第36話 毒を運ぶ者
十五日目の朝、砦の空気は重かった。
アルヴァンが来たことで、状況が変わった。
将軍との対立が表面化した。
教団の動きが、次の段階に進む可能性があった。
俺は夜明け前から感知を広げていた。
全方向。
北、南、東、西。
変化を見逃さないように。
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朝食の時間、食堂に全員が集まった。
アルヴァンとミラナも来た。
砦の者たちの視線が、二人に向いていた。
昨日の夜より、視線の質が変わっていた。
疑いではなく、確認に近い。
ヴォルク将軍が教団の者だと知れ渡ったことで、アルヴァンの判断が正しかったと感じている者が増えていた。
「感触はどうだ」
レイが横に来た。
「今朝は静かです。ただし、何かが準備されている感触があります」
「準備されている感触とは」
「直接の敵意ではありません。何かが動こうとしている前兆のような感触です。うまく言えませんが」
「うまく言えない感触でも、感じているなら知らせてくれた方がいい」
「それが正しい判断かどうかわかりませんが、感じたことは伝えます」
「それでいい」
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昼前、オルドが俺を呼んだ。
「昨日連れてきた者たちを確認した。アルヴァンが同行した二名についても話があった」
「何か問題がありましたか」
「問題というより、確認したいことがある。一緒に来てくれ」
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医療棟の横にある小さな部屋に、昨日の連れの二人がいた。
三十代の男と、二十代の女性。
男の名前はルカ、女性の名前はソフィアだと聞いた。
二人とも、アルヴァンの信頼できる仲間だとミラナが言っていた。
オルドが計測杖を出した。
「昨夜、二人を簡単に確認した。もう少し詳しく見たい」
「何のためにですか」
「石の影響を確認するためだ。ただし、それだけではない」
オルドが計測杖をルカに向けた。
石が光る。
しばらく確認する。
「魔力核はある。人類側の術者に近い性質だ。石の影響は、今のところ感じられない」
「問題ないということですか」
「問題ないとは言い切れない。ただし、今は安全だと思う」
次にソフィアを確認した。
今度は少し時間がかかった。
「こちらは、少し特殊だ」
「特殊とはどういう意味ですか」
「魔力核がない。あなたと似た性質がある」
俺は驚いた。
「魔力核がない人間が、人類軍にいるんですか」
「珍しいが、いないわけではない。ただし、この女性は、魔力核がないにもかかわらず、別の何かを持っている」
「別の何か」
「感知に近い能力かもしれない。昨日、アルヴァンが感知に近い者を連れてくると言っていた。この女性のことだったのかもしれない」
ソフィアが俺を見た。
「感知が使えるんですか」
ソフィアは少し間を置いた。
「感知とは呼んでいない。ただし、何かを察知できることがある。特に、石が近くにある場合に」
「石に反応するんですか」
「石の影響を受けている者が近くにいると、気持ち悪い感触がある。それだけだ」
「それは、俺の敵意標識に似ています」
「あなたは敵意を感じるのか」
「敵意と、石の焦げた感触を感じます。あなたが感じるものと、少し違うかもしれませんが、似た仕組みかもしれません」
ソフィアはオルドを見た。
「同じ仕組みか」
「同じかどうかはわからない。ただし、似た経路を使っている可能性がある。魔力核がなく、何かを外から感じ取る能力を持つ者が二人いる。これは、偶然ではないかもしれない」
「虚環の器、ということですか」
「ソーイに向けた言葉を、この女性にも当てはめられるかどうかはわからない。ただし、調べる価値がある」
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オルドが俺とソフィアを並べて確認した。
計測杖が両方に向けられた。
「通り道の性質が、似ている。ただし、ソフィアの方が細い。ソーイの方が太い」
「太さが違う理由は」
「ソーイは盾を何度も出した。通り道が使われて、太くなった。ソフィアは能力を使う機会が少なかったか、あるいは使い方が違う」
「私は、石の影響を受けた者の近くにいると、感触が来る。それ以外に使ったことはない」
「感知として使っていないということか」
「使い方がわからなかった。ただの不快感だと思っていた」
「不快感が、能力だったわけですね」
「そうなのか」
ソフィアは少し驚いた顔をした。
「訓練すれば、もっと使えるようになる可能性がある。ただし、石の影響を受けやすくなるリスクもある。気をつけながら進めた方がいい」
「俺と同じですね」
「似た状況だ。ただし、ソフィアの場合は、もっと最近気づいたことなので、ソーイよりも安全に進められるかもしれない。変な癖がついていないから」
「俺は変な癖がついているんですか」
「盾を出しすぎているという意味だ。悪いことではないが、通り道への負担が大きい」
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昼過ぎ、カルバが全員を集めた。
「今日、将軍側から使いが来た」
砦の空気が引き締まった。
「内容は、アルヴァンを砦から引き渡せというものだ。引き渡さなければ、砦への攻撃を再開する」
「期限は」
「明日の夜明けまで」
ヘルトが言った。
「引き渡さないという判断は変えないか」
「変えない。ただし、将軍への対応を考えなければならない」
「どんな対応ができるか」
「三つある。一つは、将軍の上位の者に直接情報を届けること。二つ目は、将軍以外の人類軍の指揮官に働きかけること。三つ目は、教団の証拠を外部に公開すること」
「どれが現実的か」
「全部、容易ではない。ただし、組み合わせることで、将軍の行動を制限できる可能性がある」
アルヴァンが言った。
「将軍の上位の者への接触は、俺が進める。ただし、時間がかかる。明日の夜明けまでには間に合わない可能性が高い」
「間に合わない場合は、攻撃を受ける」
「その覚悟はしている。ただし、砦を危険にさらすことは、俺の本意ではない」
「あなたが砦を出るということか」
「出ることを考えていた。ただし、砦を出た後の行き場がない」
「行き場を作ることは難しいか」
「今は難しい。ただし、一つだけ可能性がある」
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アルヴァンが言った。
「魔族側の者に、仲介を頼めるか。将軍の上位の者ではなく、別の経路で人類軍の指揮官に届けるために」
「魔族側が、人類軍の指揮官に働きかけるということか」
「直接ではない。ただし、教団の証拠を持つ魔族側の者が、中立的な立場の者に渡せれば、そこから届けられるかもしれない」
「中立的な立場の者とは」
「神殿の一部の者か、あるいは灰境線の外で活動する商人や情報屋だ」
「信頼できる者がいるか」
「一人だけ、心当たりがある。ただし、接触するまでに時間がかかる」
カルバは少し考えた。
「明日の夜明けまでに動けるか」
「今夜動けば、間に合うかもしれない。ただし、一人では動けない」
「誰が必要か」
「感知ができる者が必要だ。夜に動く場合、敵の位置を察知できるかどうかで、リスクが大きく変わる」
カルバが俺を見た。
「ソーイ、夜に動くことができるか」
「できます。ただし、一つ確認していいですか」
「何か」
「ソフィアさんも一緒に動かせますか。二人の感知があれば、お互いの死角を補えます」
「二人の感知で、範囲が広がるということか」
「はい。ただし、ソフィアさんに確認が必要です」
ソフィアが前に出た。
「動ける。ただし、私の能力は石に反応するだけだ。敵意や方向はわからない」
「石の反応がわかれば、十分です。俺が敵意と方向を追います。ソフィアさんが石の感触を追う。分担できます」
「わかった。やってみる」
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夕方、作戦を確認した。
アルヴァンが心当たりのある情報屋は、灰境線の東、廃村を通った先にいるという。
石橋から東へさらに進んだ場所だった。
「距離は」
「石橋から歩いて一時間ほどだ。ただし、夜に動くなら、二時間かかる可能性がある」
「教団の動きが活発な場合、その経路は危険か」
「危険だ。ただし、昨日の感触から見て、今夜は動きが薄い可能性がある」
「昨夜も薄かったです。ただし、今夜変わる可能性があります」
「変わった場合、どこで止まるか」
「変わった時点で引き返します。無理に進まない」
「わかった」
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夜、六人で砦を出た。
アルヴァン、ミラナ、ルカ、ソフィア、俺、それからオルドだ。
カルバは砦に残る。
ヘルトとダルグも残る。
動く人数を絞った。
俺とソフィアが前方で感知を続けた。
歩きながら、俺は感知を広げた。
「今のところ、大きな動きはありません。教団の感触もありません」
「石の感触は」
ソフィアが答えた。
「今は感じない。ただし、昨日の痕跡が残っている場所に近いと、少し気持ち悪い感触が来るかもしれない」
「昨日の痕跡の場所を通るなら、教えてください」
「わかった」
石橋を越えた。
昨日の痕跡の場所を通った。
「少し来ます。気持ち悪い感触」
ソフィアが言った。
「石の残留ですね。使った跡が残っている。今は砕かれていません」
「問題ないか」
「今は問題ないと思います。ただし、ここに誰かが来て石を砕いた場合、感知が影響を受けます」
「来た場合は知らせてくれ」
「はい」
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石橋を越えて、東へ進んだ。
森の道は暗い。
二つの月が雲に隠れている。
オルドが小さな灯りを出した。
魔力を使った、弱い灯り。
遠くからは見えにくいが、足元は照らせる。
「この灯り、見つかりますか」
「距離があれば見えない。ただし、近くにいれば見える」
「感知で前方を確認し続けます。近くに感触が来たら止まります」
「頼む」
しばらく歩いた。
胸の奥に、薄い感触がいくつか散らばっている。
動物のものが多い。
人の感触は今のところない。
「前方、人の感触はありません。ただし、後方に一つ、薄い感触があります」
「後方に」
「遠い。追ってきているのか、偶然近くにいるのかはわかりません。ただし、攻撃の気持ちではありません」
「将軍の監視か」
「可能性があります。ただし、確信はありません」
「追われている前提で動く」
「はい」
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一時間ほど歩いた頃、廃村の手前に来た。
ここで感触が変わった。
「廃村の中に、一つあります」
「人の感触か」
「人だと思います。弱い。眠っているか、体力が落ちているか。敵意はありません」
「それが情報屋か」
「わかりません。ただし、こちらを待っている感触があります」
「待っているとはどういう意味だ」
「眠っているにしては、向きが一定です。廃村の入り口を向いています。誰かを待っているような感触です」
「行こう」
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廃村に入った。
かつてヴァランの者たちが隠れていた場所だ。
崩れた家の中に、人影があった。
老人だった。
六十代に見える。
小さな灯りを持ち、こちらを見ていた。
「アルヴァンが来るとは思っていなかった」
老人が言った。
「フォーラン、久しぶりだ」
「久しぶりすぎる。何年経った」
「三年だ」
「三年で、勇者から追われ者になったか」
「事情がある」
「事情がある者しか、夜に廃村には来ない」
フォーランと呼ばれた老人は、全員を見回した。
俺を見て、少し止まった。
「人間が、魔族の方から来ている」
「転移者だ。俺たちの仲間だ」
「転移者か。珍しい」
「お前は転移者を知っているのか」
「知らない。ただし、話には聞いたことがある。魔力核を持たない者が、別の世界から来て、戦争に関わるという話を」
「その話はどこで聞いた」
「古い記録だ。俺は情報屋だが、古い記録を集める趣味もある」
「フォーラン、話がある」
「わかっている。座れ」
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廃村の中で、全員が崩れた壁を背に座った。
フォーランが小さな袋を開けた。
乾燥した果物が入っていた。
「食べながら話しなさい。夜は長い」
アルヴァンが状況を説明した。
将軍が教団の者だということ。
教団の証拠を持っていること。
将軍の上位の者に届けたいこと。
フォーランは黙って聞いた。
「将軍の上位の者とは、評議会のことか」
「人類側の最高意思決定機関だ。評議会に届ければ、将軍を止められる可能性がある」
「評議会にも、教団の者がいる可能性は考えたか」
「考えた。ただし、全員ではないはずだ。一部でも教団と無関係の者がいれば、届けられる」
「評議会への経路は、俺が持っている。ただし、時間がかかる」
「どのくらいかかるか」
「三日から五日だ。今夜動いても、将軍の動きには間に合わない」
「将軍が明日の夜明けに砦を攻撃する可能性がある」
「それを止めることは、評議会への経路では無理だ。別の手を考えろ」
「別の手とは」
「将軍の動きを、将軍の陣営の中から止めることだ」
「陣営の中から止めるとは、どういう意味だ」
「将軍の副官がいるだろう。教団の者ではないと言っていたな」
「言っていた」
「副官に届ければいい。将軍が教団の者だという証拠を。副官が動けば、陣営の中から将軍を止められる可能性がある」
「副官に接触できるか」
「俺が接触できる。ただし、一つ条件がある」
「何か」
「証拠は本物でなければならない。副官に偽物を渡せば、逆に利用される。確かな証拠を俺に預けろ」
アルヴァンが書類を出した。
「命令書の写しと、教団の印の記録だ。これで十分か」
「十分かどうかは、副官次第だ。ただし、これだけあれば、動く可能性はある」
「副官が動かなかった場合は」
「その場合は、評議会への経路で動く。時間はかかるが、長期的には有効だ」
「わかった。頼む」
「頼まれた。ただし、一つ聞いていいか」
「何か」
フォーランが俺を見た。
「転移者、あなたに聞きたい」
「はい」
「あなたは、この戦争が終わることを望んでいるか」
「望んでいます」
「なぜ」
「見た目ではほとんど区別のつかない者たちが、争い続けている。その争いの根が、実は外側から植え付けられたものだとわかった。なら、根を断つことで、争いを止められる可能性がある」
「根を断つだけで、百年以上積み上がった憎しみは消えるか」
「消えません。ただし、薄くなる可能性はあります。消えることを期待していません。薄くなることを目指しています」
「現実的だな」
「現実的でないと、動けません」
「答えが気に入った」
フォーランは書類を懐に入れた。
「今夜、動く。副官への接触は、夜明け前に行う。うまくいけば、明日の夜明けまでに将軍の動きを止められる可能性がある。うまくいかなければ、砦は攻撃を受ける」
「わかった」
「帰り道は気をつけろ。後方に一つ、追ってきている感触があると言っていたな」
俺は振り返った。
「今も後方にあります。距離が縮まっていません。同じ位置で止まっています」
「監視だな。俺がどこへ行くかを見ている」
「あなたを?」
「俺の行動を見ている者が、将軍の陣営にいる。ただし、今夜は動かない。証拠がないから」
「なぜ証拠がないとわかるんですか」
「俺が動いていないからだ。情報屋と会っただけでは、罪にならない」
「これから動けば、追ってくるかもしれません」
「来る前に、別の場所に移動する。俺のことは心配するな。転移者、一つだけ覚えておけ」
「はい」
「石の影響を受けた者は、自分が操られていることに気づかない。気づかないまま、誰かを傷つける。それが教団の恐ろしさだ。感知で気づけるうちは、まだいい」
「はい」
「ただし、感知が潰されたときが、一番危ない。そのときのために、信頼できる者が横にいることが重要だ」
「わかっています」
「わかっているなら、いい」
フォーランが立ち上がった。
「戻れ。明日の夜明けに、砦で結果を待て」
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帰り道、俺は感知を続けた。
後方の感触は、廃村で止まった。
フォーランを追っているらしい。
俺たちへの感触は薄れた。
「後方の感触が離れました。フォーランの方に向いています」
「フォーランが囮になってくれたか」
「可能性があります。意図的かどうかはわかりません」
「あの人は、いつも先を考えている。意図的だと思う」
ミラナが言った。
「三年前に会ったとき、どういう人でしたか」
「情報を売る人間だ。ただし、情報を売るだけではなく、情報の使われ方を気にする。利益のためだけには動かない」
「信頼できる人間ですか」
「信頼できる。ただし、自分の判断で動く。俺の命令には従わない。俺の判断が正しければ、協力してくれる」
「今日は協力してくれましたね」
「教団への対応が正しいと判断したからだ」
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砦に戻ったのは、夜明けの一時間前だった。
カルバが待っていた。
「どうだった」
「フォーランが動いてくれます。副官への接触を試みます。うまくいけば、夜明けまでに将軍の動きを止められる可能性があります」
「可能性はどのくらいか」
「フォーランの判断では、五分五分だと言っていました」
「五分五分か。砦の守りは強化した。もし攻撃が来ても、対応できる準備はある」
「わかりました」
「ソーイ、今夜の感知で、気になったことはあるか」
「廃村から戻る途中、一つ確認しました。後方の監視がフォーランの方に向いた後、北の方向に新しい感触が生まれました」
「北に?」
「薄い感触です。今は消えています。ただし、一時的に何かが動いた感触がありました」
「教団が北で動いた可能性があるということか」
「可能性として。確信はありません。ただし、今夜は北の確認を続けた方がいいと思います」
「続けてくれ。夜明けまで頼む」
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夜明けの一時間前、俺は見張り台で感知を続けた。
北は静かだった。
将軍の陣営は待機している。
南も東も西も、特に変化はない。
ただし、胸の奥に、薄い不快感があった。
どこから来るのかわからない。
方向がない。
石の感触ではない。
でも、何かがある。
「ソフィア」
隣に立っていたソフィアに声をかけた。
「何か感じますか」
ソフィアが少し目を閉じた。
「薄い。でも、ある。石ではない。何か別のものだと思う」
「方向は」
「わからない。どこからとも言えない感じがする」
「俺も方向がわかりません」
「何だろう」
「わかりません。ただし、気をつけた方がいいと思います」
「カルバに伝えるか」
「伝えます。方向がわからないのですが」
「わからなくても、感じていることを伝えた方がいい。あなたがさっき言った通りに」
「そうですね」
俺は見張り台から下りた。
カルバに伝える。
方向のない不快感を。
それが何を意味するかは、まだわからない。
でも、感じたことは伝える。
それが、今の俺にできることだった。
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夜明けが来た。
北の将軍の陣営は、動いていなかった。
攻撃が来なかった。
「フォーランが成功したか」
カルバが言った。
「可能性があります。ただし、確認はできません」
「将軍の動きが止まったなら、副官が動いたということだ」
「そうだと思います」
「ただし、これで終わりではない」
「将軍はまだ陣営にいます。次の手を考えているはずです」
「その通りだ。今日は、守りを続けながら、次の動きを待つ」
「わかりました」
夜明けの光が砦を染めた。
今日も一日が始まる。
教団との戦いは、続いている。
でも、今朝は攻撃が来なかった。
フォーランが動いた。
副官が動いたかもしれない。
一つ一つが積み上がっている。
小さい積み重ねだが、確実にある。
それで、今朝は十分だった。
十五日目が始まった。
次話は明後日の19:00に投稿します。
2日に1話投稿の予定になります。
よろしくお願いいたします。




