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第八話 午後三時の時限爆弾

翌日の午後2時50分。

俺は帝都銀行のロビーに併設されたカフェで、一人コーヒーを飲んでいた。


午後3時ちょうど。

ポケットの中で、偽装端末(銀行員用スマホ)が震えた。画面には『遠藤忠雄』の文字。

俺は小さく深呼吸をして、電話に出た。


「お世話になっております。霧島です」

『……ああ、霧島くん』


遠藤の声は、以前見せた余裕とは打って変わり、酷く低く、張り詰めていた。

彼は今頃、防犯カメラの映像から「霧島」が不動産屋にいるという事実と、デスクから『内偵ファイル』を発見したという報告を受けたはずだ。


『君には、驚かされてばかりだよ。君の本当の所属は、帝都銀行の法人営業部じゃないね? 監査部か? それともどこかのエージェントか』


ビンゴだ。俺の用意した二重底マトリョーシカの罠に、遠藤は完璧に落ちた。

俺はわざと数秒間の沈黙を作り、周囲を警戒するような「間」を演出した。


「……遠藤部長。誰かに聞かれていますか?」

「ご推察の通りです。私は、当行の特別監査チームから、神崎コーポレーションの資金洗浄ルートの解明を命じられています。桐ヶ丘の不動産屋に潜り込んだのは、あなたの手駒である木村に近づくためでした」

俺は息を吐き出すように嘘を並べた。当然、能力の赤い靄など出ない。俺は今、完璧に「汚職を暴く潜入捜査官」になりきっている。


『なるほど。辻褄が合う。だが、君は大きなミスを犯したな。君が近藤麻美のデータを探っている証拠はこちらにある。君の身元を完全に潰すこともできるんだぞ』


「それはどうでしょうか」

俺は立ち上がり、カフェの窓から外を眺めた。

「近藤麻美のデータは、すでに私の手元にあります」


『……なんだと?』

電話の向こうで、遠藤が息を呑む気配がした。


「遠藤さん。私は銀行の犬として一生を終える気はありません。私に相応の額を提示していただけるなら、データはあなたに渡し、私は海外へ消えます。……5億円。暗号通貨で指定の口座へ」


遠藤の沈黙が続く。俺は今、彼に「裏切り者のスパイを買収する」という、極めて魅力的で現実的な選択肢を提示したのだ。


『……今夜22時。芝浦の第4倉庫で。お一人で来てください』

「ええ。妙な真似をすれば、データは特捜部に飛びますよ」


電話を切る。

全身にアドレナリンが駆け巡っていた。いよいよ今夜、遠藤忠雄を盤面から排除チェックメイトする。

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