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第三十二話 面会室の決着

逮捕から一ヶ月後。

俺は東京拘置所の面会室にいた。

アクリル板の向こうに現れた神崎隆は、見違えるほど老け込んでいた。髪は白髪交じりになり、高級スーツの代わりにヨレヨレの拘置所着を着せられている。


「……何の用だ、霧島」

神崎の目は、暗く濁っていた。


「ご報告に上がりました。神崎コーポレーションは先日、民事再生法の適用を申請。実質的な経営破綻です。優良資産は外資と帝都銀行の系列ファンドに分割吸収され、神崎家が保有していた株式の価値は完全にゼロになりました」

「……」

「おまけに、あなたが隠し持っていた裏金ルートがすべて特捜部に割れたため、政財界の誰もあなたを助けようとはしない。あなたの『力』は、もうこの国のどこにも残っていません」


神崎が、ギリッと奥歯を鳴らした。

「貴様……。最初から、それが狙いだったのか。私の懐に入り込み、遠藤と氷室を排除し、私を孤立させ……最後に私の金を奪うのが」


「ええ。ですが、少し違います」

俺はアクリル板に近づき、声を潜めた。


「俺は、あなたの金が欲しかったわけじゃない。……俺は、あなたが一番大切にしていた『帝国』が、他人に食い荒らされて無惨に解体されていくのを、あなたに安全な檻の中から見せてやりたかったんです」


神崎の目が、驚愕に見開かれた。

「貴様……。私に個人的な恨みでもあったというのか?」


「俺の婚約者は、神崎コーポレーションが強引に地上げを行った地域の出身でした。彼女はあなたの手駒だった半グレに口封じで殺された。……そして、俺も」


神崎の口から、**濃密な赤い靄**が噴き出した。

「……そんな小娘の命一つで、一兆円の帝国を潰したというのか! 貴様は狂っている!」


「ええ。俺は狂った詐欺師ですよ。だが、その狂人に足元をすくわれたのが、あなたの現実だ」

俺は席を立ち、冷ややかに言い放った。

「せいぜい、長生きしてください。あなたがすべてを失い、誰からも忘れ去られていくのを、外から楽しみに見ていますから」


面会室を出る時、背後から神崎の狂乱した怒号が響いたが、俺は二度と振り返らなかった。

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