↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの虹のように Remake  作者: おわなん
二章:慈雨
PR
12/22

12. 魔女

遠征最終日の夜、シアンは他2人と離れて行動していた。


「あれ、シアン君は?今日は一緒に動かないの?これじゃあ負けちゃうよ。」


「そうだよね。私もそう思う。シアンはね、また一人で突っ走ってどっか行っちゃった。


...はぁ、あいつ、昔から正義感強いのはいいけど一匹狼の癖は減らしてほしいよね。」


昔からシアンを知っているヴィオレは残念というより呆れていた。5日目までは一回も勝てなかった夜の部チームだが今まで培った連携を上手く運び、昨日やっと一勝を掴み取った。そんな流れもいい中、何故かシアンは一人で行動することを選んだ。その決断を聞いた時ヴィオレは断った。しかし、シアンの鋭い眼光を見たヴィオレは怖気づき許可するしかなかった。


「まじかー、他チームは2勝なのにうちのチームだけ一勝で今日勝てなきゃ引き分けにできないって思ってたのにぃ。」


競争に負ける責任を感じていたとしてもシアンのこの決断には全く別の事象が絡んでいるとヴィオレは薄々感じていた。その証拠に今日の森は静かだ。猛獣の陰すらない。


「他のチームが強いよ、私たちはよくやってる。」


朝チームには遠距離が得意なネイビー、カージナル、昼チームのアイビーは害獣の首を遠距離から90度折ることができる。少々残酷だが一瞬の制圧が可能である。何と言っても昼チームにはメイズとムロンのコンビが最強である。


このコンビは互いの祝福の利点を組み合わせて使っている。単体で見ればシアンが一番強いが、チームで勝るのは間違いなくメイズとムロンのコンビだ。教官に勝てると言っても過言ではない。今思えば、あのショッピングモールでの一件はこの組み合わせの提案だったのだろうと考えられる。ムロンが急に


「お前の祝福は俺のために使え」


と言ってしまったため、メイズも席を立ってしまった。ムロンの口下手な部分が玉に瑕だ。




「くそー。やっぱり僕も遠距離できるようにならなければ。あ、そういえば...」


ヴィオレと二人きりになったため、クトルは以前から気になっていた「あのこと」を聞いた。


「ねぇねぇ、シアン君からヴィオレさんに向ける視線とか態度がいちいち鋭い気がするんだけど、…気のせいかな?」


「あぁ、同じ高校だったからね。私が魔女って呼ばれてるの、高校のころから知ってるからかな?あんまりつるむことなかったはずだけど。」


「え!?魔女!?何それ、ひどいあだ名だね。」


「君、私がどんな人か知らないの?」


クトルは「下界」にやってきて初日の夜、気絶していたから知らないのである。


「自分から説明するの酷だなぁ。」


ヴィオレは魔女と呼ばれる所以をすべて説明した。




「今の話、ほんとなの?」


ヴィオレは全力で腕を振った。


「違うわ!!...って言っても誰も…」


「やっぱり!君みたいな優しい人がそんなことするわけないもんね!僕誤解を解いてくる!」


ヴィオレはクトルの純粋さに驚愕した。そういえばそういう奴であったことを今思い出した。


「ちょ、ちょっと待って!呑み込みが早すぎて私が騙しているように見えちゃうじゃない!せ、せめて何があったか真相を語らせて。」




=================================ヴィオレの過去


ヴィオレは高貴な一家の生まれであり、古くから人の死を扱っている家系である。その家系では代々「死」に関連する祝福が発現しやすい。またその血筋には何をしても一流の才があったため、子にも当然才や厳格な姿勢を求められる。


ヴィオレには4つ下の弟がいた。ヴィオレが6歳の時、弟が棚にぶつかった拍子に、上から大きな壺が落ちてた。それを見つけたヴィオレは弟をかばった、つもりだった。


頭から血を流しながら弟を心配して顔を触ると、その皮膚はとても冷たく生気を感じられなかった。死んでいたのだ。頭から血を流した少女、その隣には息を引き取った幼児が横たわっていた。意味の分からない状況であったがすぐに原因は発覚した。弟が息を引き取ったのはヴィオレの祝福が原因だった。




「Lich」、魂を取り込むことができるが、奪うこともできる。運が悪く弟を庇おうとしたタイミングで発現してしまったようだ。そうして弟の魂を無意識に取り込んでしまったヴィオレだったが家族に上手く説明できない。弟の魂は死んでいないが肉体は死んでいる。どうしてこれを説明できようか。




完璧を求められる家庭ゆえ、人殺しは認められなかった。それから家族から与えられるものは住居、資金援助だけとなり、一家から追放された。




高校時代、彼女の心の支えはクラブ活動のみだった。成績優秀、美貌も完璧であったが、完璧であるがゆえに妬まれた。そしてある疑いをかけられた。かつての女優の魂を取り込み、偽りの美貌を得ていると。それが虐めの始まりだった。


彼女はいつも一人だった。だから放送クラブでは居心地がよかった。誰にも干渉せず、されず活動ができるからである。しかし、それもある日邪魔が入る。




お昼時、いつも通り放送をしていると放送室の扉が何か話声と物音がした。そしてあるところから火種が発生し、この密室空間に二酸化炭素が充満した。


「ゲホッ!ゲホッゲホッ!...なにこれ。」


ヴィオレは放送室の扉を開けようとしたが何故か開かない。強く扉を叩き叫んだ。


「誰か!!開けて!!いるんでしょ!!誰か...」


これも全て同級生のいたずらであった。学内でも当然祝福の仕様は禁止されている。それでも彼女のいじめは決行された。




ある程度時間が経ち、いじめっ子達は弱々しく倒れたヴィオレを期待し扉を開いた。しかしそこには、かろうじて意識を保っていた彼女がいた。植物の魂を取り込み左腕を植物に変え、窓の光から光合成を行い酸素を作り出していたのであった。しかしそれよりも気になったのは鬼の形相でそこにいる全員を睨みつけるヴィオレだった。


「ヒッ!」


その場にいた男女全員後退りした。


こんな一人ひとりが弱い未熟に自分が苦しめられていたと思うと悔しい自分と、集団でしか強気になれない者共にイラついた。我慢の限界だった。


そして、喧嘩が始まった。1対15ほどの大劣勢であったが、その逆境に負けるほど彼女は弱くはなかった。喧嘩とは程遠い、一方的な蹂躙。この喧嘩は校内にはとどまらず校庭まで広がっていた。とは言ってもヴィオレに恐れおののいたいじめっ子が散り散りに逃げているのをヴィオレが一人残らず叩きのめしているのだが。


校庭のど真ん中で走り疲れ、一人の女子が倒れた。後ろからゆっくりヴィオレが歩いてくる。


「ごめんなさい!!!許して!!あんたのこともう馬鹿にしないからぁ!!」


涙と泥と鼻水で顔面がぐちゃぐちゃになっていたが、ヴィオレには見えてないし聞こえてない。主犯格の女子に最後の一撃を振るった。


パシー――ン!!


人を全力で殴った感覚ではない。顔を上げるとある男に防がれていたことに気づく。


「お前、人を本気で殺す気か?」


主犯格の女子は泡を吹いて倒れていたのが目に入って、ヴィオレもその場に倒れこんだ。


=================================




クトル「え!?それシアン君なの!かっこいい。あ、ヴィオレさんゴメン!そんな感じじゃないもんね。ゴメン。」


ヴィオレ「いいのいいの。悪いのは私だし...。


そしてね、一連の出来事が収束して、断罪が始まった。被害者であっても祝福を使用した私も含めての。学校側はねチャンスをくれたの。私の無実の証明、容姿を偽っていないかどうかの証明、つまり3つの魂を取り込めるかの証明をしてくれたら退学は逃してくれるって。でもできなかった。弟の魂は離せないけど、持ってる証明もできない。


…それでねここにいるの。退学しちゃったら進学も就職も拠り所ないからね。この力活かしてやろうって!」


微妙な空気が流れた。クトルは正直ヴィオレが悪いと感じなかった。学校側が虐めに関する言及ではなくヴィオレが容姿を偽っている部分に言及されたのは納得がいかない。それともう一つ疑問があった。


「どうして...みんなはこのことを信じてくれないの...。」


「そ、それは...。やっぱり、証明する方法がないから、かな。」


クトルはあることを心に誓い、立ち上がった。


「決めたよ!!僕は皆の誤解を解く!まずはシアン君だね!」


「え...。うん、ありがとう。クトル君。」


ヴィオレの目元には光るものが少しついていた。




立ち上がったクトルの視界の端に奇妙に光るものが見えた。それに少し焦げ臭い。


「この匂いは、山火事!?」


二人の知らないところである大きな歯車が動いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。