だ。」
リンは突然のことに動揺した。
「森を守ることだろう、どうせ。いいかのか、そんなしょうもないことで。」
以前の自身の言葉が脳内で再生される。
シアン「強いほうが「正義」だ。それ以上も以下もない。」
リンは文字を書く、話すことはおろそかでも言葉を認識することは人並みに可能である。
リン「グルルルル…」
過去の自分の言葉を思い出し、一呼吸置いた。
「お勉強の時間だ、聞け。」
リンに言っているつもりだが過去の自分にも言い聞かせているようだった。
「正義とは、「平等」だ。規則を守っているものに味方し、破るものには制裁を。当然のことだ。伐採の場所を定め、いたずらに木を切ることなく、一度切った場所には種を植える。そしてまた切る。しかし、お前はそんな自然と共存しようとしている人達を殺そうとしている。
...これは平等か?」
息を吸い込む。
「いいか!制裁を加えられるのはお前だ!」
リンは自分に対して敵意を抱いていることに気づいた。その様子を確認し、シアンはゆっくりと戦闘態勢を取った。
「安心しろ。今、その身に叩きこんでやる。」
シアンとリンの間に、目に見えない加速の壁が複数現れた。シアンはその壁を通過しながら加速しリンの胸倉まで一瞬で潜り込んだ。
シアンはリンの頬を思い切り殴り、吹き飛ばした。リンは受け身をとり、咆哮した。
「グアァァァ!!」
「さぁ、お仕置きの時間だ。」




