11. 僕の目標
夜の部、クトル、シアン、ヴィオレの三人は視界問題で困っていた。田舎の夜は段違いに暗い。灯りは月明りのみ、森の中ではその唯一の綱である月明りも木々の下に辿り着くものは少ない。この三人で視界問題を解決する頼みはクトルしかいない。しかし彼の祝福のレパートリーにそんなものはない。
「チッ。おいクトル、太陽出せ。予想はしていたがあまりにも暗すぎる。」
「無理だよぉー。今使えるのは雨雲と空気抵抗をいじるくらいだよぉ。」
シアンはクトルの胸ぐらを片手でつかみ睨んだ。今までの怒りとは違ったものをクトルは感じ取った。それはポンコツクトルへのイラつきではなく、どうしようもないこの環境への怒りだった。
「ちょっと、やめてよ!」
ヴィオレが止めに入った。
「この環境で誰か死ぬと思ってたけどその原因が仲間割れなんて、あんまりだよ。
…誰が、もし人が減ったら誰が私を助けるのよ!私を守るため以外の死因はなしだからね!」
ヴィオレが冗談のつもりで発言した。しかし場は白けていた。ともかく状況はカオスである。
シアンは横目にヴィオレを見た。少し冷静になり、クトルから手を放し語り始めた。
「クトル、俺は強いか?圧倒的か?」
クトルは分かりやすく萎んでいた、自分が悪いわけではないのに。何も喋ろうとしなかった。シアンもクトルが100%悪い訳ではないことは分かっている。しかし思うところがあった。少し苦しい顔をしながらも話をつづけた。
「俺は病気持ちだ。筋力、知力、学習力。あらゆる能力が1/2になる病気なんだ。凡人になるためには少なくとも人の二倍頑張らなきゃならん。でもそれだけ努力してもなれるのは凡人。この頑張りをもし凡人がやっていたらどれくらい強く、賢い人間になるのか、いつも考える。
...だからだ、だから何の重りも持たず生まれてきたやつができない、やりたくないって騒がれるのが嫌いなんだ。」
シアンの言葉はクトルに重く突き刺さった。模擬トーナメントで新しく空気抵抗を操作できるようになってから今まで少し天狗になっていた部分があった。あれからなにも成長していないと言っても過言ではない。
今までのただの嫌悪とは違い、きちっとした助言であったから。
「4ヵ月経ったろ。一週間足らずで習得できた空気抵抗の他に何を得た?ここに来た理由がどうであれ、強くならないとダメなんだ。教官も言ってたろ。自分の「正義」じゃなくてもいいから、何か目標を作れ。少なくとも俺は…。」
シアンはここで喋るのを止めた。人にもそうは言ったものの「正義」について結論は出ていない。
2人に背を向け、一人で猛獣を探しに行った。
ヴィオレは迷っていた。彼女は多いほうに流されるが今回の場合、1対1だ。とりあえずクトルと一緒に俯き、膝をついた。
「ぼ、ぼくは。僕の目標は。ずっと前から...」
そして次の夜、今回は3人で動いて活動していた。朝、昼、夜の部でどのチームが一番多く狩ることができるかの勝負を最も効率的に回すためである。
「勝負」とは。
昨日仕事の後に勝負の話をムロンから提案された。朝、昼、夜チームがそれぞれ討伐した害獣の数を日ごとで競う簡単な競い合いだ。初日の結果は含まず、残りの6日で3本先取のチームが勝ちとなる。
夜の部の作戦としては、前衛シアンヴィオレ、後衛クトルの編成で支援を受けながらガツガツと前に出て数を稼ぐやり方だ。昨日までのクトルなら前衛はおろか、後衛すら務まらなかったが、どうやら水蒸気を辺りに広げ、物体が通るときにできる水蒸気の動きから狭い範囲を索敵できるようになったようだ。これで明かりが少なくともある程度は動くことができる。
「右だよ!!10m範囲に猛獣2匹!」
シアンがその成長に感心していると、左側から出てきた素早い猛獣に襲われた。索敵できる範囲が狭いため速い獣には対応が遅れるのである。
シアンは確実に出遅れた。しかし、どこからか吹いてきた風が落ち葉を舞い上げ、その猛獣の目に当たった。たまらず目を閉じたため、目標から逸れシアンの前で猛獣の爪が空を切った。すかさずシアンはカウンターを決め、仕留めることに成功した。
「ふぅ、間に合ってよかったぁ。ごめんねー、まだ索敵穴だらけでー。」
クトルが後方で両手を合わせて謝っていた。
「あ、あぁ。」
(まさかこいつ、この一日足らずで水蒸気による索敵と僅かであるが風の操作も)
シアンに説教されたのち、寝る間も惜しんでクトルは祝福の強化に励んだ。それに以前とは異なり独学で。水蒸気の微細な動きを感じ取る、その動きから物体の大きさ形状を感じ対象が危険か判断する、対象との距離や速度を測る。繊細な技術を必要とする工程を複数経てこの索敵を行っている。難易度は測りしえないほど難しい。それをたった一日で実用レベルまで磨いて見せた。
さらに今日の疲弊が重なり、立ってるだけで苦しいはず。それなのに頭をフルで使う後衛で働いているのである。成長を促したシアンだったが流石に成長スピードが早すぎて少し引いている。
(僕は改めたんだ。ここに来た以上、弱々しい僕と決別するって。それに目標ならもうある。
僕の目標は、シアン君、君だよ!あの日、僕が助けられたあの日から...)
それぞれの思いを胸に遠征最終日を迎える。




